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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第十章 四国会議
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武器屋の看板娘

 闘武会の直後は外を歩くだけでひっきりなしに声を掛けられたものだが、今回は非常に楽だった。

 私よりもよっぽど目立つアカネに加えて風の大精霊まで現れたので、視線は自然とそちらに集まることになった。


「じゃあ入りましょうか」


 そう言ってニールさんが武器屋の扉を開き、押さえておいてくれる。

 私とアカネが入るのを見てから自分も入り、扉が閉じられた。

 カラカラとドアベルが鳴る。


「いらっしゃいませー。あら、ニールさんお久しぶり」

「お久しぶりっす」


 店内に入ると、金属や皮製品が放つ独特の匂いが鼻についた。

 若い女性の店員が挨拶をしてくれる。

 彼女はニールさんとは面識があるようだ。

 そして私の姿を認めると、おや? という顔をした。


「魔法剣士のカティアさん! ですよね?」


「そうですが……」

「私ファンなんです! 握手して下さい!」


 頬を紅潮させた女性店員が握手を求めて来た。

 応じると嬉しそうに手を握り返してくる。

 この様子だと、武器屋の店員だけあって闘武会でも見ていたのだろうか?

 しっかりと握った後に少し名残惜しそうに手を離すと、思い出したかのように営業トークに戻る。


「それで、今日はどんな御用ですか? 武器防具の購入、修理からオーダーメイドまで何でもどうぞ!」


「カティアさん、まずは――」

「そうですね。新しい防具が欲しいので、一通り見せて頂けますか?」


 防具の方が個人の体型に合わせた細かな調整が必要だ。

 既製品を調整するにせよオーダーメイドするにせよ、武器と比較して時間が掛かる。


「では、こちらにどうぞ!」


 店員さんの案内で広い店を進むと、私の陰に隠れていたアカネがあさっての方向にふらふらと歩いて行く。

 物を壊す心配は皆無なので、店内に居るなら特に問題は無いだろう。


「? 今の、妹さんですか? そっくりの赤毛でしたけど、まさか子持ち……?」

「違いますよ! 何ていったらいいのか、確かに妹のようなものです。店の物には触れたり壊したりしないように言ってあるので、その――」

「あぁ、大丈夫ですよ。うちの商品は全部頑丈ですから! ただ、刃物や尖った物には近づかないように注意してあげて下さい。さ、行きましょう」


 店員さんの方から姿が見えたのは一瞬だったので、アカネが棚を貫通して進んでいったのは見咎められなかったようだ。

 一から説明するのは大変なので、気付かれないならばそれで構わない気がする。

 ニールさんが若干、気まずそうな顔をしているが。


「元々は武器だけを扱っていたんですけど、取り扱いを始めたら段々と売り場が広くなっちゃって。今ではこんな感じです」


 店員さんの言葉通りに防具の棚は店の面積の半分ほどを占めており、様々な種類の鎧や盾が置いてあった。

 早速、どんな物が良いのかを絞り込んでいく。


「なるべく軽くて丈夫な物が良いのですが」

「またレザーアーマーにしますか? カティアさんなら、全身を覆うものよりも急所だけを守れば充分だと思うっす」

「いえ、今回は金属製の物にしようかと。前回の戦いで金属製の篭手があれば捌ける、という場面が多かったので」


 眷属のオーラは強力で、いくらこちらがオーラで増強しても皮の鎧では限界があるように感じた。

 その結果があちこち裂けたあの状態である。

 金属製なら避けずに済む攻撃もあったので、この機会に変えておきたい。

 そんな私とニールさんの会話を聞いた店員さんが、手の平をポンと合わせて提案する。


「では、試着してみませんか? スケイルアーマー、ラメラアーマー辺りが軽いですからお勧めです。ニールさん、少しあっちを向いてて下さいな」

「うっす」


 店員さんが防具を持ってきたので、邪魔になりそうなジャケットを脱ぐ。

 私達以外にお客さんは居ない様なので、特に視線を気にする必要は無い。

 脱いだものは店員さんが持ってきてくれた籠の中へ。


「うわ、身体のラインが出るとすっごい迫力……張りもあって羨ましい……」


 小声で店員さんが呟いた。

 恥ずかしいのでやめて欲しい……。

 上半身を覆う薄いインナーの上にスケイルアーマーをけてみる。

 金属の小片が重なり合った構造という都合上、特にサイズの差異を気にせずに着ることが出来た。

 中には布が張ってあり、思ったよりもゆったりとした着心地だ。


「もういいですよ、ニールさん」


 店員さんに呼ばれてニールさんが振り返る。

 私は彼の前で軽く腕を振ってみたりステップを踏んだりしてみた。

 うーん。


「何だか、だぼっとしていて落ち着かないです」


 どうもしっくりこない。

 ニールさんも見ていてそうなのか、どこか思案顔だ。

 

「体にぴったり着ける装備ではないっすからねぇ。しかも、失礼っすけどあんまり似合っていないような」

「カティアさん、華やかな容姿ですからねー。鱗状の武張ぶばった模様が今一つミスマッチだわ……この分だとラメラアーマーも似た様な感じですかねぇ」


 長所を挙げるなら可動域が広く、一定の動き易さがあると思うが……重さも皮鎧よりも重いとはいえ特に問題ないし。

 それでも、やはり違和感が大きいので却下かな。

 一応部隊指揮を行う身なので、目の前の二人が言う様に見た目も重要な要素だろうし。

 ニールさんが再び後ろを向き、私が鎧を脱いだ所で店員さんが恐縮した様子で訊ねて来る。


「あの、ちなみにご予算はどのくらいなんですか?」


 ああ、まだ言っていなかったな。

 どの程度の物を希望しているのか把握していないと、店員さんも商品を勧め難いか。


「そうですね……五百万ルシ(五千万円)くらいまでなら」


「ご、ごひゃくまん……!? で、でも闘武会の賞金を考えたら、変じゃな――いや、やっぱりおかしいですよ!」


「法外な額っすよね……改めて聞くと」


「ニールさん、まだこっち向いちゃ駄目です!」

「はいっ!」


 店員さんの注意に、ニールさんが再び後ろを向いて直立不動になる。

 だが余りにも高い予算に混乱したのか、店員さんの目が回りだした。

 確かに高いが……これから戦争になる可能性は大きいし、命を守るための防具をケチって死んだら目も当てられない。

 私が上着を羽織ると、店員さんが意を決したかのような表情で告げる。


「だったらご提案が! いっそ体に合わせた金属鎧をオーダーメイドしませんか!?」

「え? でも、それってかなりの時間が掛かりませんか?」

「大丈夫です! それだけの予算があれば、寸法を詳しく測って早馬を走らせれば……あちらにとっても出荷先ではウチが一番大きいんだし、四国会議が終わるまでには! どうですか!!」


 私は助けを求めてニールさんを見た。

 これは武器屋からしてみればまたとない商売のチャンスだ。

 逆に言うと、私カモられていませんか? という確認。


「……何処の鍛冶屋に依頼するんすか?」

「マークさんの所です。最近はヴァンさんが武器、マークさんが防具と力の入れ所を分散させたみたいで」

「ふむ。カティアさん、マークさんの仕事なら確かだと思うっす」


 鉱山都市キセでお世話になったヴァンさんと同格の鍛冶屋だっけ?

 ニールさんは会ったことがあると話していた。

 今も確信を持った口調で話すので、彼にとっては信用に足る人物ということらしい。


「で、見積もりはどうなんすか?」

「急ぎで仕事の精度も落とさないとなると……この位あれば、最上の物が出来ます」


 生産者に問題がないと見るや、今度は値段の話に移っている。

 私は武器や防具の相場については分からないので、こういう時のニールさんは本当に頼りになる。

 やがて話が終わるとニールさんがこちらを向いた。


「カティアさん、マークさんの防具で最高級の物は大体百万ルシほどっす。それを踏まえた上で聞いて下さい。カティアさん用の鎧は……倍の二百万で出来るそうです。どうしますか?」


 二百万ルシ(二千万円)か……。

 質は保証されているし、特に悩む理由も無いかな。


「買います」

「決断早いっすね!? 家が建つレベルのお金をあっさりと……」

「思い切りが良くて素敵です! ありがとうございます! 早速、採寸と完成のイメージを作りましょう!」


 店員さんが両手で大きなガッツポーズをした。

 そして一度奥に引っ込むと、寸法を測る為の紐を見せて手招きをする。

 どうやら、正確に測るから見えない場所に来て全部脱げよ! という事のようだ。

 指示に従って奥へ向かうが、その途中でニールさんに一声掛ける。


「あ、ニールさん! アカネを探して確保しておいて下さい!」


「了解っす」





 長い採寸が終わり、私はパーツ分けされた鎧を身に着けていた。

 全身ではなく篭手こてすね当て、腰部分と肩部分といった限られた場所に鎧を着けている。

 それを見て店員さんが何かを呟きながら紙に情報を書き込んでいく。


「……本人の要望で受け流しに適した……でも折角美人だし……こうすれば、うん……いい感じ……!」


 最終的にニールさんの意見を取り入れ、急所を重点的に守れる金属製の軽鎧を依頼するという形に落ち着いた。

 今装備しているのは、話し合いながらイメージに近いものを既製品で組み合わせた寄せ集めである。

 正直、着たり外したりで疲れた……。

 ただ、吟味ぎんみしている間に他のお客さんが来なかったのは運が良かった。

 おかげで店員さんが付きっ切りで防具選びを補助してくれた。

 ――そんな私を見てアカネが首を傾げる。


「お姉ちゃん、何で上半身は防具を何も着けてないの?」

「……アカネ。プレートアーマーはね、伸縮しないんだ……」

「入らなかったんだね?」

「……」

「入らなかったんだよね? つっかえたんだよね?」

「…………」


「ま、まあまあアカネちゃん、その辺で……カティアさんが涙目に……」


 泣いてない。

 それに完成品にはちゃんと胸当ての部分も含まれるので問題ない。

 何も鎧を着けていない上半身には、店員さんが貸してくれた袖の無いシャツを着ている。


「よぉし、完成です! 直ぐに発注をかけないと……!」


 ペンを走らせる音が止まり、そのまま急いで店員さんが外に出て行こうとする。

 私は慌ててそれを引き留めようとした。


「あ、まだお金を払っていませんよ! それと店番は……!?」

「身元がしっかりしているお城勤めの方なので、後からでも大丈夫です! それと、もうすぐ父が帰ってくるので何かありましたらそちらに言って下さいー!」


 そのまま私達を置いて去ってしまった。

 ……最後まで体が透けているアカネには気付かなかったな。

 残された私達は、全員で顔を突き合わせて相談する。


「……どうしますか?」

「このまま店を無人にするのは不用心ですし、まだ短剣も見たいっすよね? ……仕方ないので、店主が来るまで商品を見ながら待っていましょう」

「それしかないよねー」


 話が纏まった所で二人に少しの間だけ待ってもらい、私は奥の部屋で鎧とシャツを脱ぐと一ヶ所に固めて置いた。

 上着を着込んで二人の元に戻る。

 その後、私達は防具の棚から移動して短剣がある場所を探すことにした。

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