↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白玉楼の門番  作者: 結音
8/9

迎えの来る日

あの…幽香さん?

何故、私に平手打ちを…


そんな言葉は無視され、彼女の手のひらは迷いなく私の左頬に直撃した。


頬に痛みが走ったかと思うと、瞬間的な浮遊感が私を襲い…

背中に謎の痛みを覚えた。


「文子さん。おはようございます!」


…説明しよう。

簡単に言えば平手打ちをする幽香さんは夢で、平手打ち自体は夢ではなかった。


眩しいくらいの笑顔を私に向ける優花さん…


そんな笑顔を浮かべながら、私の頬をぶったわけで…その痛みが原因で転がり悶えた結果がこれだ。


「笑顔で暴力とか、ドン引きですよ?優花さん。」


「暴力…ですか?

愛情表現だと思いますけど…」


私の言葉に対し、首をかしげて彼女は言った。


…一体、どんな教育を受けて育った!?と口に出そうとしたが、その言葉は留めることにした。

そう、幽香さんと一緒に暮らしているのだから当然の結果。自分にはそう言い聞かせた。


「それにしても、文子さんの半べその顔は可愛いですね。

幽香さんの気持ちがわかりますよ~」


「……」


語尾に音符が付きそうなほど彼女は陽気だったが、その言葉は聞こえなかったことにしよう。


さて、と私は身を起こしてベッドを整理し、部屋を出た。


「朝から、いい顔をしてるわねぇ。」


半べそ顔の私を見て幽香さんは言った。


…この家に普通人格の住人は居ないのだろうか。と、つっこんでやりたくなったが、それもまた声にすることはなかった。


何故って、結果が見えているから。

声に出せばきっと、何かしらが私めがけて飛来することだろう。


拳とか傘とか、近くにあるフォークとかナイフとか、皿は…流石に投げないか。


「…今、とても貴女に対して殺意が沸いたのだけれど、気のせいかしら?」


「気のせいです。」


彼女の問いに私は即答した。全く、朝からなんて恐ろしいことを言い出すんだ、この方は…。


とか思いつつ、テーブルの上に朝食が用意されていることに気づいた。


「あれ…朝食の準備は私がするんじゃ…?」


そう私が言うと、二人のユウカさんはちょっぴり優しい笑みを浮かべて言った。


「今日、あいつが貴女を迎えに来るそうよ。」


あいつ?

朝起きたばかりの寝ぼけた脳ミソが、必死に回転するが、わからない。


「八雲紫。

迎えは夜みたいだし、今日が最後ね…」


そう呟いた幽香さんの顔は、少し寂しそうだったが、私が彼女の表情を気にしていると、それに気づいたのか咳払いをして私達に朝食を済ませることを促した。


そして朝食の時間が終わり、私は幽香さんの指示で外出することに…

幽香さん曰く、迎えが来るまで遊ぶらしい。


ちなみに、外出と言っても向日葵畑の中央にある広場で、家を出て徒歩2分程の近場である。


そこに彼女は立っていた。


「さぁ、最後の遊びの時間ね。

今日は、私直々に教えてあげる…」


そう言うと、彼女は否応なしに攻撃をしかけてきた。


振りかぶった傘が目に止まり、私はギリギリの距離で身を捩り避ける。

反撃をするなら今…脇腹に隙がある。

そう思い、左足を前に踏み込んだ。


が…


「ハズレ」


反撃を試みたとき、既に私の行動を先読みしていたのか、隙のあった場所に棘の壁を作っていた。


一瞬の思考停止。

気づいた時、幽香の掌撃が私の胸部に当たっていたのだが、彼女は手加減したらしく軽く後ろに押される形となる。


「能力の一つや二つ、使いなさい?

教えてあげるから。」


そう言うと、彼女は闘いの中で大切な二つのことを教えてくれた。

時には勘で、相手の攻撃を予測すること。

相手の隙を探すのではなく、自分の隙を無くしていくこと。


「あとは、貴女の持つ剣術と能力が如何に応用できるか…ね。

そこは、貴女自身で見つけなさい。」


私は頷きながらも、彼女に刃を向ける。


2日という短い期間ではあるが、私は私自身の能力を少しだけ理解することができた。


望めば手にできる。

私は一度、幽香さんより強くなることを望んだ。

けれど、強さを知ることができても、[強さ]を目では測れない。

それに強くなっていたとしても、応用や使い方がわからない。


つまり私の能力は、望んだものの本質を理解していなければ、使えない。


結果として、自らの知識が影響することがわかった。


考えながらも、彼女の攻撃は止まない。


「ほらほらぁ!!

守ってるだけじゃ潰れちゃうわよ?」


右の傘を防いだと思えば、左から手刀。

手刀を防いだと思えば、次は膝が私の腹部を狙う。


後ろに下がり、回避するも彼女は一歩踏み込み、攻め立てる。

怒涛の攻めの中で、彼女は笑っていた。


能力を使う暇もなければ、考える余裕も無い。


自分が如何に闘い慣れていないかが、よくわかる。それに、力の差も…


「ちょっと、ちょっと待ってください!」


「ダーメーよッ」


彼女の傘は何故か、硬く重い。刀の刃があたっているのにもかかわらず、傘は切れるどころか、傷一つ付かない。


「けど、そうね…

貴女が裸エプロンで今夜料理を作るなら。

待ってあげても…」


「遠慮しておきます!」


幽香は、そんなことをいいながら私に傘を振り下ろす。

動揺し判断力が鈍った私の腕に、容赦なくそれは直撃した。


腕からミシミシと、嫌な感覚と激痛が伝う。

よろける私に、彼女は攻撃の手を止めない。


危険を感じて、後ろに軽く下がろうと体重を右足に傾けた瞬間、すかさず彼女は私の右足をはらう。


本来ならば地に着くはずの左足が空を蹴り、私の体は倒された。

傘の先端を私の胸に突き立て、彼女は立つ。


「貴女は、刀に頼り過ぎね。

体術を学びなさい。」


そう言って彼女は、手を差し出し私の体を起こしてくれる。


「ごめんなさいね…。

腕は、大丈夫?」


「この程度なら、能力で治せます。大丈夫ですよ。」


私の心配をしてくれていた。彼女は私の答えを聞いて、安堵の溜め息をはいたかと思うと、数枚のカードのようなものを差し出した。

急な行動に戸惑う私に対して、幽香さんは一枚取るよう目で促した。


カードを手に取り、よく見ると裏には花のような模様が描かれている。


そして、それは突然発光し彼岸花であることが、はっきりとわかる模様へと変わっていた。


白紙だった面を見ると、そこにもなにやら浮かび上がっている。


「毒符…死人の太刀?

これって…」


「変わったカードになったわね。

それは、spellCard。」


spellCard。

妖怪、人間、神、これらの中で力の差を無くし、無駄な死人、血を流さない為に創られたルール。

戦いの中で、敗者は勝者の言うこと、または願いを一つだけ聞かなければならない。


これがspellCardであり、幻想郷でのルールだそうだ。


「さぁ、カードをかざしてみなさい。」


幽香さんのいう通り、カードを上にかざすと…

小さな光の粒へと分裂していき、その粒が新たな形を作る。

カードではなく、刀が私の手に握られていた。


「それを振ってみて。」


刀を振ると、光の軌跡が現れ、そこから青白い光の粒が放たれていく。


「…すごく…綺麗」


「えぇ、本当に…けど、気を付けなさい。

これは毒だから。」


そう言うと、彼女は一粒手に取った。


すると、触れた彼女の指先が少し変色していく。


「幽香さん…指が…」


「なるほど、彼岸花特有の神経毒ね。

けど、私なら大丈夫。」


彼女が変色した指先に、水滴を垂らしたかと思うと、次の瞬間には指の色が戻り、水が変色を始めたのだ。


「彼岸花の毒は、水に溶けやすいのよ。」


さて、それは私からのプレゼント。大切になさい。


そう言うと、彼女は私の頬に手を当てた。

今までに感じたことがないほど、温かい感情がこもっているのがわかる。


この時の彼女の目は、私を憐れんでいた。


「幽香…さん?」


「ごめんなさい…。

何でもないけど…ただ、もし覚えていてくれるのなら、貴女の存在は不要なものじゃないわ。

だから、自ら消えようなんてことは考えないで。」


またいつでも、来たくなったら…いらっしゃい。


幽香は私の耳元で、ささやき…そして肩を押し、そのまま私は空間の隙間にのみこまれて、気を失ってしまった。



…誰もいなくなった花畑で私が立っていると、一人の少女が現れ、言う。


「珍しいですね。

幽香さんが、あんなことを言うなんて…

何かあったんですか?」


「…そうね。

けれど、今は…」


私は何もない空間に向かって傘を突き立て、いい放った。


「まだいるんでしょう?

出て来なさい。」


そう言うと、空に亀裂がはしり、彼女は顔を見せる。


その顔は渋々といった表情をしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。