無知と無力
最近、仕事が忙しく暇がありません…
助けてエーリン!!とか叫んでみたい…嘘です。
「で、私も来てよかったんでしょうか?」
私は今、冥界から現界。
つまり生きた者逹が暮らす世界に降りてきている…らしい。
…冥界と現界をこんな楽に行き来しても良いのだろうか?
「幽々子様から、一緒に行くように言われたのもありますが、文子さんの食べたい物もわかるので、寧ろありがたいです。」
「そう、ですか。
ところで、私が生きていた世界とは違うみたいなんですけど…なんででしょう?」
目に入るのは、江戸時代?を彷彿とさせる瓦屋根。
ほとんどの家は木造で、歴史の教科書に出てくるような風景だった。
「え?…あぁ~
ここは幻想郷です。
貴女がいた世界の裏側みたいなものです。
…多分」
「へぇ~…」
考えてみると亡霊である私って他の人に見えているのだろうか…
でも、人によっては目が合うし…見えてるのかな?
「おっ?
妖夢じゃないか!」
考えていると突然、頭上から声が聞こえ、見ると魔女のような帽子をかぶり、黒が主体の服にエプロンという特徴的な姿をした金髪の女性が、箒に跨がり浮いていた。
「霧雨 魔理沙…
私などに声をかけて何の用です?」
あまり良い関係ではないらしい…。
妖夢さんは少し苛立ってるけれど、彼女、霧雨 魔理沙は笑顔だ。
彼女は箒から地面に降りながら言った。
「まぁ、あれだ冥界の従者が、主を放ってこんなとこまでどうしたんだ?って気になってな。」
「私は買い物に来ただけで、別に幽々子様を放っているわけではありません。」
「そうか。
それと、もう一つ気になることがあるんだが…」
「まだ何か?」
…妖夢さんがこんなに怒る相手…彼女は悪い人なのだろうか?
見た感じでは、頼れそうな良い雰囲気を持っているが…あれ?目が合った?
「隣にいるのは誰だ?見ない顔みたいなんだがな。」
私は少し驚き、妖夢さんは眉間のシワが…
「…あの~私って一応亡霊ですよね?」
「そうです。」
「もしかして誰にでも見えるんですか?亡霊って…」
「普通は見える…よな?」
「はい、見えるはずです。」
…どうやら見えるらしい。
するとあれか?実は、幽霊や妖怪を見るのは日常茶飯事なのか?
なんだかそれはそれで複雑な気分だ。
私の世界では、霊が見える者は少なかった。
「妖気を感じると思ったらお前達か。」
急に、また違う誰かに声をかけられた。
それと同時に魔理沙は、素早く箒に跨がり飛んでいった。
「あっ…行っちゃった…。」
もう少し話していたかったのだが…
私は魔理沙が飛び去った空を見上げていた。
「おい!
無視するのは失礼だぞ?」
「え?
あ!すみません…」
怒られたようなので咄嗟に私は謝った。
「…いや、わかってくれればいいよ。
それより、こんなとこまでどうした?
って言うか…、お前は知らないな。」
「私達は食材を買いに来ただけです。
こちらは文子さん。」
「西行院 文子です。」
「新入りか…
私は上白沢 慧音。
すぐそこの寺子屋で教師の真似事をしている者だ。」
人柄がよく二十歳程の大人な女性。
将来なりたい理想的な女性の姿だろう…。
「どんなことを教えているんですか?」
「そうだな、幻想郷の歴史を中心に教えているよ。
興味があるなら、いつでも見に来てくれて構わないぞ?」
「それじゃあ、今度行きます!!
…大丈夫ですよね?妖夢さん」
「幽々子様に聞いてみないと、それはちょっと…」
「ハハハ!
そんなに急がなくていいさ。
ゆっくり考えて決めるといい。」
戸惑う私と、悩む妖夢さんを見て彼女は言ってくれた。
「それより、すまなかったな。
買い出しの途中なんだろう?
また今度、暇な時にでも話そう。」
「そうでした。
…では、また今度」
気の利かせ方もやはり普通の人以上だ。
「いらっしゃい!!
久しぶりだね~
今日は、主はいなくて知らない嬢ちゃんがいるな。」
お店に来ると、第一声がそれだった。
「文子と言います。」
「ずいぶん可愛らしい幽霊だな~
好きな野菜はなんだい?
可愛さに免じてマケとくよ。」
「ありがとう…ございます。」
思わず赤面してしまう。
素直に可愛いなんて言われたのは、いつ以来だろう。
お世辞でも嬉しいな…
「私は何も無しですか…
そうですよね…所詮、私なんて…」
あ、妖夢さんが拗ねた。
「ごめんごめん。
妖夢ちゃんは、何か好きな野菜あるかい?」
「私は…そうですね。
わりとトマトなんか好きですね。」
「ほう?
そりゃ意外だな。
まぁトマトは、最近新しいのが入荷したよ。
小柄なヤツだけど、買うかい?マケとくよ。」
そう言って取り出したのは少し縦長の物だった。
「アイコ、ですか…?」
「!?」「文子ちゃん、よく知ってるじゃねーか!
そう、こいつはアイコって名前の品種らしい。
皮が厚くて少し食いずらいが、味は凄く甘いぞ。」
「私は初めて見ました…。」
この世界では、珍しい食べ物なのだろうか…
私の世界では、普通に出回っていた食べ物なのに…
「ところで文子ちゃん。
トマトが昔、なんて言われてたか知ってるかい?」
「え?
あぁ、悪魔の食べ物でしたっけ?」
「そう!
妖夢ちゃんは、何故そう言われていたか知ってるかい?」
私から妖夢さんへ問題が移動する。
妖夢さんは、知らないようで少し戸惑いを見せた。
「見た目が赤いから、人は血を連想したのさ。
だから悪魔の食べ物ってね。
けど少し時代が変わると、トマトが栄養豊富な野菜だってことがわかってね。
悪魔の食べ物から、赤く実ると医者が青くなる食べ物に変わったんだ。」
「トマトにそんな過去が…知りませんでした。」
「そうさ。
妖夢ちゃんは、半分人なんだから健康には気をつけた方がいいと思うよ。」
「そうですね。
それじゃ、それと人参、トウモロコシとキャベツと胡瓜と…」
「まいど!!
またよろしくな。」
結局、トマトやその他諸々の野菜を大量に購入し、荷物はかなりの重さになってしまった。
それでも、妖夢さんはそれらの荷物を軽々と持ち、次に米、油、肉と買い物を済ませていった。
…私は白玉楼で、幽々子さん、そして今、目の前にいる彼女の為にできることはあるのだろうか…。
「私には、何も無いな…」
「何か言いました?」
「え?いえ、何も…」
「?そうですか。
さて、幽々子様も待っていることですし、帰りましょう。」
「はい。」
この人達と居ると、私がいかに無知で無力だったか…
理解していく自分が惨めだった。
力になりたくても、なれなくて…歯痒い思いは積み重なっていくばかり。
いつしか、自分の存在がわからなくなっていた。




