森羅の鍵
真実の宮殿の小径を、エウリュアレがフェリスを先導していく。
妖艶な美女の姿をしたエウリュアレは、その長いドレスの裾を地面に着けもせず、わずかに宙に浮いて進んでいる。
湖面を思わせる水面に、クリスタルの薄板が点在する小径。辺りには美しい音楽が静かに流れ、遠い星々がささやいている。
トレイユの街とも、魔法学校とも、いや、地上のいかなる場所とも異なる奇妙な風景なのに、フェリスにはそこが無性に心地良く感じられた。
そう、あたかも……ここが己にとっての家、真の居場所であるかのように。
やがて、小径の向こうに白銀の扉が見えてきた。扉には大きな錠前がつけられ、鎖でがんじがらめに縛られている。
エウリュアレは扉の前で立ち止まると、フェリスの方を振り返った。
「この扉の先が、現世と来世の狭間、精錬界でございます」
「鍵、閉まっちゃってますね……」
「無論でございます。死者の魂は現世から来世に向かうのが道理……彼らが真実の宮殿に押し寄せてきてしまっては、世界の秩序が乱れますから。『森羅の鍵』がなければ、誰も理に逆らうことはできません」
「しんらのかぎ……? その鍵は、どこにあるんですか?」
「そちらに……女王様が持っていらっしゃいます」
エウリュアレが、フェリスの手を指し示す。
そこには、眩く光り輝く大きな鍵が握られていた。
「ふえっ!? い、いつの間に!? なんで持ってるんですか!?」
「貴女様が、主であらせられるからです」
「あるじ……?」
フェリスにはわけが分からない。思わず鍵を取り落としてしまいそうになるが、鍵は手から離れるやすぐに光の粒子となって消え、フェリスの手に再び出現する。
しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。フェリスは鍵を握り締めて、扉へと足を踏み出す。
「……女王様。一つ、ご忠告を。たとえ主でございましても、世界の理を崩すことには限界があります。繰り返せば繰り返すほどに理は崩れ、やがてすべての消滅を招くでしょう。狭間に生まれ真実に棲む私どもは構いませんが、女王様の愛する人間たちは無事では済みません」
「……どゆことですか」
「今回で魂を狭間から横取りしてしまえば、次はない。要するに、女王様のご友人たちが死んだときに、同じ方法で救うことはできなくなるということです。それでよろしいですか?」
「…………っ」
フェリスはたじろぐ。
けれど、すぐに頭を振って。
「アリシアさんたちは、死なせないです。それに……今なんとかしてライラさんを連れて行かないと、学校のみんなが死んじゃいますから」
「かしこまりました。では、鍵を扉へ」
「はい!」
フェリスは白銀の扉に、輝く鍵を差し入れる。
漆黒の光を放ちながら、狭間への扉が開いた。




