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剣聖の弟子  作者: 二階堂風都
第十章 四国会議
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風の大精霊

 ニールさんの案内を受けて、私達は武器屋に向かった。

 アカネが先頭でぴょんぴょんと跳ねて走っている。

 久しぶりに実体化したまま動き回れるのではしゃいでいるようだ。


「……そうっすよね、アカネちゃんも一緒っすよね……久しぶりに会えて早々に二人きりだなんて、うまい話は無いっすよね……」

「ニールくん、どうして落ち込んでるの?」

「何でもないっす……それよりも武器屋はあっちです。三人でしっかりカティアさんの装備を選びましょう!」

「おー!」


「お、おー……?」


 落ち込んだり張り切ったり、さっきからニールさんが妙に忙しいな……?

 必要なものは短剣と体に着ける防具だ。

 予算に関しては大抵の物を買えるだけあると思う。

 闘武会で得た日本円に直すと億に近い賞金があるので、高い質の物を選んでも何も問題ないだろう。

 石畳が綺麗に敷かれた、王城から続く大通りを三人で歩いて行く。

 闘武会の時ほどではないが、四国会議による刺激からか平時よりは人通りが多い。

 それにしても――


「おわっ!? って何だ、大精霊様か」


「あらー、めんこい大精霊様だこと」


 大精霊の存在を既に街の人々が認知している、とニールさんに聞いたのでアカネが姿を見せたままだが、本当に何も混乱が起きていない。

 元気よく人ごみに突貫しては人の体をすり抜けたりしているが、された側は驚きはするもののそれ以上の目立った反応を見せずに通り過ぎて行く。


「ここまで実体化した精霊に慣れているなんて……私が居ない間に何があったんですか?」

「あー……カティアさんは他の大精霊様にはお会いになられたっすか?」

「会っていませんが……大精霊“様”? どうして敬称になっているんですか?」


 圧倒的な力の権化である大精霊だが、意識の集合体である彼等は茫漠とした存在だ。

 その為か敬称がどうも馴染まないし、彼等も特にそういうものは求めていないと思っていたのだが……。

 ニールさんは私の質問に、どう話すべきか迷っているようなそぶりを見せている。

 私達の歩みが遅くなったのを見てアカネが傍に駆け戻って来た。


「えーとですね、今の大精霊には人格があるんすよ」

「人格? アカネのようにですか?」

「お姉ちゃん、何のお話ししてたの? 大精霊?」


 私は少しの間、黙っているようにポンポンとアカネの頭に手を置いた。

 取り敢えずこのまま聞いて貰って、分からない所は後で私が教えれば良い。

 ニールさんが説明し難そうにしているので、ここで話の腰を折るのは気の毒だ。


「本人達が言うには集合意識の代理人格で、正確には個人ではない。しかし、話をする際には個を持っていると思って貰って構わないと」


 分かり難いが、大精霊毎にコミュニケーション用の人格を一つずつ作り上げたってことか?

 代理人格か……どんなものなのか、会ってみないことには想像がつかないな。

 街の人々の反応を見る限り、それらは姫様から離れて街を自由に動き回っているようだけれど。


「ルミア様が姫様への負担を考えて大精霊に提案したんすよ。意識に指向性を持たせることで頭に響く雑音を抑えることが目的……らしいっす。自分には良く分からないんすけど」


 ああ、あの思念の奔流を抑えるためか。

 姫様は平気だと言っていたが、勿論対策を講じるに越したことはない。

 ルミアさんも色々と考えてくれているようだ。

 それで姫様の負担が減れば大精霊を介した魔法も――


『ボクらを呼んだかい?』


 ――! 思考の途中で空から唐突に声が落ちてくる。

 ふわりと舞う様に、その女性は私達の目の前に軽やかに降りて来た。


「丁度いいところに! カティアさん、この方が風の大精霊様っす」


 この人が?

 しかし随分と都合の良いタイミングで現れたな……。


『ボクらが此処に来たのは偶然じゃない。風に乗って流れてきた君達の思念を感じ取ったからだよ。火に連なるものたちよ』


 心を読んだかのような一言に、思わず心臓が跳ねる。

 その容姿を観察すると、女性的でありながらも活動のしやすさを追求したような軽装をしている。

 髪はショートカット、艶のある緑色の服を細身の体に着ているが……その体は透き通って薄く発光している。

 これはアカネと同じような状態だ。

 ならば、ニールさんが言う通り本当に――


「貴女が風の大精霊ですか」

『そうさ。風や空気はこの大地の何処にでも在る。距離なんて些細な問題、呼ぶ声があれば直ぐに感じ取れる』


 つまり感知能力が高いってことか?

 二人に増えた大精霊に、さすがに通りの人々も騒がしくなる。


『ふんふん、そうか、成程。確かにこれは彼が気に入る訳だ……いや、ボクらとの相性もあながち悪くないか? ――うん、これは面白いな』


 そして彼女……と呼んで良いのか、風の大精霊は私を眺めながら周囲をぐるりと回る。

 一周して戻ると、私と目を合わせてから口角を持ち上げた。


「あの……一体何を?」

『大精霊は、かつてこの国に関わった者達が元となって代理人格を形成している。ボクは過去にミストラルと呼ばれていた女だ。詳しくはそこの青年に聞くといい。また会おう――カティア、アカネ』


 それを最後に、文字通り風の様に大精霊は去って行った。

 言いたい事だけを一方的に話して……。

 人を探る様に無遠慮に見ていたし、一体何がしたかったのだろう。

 私達を避けて歩いていた人の流れも、風の大精霊が居なくなったことによって徐々に戻っていく。


「しかし、以前と違ってかなり人間臭くなりましたね……何を考えているのか分からない部分もありましたけれど」

「風の大精霊様は特にそうなんすよ。まあ、あの方が仰ったようにガルシアの歴史上の偉人が代理人格なので、皆が敬称で呼んでいる感じっすね。姿もそれを再現しているらしいですし」

「じゃあ、ミストラルというのも?」


「初代王、ジーク様に仕えたエルフの魔法使いっすね。一説には出奔したエルフ国のお姫様だったとも言われています」


 それは何とも強烈な出自だ。

 ジークの仲間か……火の大精霊の中で戦ったジークも個性的な性格をしていたな。

 類は友を呼ぶというか、彼女も相当変わった性格のようだ。


「お姉ちゃん、もう喋ってもいい?」

「あ、ごめんごめん、いいよ。彼女が風の大精霊らしいんだけど、話、分かった?」

「他の大精霊とお話ししやすくなったってことは分かった!」


 元気よく手を挙げて答えるアカネ。

 私はその言葉に間違いが無いかを考え、考え――しかし、何も思いつかなかった。

 姫様の負担だとか、ああなった経緯や目的などの情報は抜けているが、アカネの発言も特に間違ってはいない。

 小さな吐息と共に軽い笑いが込み上げて来る。


「……難しく考えずに、その理解の仕方が一番かもしれないですね」

「ははっ、そうっすね」

「え? わたし変なこと言った?」


 そこまで話した所でニールさんが立ち止まる。

 大通りから少し入っただけの広い道に、その大きな店は在った。

 どうやら着いたらしい。


「――着きました。他の大精霊については後ほどお話しするっす。そこがガルシアで最大手の武器屋になります」

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