女王と魔女
ライラの胸の中で、黒雨の魔女は小さな声を漏らす。
「どうして……ライラがここに……? すべては悪い夢だったというのか……? ライラが死んだのも、わらわが人類と戦ったのも、すべて泡沫の夢……?」
混乱しきっている魔女の頬を、ライラが両手で挟み、真っ直ぐに目を見つめる。
「いいえ、すべては現実。わたしは死んで、あなたは狂った。隷属戦争が引き起こした悲劇は、なかったことにはできない。目をそらさないで、レイン」
「……っ」
黒雨の魔女は唇を噛み締める。
「だけど、わたしは戻ってきた。それも現実。あなたとずっと一緒にいるために。二人で永遠の贖罪を果たすために。女王様のおかげで、わたしは天使として蘇ったの」
「フェリスのおかげで……?」
「そう。残念だけど、のんびりおしゃべりしている時間はないわ。レイン、あなたが今やらなければいけないことは、なに?」
「わらわは……」
広場を見回す魔女。
魔法学校の生徒が大量に膝を突き、物言わぬ彫像と成り果てている。魔女の呪縛と結界が解けてもなお、生徒たちは解放されていない。
『探求者たち』の術師が魔法生物イジラクドラの上に屹立して、憎々しげにライラと魔女を睨んでいた。
「あやつを潰さねば、終わらぬか」
「ええ」
うなずくライラ。
「二千年の積もる話もある……さっさと片付けて茶にするぞ! フェリス、もう一度わらわに力を貸してくれ!」
「はいっ!!」
女王と魔女と天使が、『探求者たち』への攻撃を開始する。
ライラが魔法生物イジラクドラの触手を叩き切り、レインが瘴気で溶解させ、フェリスが強靱な結界で反撃を防ぐ。
「天使のはずがない……天使が我々に敵するわけがない……我々は女王様のしもべなのだから!! 貴様は紛い物だ!!」
術師は逆上して幻惑魔術を行使する。
周囲に映し出される、ライラが惨殺されたときの光景。
「や、やめろ…………」
それを見た途端、黒雨の魔女は胸を掻きむしって苦しみ始める。その体が冷たく凍りついていく。
「しっかりして、レイン! あれは幻よ! わたしはあなたと一緒にいるわ!」
ライラが抱き締めると、黒雨の魔女は我に返る。
「っ! そうだ、そなたは戻ってきた……もはやわらわを苦しめることのできる者はおらぬ! 弄べる者はおらぬ!」
魔女が目を見開くと、全身から瘴気が放たれ、周囲の幻影を掻き消した。
天使ライラが黒雨の魔女を抱きかかえ、フェリスのかたわらに舞い降りる。
「行きましょう、レインさん!」
「ああ! わらわのすべてをフェリスに委ねる!」
フェリスとレインは手の平を重ね、魔法生物イジラクドラに向かって突き出して、共に言霊を叫ぶ。
「闇よ、光よ、二つの力よ! 我らは断罪する、数多の咎を! 我らは禁じる、冒涜の息吹を! 顕現せよ、ルーラーズパニッシュメント!!」
真実の女王と黒雨の魔女の、連携魔術。
膨大な魔力と瘴気が融合し、桁外れのエネルギーに世界が軋む。
眩い漆黒の光輝が弾け、爆発し、刹那にして魔法生物の巨体を消し飛ばした。




