煉獄
精錬界は、不定形の闇に満たされた虚ろな空間だった。
フェリスがエウリュアレを伴って狭間の空間に足を踏み入れるとすぐに、背後で扉が閉じ、見えなくなってしまう。
どこに地面があるのか、いや、そもそも地面が存在するのかどうかさえ分からず、フェリスは慌てる。
「わっ、ふわわっ!? 落ちちゃいますーっ!」
「大丈夫でございます、女王様。お望みなら飛ぶことだってできますし、貴女様が認識すれば大地すら現れるのですから」
「……にんしき?」
「地面があると、そう思ってくださればよろしいのです」
「地面がある……地面がある……あっ、ホントです!!」
いつの間にか足が硬い感触に触れ、フェリスは人心地つくのを感じた。といってもその感触はあやふやで、少し意識をそらすだけで消えてしまいそうなところに不安が残る。
「ライラさんは、どこにいるんでしょう?」
「私ごときには分かりません」
「ふえ!? この真っ暗な中から探すんですか!?」
「女王様なら、お逢いになりたいと願うだけで、そこに到達することがおできになるでしょう」
「そなんですね……?」
「その娘の魂の色と質を思い浮かべ、耳をお澄ましくださいませ」
フェリスはライラの姿を胸に思い描きながら、闇の中をてくてくと歩いた。
辺りは真っ暗なのに、なぜか心細いとは感じない。むしろ、自分の庭を散歩しているような、落ち着いた感覚。
そして。
「あ、あの、ぎゅってされてると歩きにくいんですけど……」
フェリスはさっきからずっと背中に抱きついているエウリュアレに、恐る恐る告げた。抱きついているというか、これはもはやおんぶの体勢である。
「申し訳ございません、女王様。さすがの私どもも、狭間の空間を一人で移動するのは少々厳しいものがございまして。女王様とはぐれたら迷子になる危険性があるのです」
「お、おんぶじゃなくてもいいですよね? 手を繋ぐとかでも……」
「そんな! しもべ風情が女王様と並んで歩くなんて許されません!」
「許されますようっ! おんぶより簡単ですっ!」
フェリスは今まで誰かをおんぶしたことが一度もなかった。それはそうだろう、フェリスより小さな子供と接触する機会などなかったのだから。しかもエウリュアレの背丈はフェリスの何倍もある。難しいどころの身長差ではない。
「では……失礼いたしまして」
エウリュアレは抱きつくのをやめ、嬉しそうにフェリスの手を握ってくる。その表情は母親の手を求める幼子そっくりなのだが、身長差では逆である。フェリスが迷子になりそうなのか、エウリュアレが迷子になりそうなのか、疑問が生じるレベルだ。
精錬界を進んでいると、やがて二人の前方に淡い光が見えてきた。




