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十歳の最強魔導師  作者: 天乃聖樹


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女王と魔女

 ライラの胸の中で、黒雨の魔女は小さな声を漏らす。


「どうして……ライラがここに……? すべては悪い夢だったというのか……? ライラが死んだのも、わらわが人類と戦ったのも、すべて泡沫の夢……?」


 混乱しきっている魔女の頬を、ライラが両手で挟み、真っ直ぐに目を見つめる。


「いいえ、すべては現実。わたしは死んで、あなたは狂った。隷属戦争が引き起こした悲劇は、なかったことにはできない。目をそらさないで、レイン」


「……っ」


 黒雨の魔女は唇を噛み締める。


「だけど、わたしは戻ってきた。それも現実。あなたとずっと一緒にいるために。二人で永遠の贖罪を果たすために。女王様のおかげで、わたしは天使として蘇ったの」


「フェリスのおかげで……?」


「そう。残念だけど、のんびりおしゃべりしている時間はないわ。レイン、あなたが今やらなければいけないことは、なに?」


「わらわは……」


 広場を見回す魔女。


 魔法学校の生徒が大量に膝を突き、物言わぬ彫像と成り果てている。魔女の呪縛と結界が解けてもなお、生徒たちは解放されていない。


 『探求者たち』の術師が魔法生物イジラクドラの上に屹立して、憎々しげにライラと魔女を睨んでいた。


「あやつを潰さねば、終わらぬか」


「ええ」


 うなずくライラ。


「二千年の積もる話もある……さっさと片付けて茶にするぞ! フェリス、もう一度わらわに力を貸してくれ!」


「はいっ!!」


 女王と魔女と天使が、『探求者たち』への攻撃を開始する。


 ライラが魔法生物イジラクドラの触手を叩き切り、レインが瘴気で溶解させ、フェリスが強靱な結界で反撃を防ぐ。


「天使のはずがない……天使が我々に敵するわけがない……我々は女王様のしもべなのだから!! 貴様は紛い物だ!!」


 術師は逆上して幻惑魔術を行使する。


 周囲に映し出される、ライラが惨殺されたときの光景。


「や、やめろ…………」


 それを見た途端、黒雨の魔女は胸を掻きむしって苦しみ始める。その体が冷たく凍りついていく。


「しっかりして、レイン! あれは幻よ! わたしはあなたと一緒にいるわ!」


 ライラが抱き締めると、黒雨の魔女は我に返る。


「っ! そうだ、そなたは戻ってきた……もはやわらわを苦しめることのできる者はおらぬ! 弄べる者はおらぬ!」


 魔女が目を見開くと、全身から瘴気が放たれ、周囲の幻影を掻き消した。


 天使ライラが黒雨の魔女を抱きかかえ、フェリスのかたわらに舞い降りる。


「行きましょう、レインさん!」


「ああ! わらわのすべてをフェリスに委ねる!」


 フェリスとレインは手の平を重ね、魔法生物イジラクドラに向かって突き出して、共に言霊を叫ぶ。


「闇よ、光よ、二つの力よ! 我らは断罪する、数多の咎を! 我らは禁じる、冒涜の息吹を! 顕現せよ、ルーラーズパニッシュメント!!」


 真実の女王と黒雨の魔女の、連携魔術(コープ)。


 膨大な魔力と瘴気が融合し、桁外れのエネルギーに世界が軋む。


 眩い漆黒の光輝が弾け、爆発し、刹那にして魔法生物の巨体を消し飛ばした。

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