それぞれの家へ
残された少女たちはしばらく呆然としていたが、最初にアリシアが我に返り、ロバートへと駆け寄った。
「お父様! 大丈夫!?」
「ああ……私は問題ない」
ロバートは微笑してみせるが、その顔はやつれきっている。魔力を加減なしに使われたときの影響か、爪や皮膚の端々からは血が滲み出していた。
立ち上がるのもつらいのか、床に手を突いて弱々しく息をしている。
「まさか……お前たちにここで会うとは思わなかった。いったいどうして……」
「お父様を助けに来たのよ。フェリスも、ジャネットも、一緒に来てくれたの。ガデル族の長さんも……今はフェリスに協力してくれているわ」
「そうか……すまない。私が不甲斐ないばかりに、お前たちに無理をさせてしまって。やはり私は魔術師団長の器でなかったのだな」
ロバートがため息をつくと、ジャネットが背をそらす。
「ま、まあ、魔術師団長にふさわしいのはわたくしのお父様ですけれど、無理なんてしていませんわ! ラインツリッヒならこれくらい簡単ですし、その……友……クラスメイトのためですもの!」
友達のため、とは恥ずかしくて言えないジャネットである。
フェリスは手を握り締め、縮こまってロバートに歩み寄る。
「ご、ごめんなさい、ロバートさん……。痛い思いさせちゃって……怒ってますよね?」
「怒っているわけがないだろう。ありがとう、フェリス。大切な娘を傷つけないよう、私を止めてくれて。本当に、感謝する」
深々と頭を下げるロバートに、フェリスは慌てる。
「わわわわっ、そんな、感謝とか要らないですっ! わたしなんてっ、家族でもないのにいつもアリシアさんとロバートさんにお世話になりっぱなしですし、優しくしてもらうのはもったいない奴隷ですしっ、ちょっとでも、ほんのちょっとでも、お手伝いできたらなって、思っただけで!!」
「フェリス……」
そういうふうに考えていたのかと、アリシアは胸が苦しくなる。よかれと思ってやってきたことが、実はフェリスの負担になっていたのだ。
あまりにも、フェリスは謙虚だから。
自分が好意や人並みの生活に値するなどとは、想像もしないから。
アリシアは、そっとフェリスの手を取る。
「あなたは……私の家族よ」
「……ふえ?」
きょとんと、フェリスが目を瞬いた。
「血は繋がっていないけれど、私はフェリスとずっと一緒にいたいと願っているし、そうするつもりでいるわ。私にとって、フェリスは妹のような、いいえ、もっと大切な人。私に命をくれた、未来をくれた、最高の毎日をくれた人。誰よりも可愛らしい人。あなたは……大好きな大好きな家族なのよ?」
「か……ぞく……」
見開いたフェリスの瞳から、ぽろぽろと涙が落ちる。
「ど、どうしたの? そんなに嫌だったかしら?」
「そうじゃ、ないんです……。胸がぎゅうううってなるんですけど、嫌じゃないんです。嬉しいんです……わたし、ずっと寂しかったから。家族とか、羨ましかったから。ありがと……ございます……」
フェリスがアリシアに抱きつく。力の限り、離れまいとする。アリシアはフェリスの頭を静かに撫でる。
「ちょ、ちょっと! ずるいですわ! それならわたくしだってフェリスの家族になりますわーっ!!」
ジャネットがフェリスの腕を掴んで引っ張る。
賑やかな少女たちを見守り、ロバートとバルフは顔を見合わせて笑う。
しばらくして場が落ち着くと、バルフが言った。
「俺はガデルの村に戻る。一族の者たちを説得し、ナヴィラとの争いを終わらせよう」
ロバートがうなずく。
「私はナヴィラの説得と、バステナ王国内の調整を図ろう。探求者たちが望むような全面戦争を起こさせるわけにはいかない」
「でも……探求者たちは、どうして戦争を起こしたいのかしら……?」
考え込むアリシア。
ジャネットが肩をすくめる。
「そんなこと、今はどうでもいいですわ! 捕まっている人たちを解放して、早く帰りましょう」
「そうね。帰りましょう……私たちの家へ」
アリシアはフェリスの手を優しく握り締めた。
紛争編、ひとまず完了です。
まだまだ火種は残っていますが……。
次週より、転入編がスタートします。
しばらく大きな騒動が多かったので、
魔法学校でのほのぼの生活も描きたいな、と。
引き続き、どうぞよろしくお願いいたします!
そして転入生はいったい……?




