10話 村
勇は準備を進める。
必要なものを詰めていく。
ドラゴン。
嫌でもあの時を思い出す。
「桜…。」
久しぶりに充電できたので、スマホの電源を入れる。
あの時から鳴ることのないスマホ。
待ち受けは3人の写真にしている。
あの時のことを忘れないために…。
部屋がノックされる。
「…。」
無言でいたら、勝手に入ってくるシルフとハープ。
準備は万端といった様子だ。
「行くよ!」
シルフが腰に手を当てて言う。
瓦礫の下から見えた桜の手。
茂の血で濡れた頬。
あの日の光景が脳裏をよぎる。
勇の視線が机の上にあるスマホの画面に落ちる。
桜と茂が笑っている。
「ダメだ!」
勇の突然の大きな声に怯む二人。
「何よ!うちら今まで仲良くやってきたじゃん!」
ハープが頬を膨らませる。
「ダメなもんはダメだ!」
勇は荷物を担ぐ。
そして、部屋を出ていく。
「一人で行くって言うの?
私たち仲間だよね?」
シルフが縋る。
「…俺に仲間はいない。」
シルフの腕を無理矢理引き剥がし、立ち去る。
シルフとハープは呆然と立っていた。
「ちぇ!何よあいつ!」
ハープは頬を膨らませたまま怒る。
シルフは俯く。
「私…何かしちゃったかな?」
「シルフ…。」
ハープがそっと羽根を肩に置く。
不意に横目に入るスマホ。
その画面が消えた。
「あれ…。」
シルフはそのスマホを手に取る。
操作の仕方がわからない。
スマホをくるくる回す。
四苦八苦している内に横のスイッチに触れる。
スマホに光が戻る。
「これって…。」
そこには、笑顔で肩を組んでいる三人。
「あ…!」
ハープが真ん中を指す。
「これって勇?」
「ちょっと若いけど、確かに勇だね。」
勇の笑顔を始めて見た。
でも、今は無表情。
「もしかして、何かあったのかな?」
シルフがスマホを握り言う。
「…。」
ハープも考える。
勇に何があったのかを。
シルフが画面に触れたことで、動画が再生される。
急に音が出て、びっくりする二人。
しかし、二人はその動画に釘付けになる。
三人で笑い合い、蔵に入る。
探検しながら、小槌を見つける。
騒ぎながら、小槌を振る勇。
悲鳴が響く。
カメラが激しく揺れる。
動画はそこで終わっていた。
シルフとハープは顔を見合わせる。
「勇が一人でいる理由って…。」
「行かなきゃ!」
シルフとハープは走り出した。
勇は検問所で剣を受け取る。
(捨てられたかと思いましたぞ。)
一日ぶりの剣が軽口を叩く。
「黙れ!」
(おお…。今日はご機嫌斜めのようですな…。)
勇はクロークで剣を隠し、歩き始める。
「勇!」
シルフが叫ぶ。
勇は無視して歩き去る。
何故か桜と茂の顔が過る。
「待って!」
シルフが手続きに手間取る。
その間に、勇は行ってしまった。
シルフとハープは壁を出る。
辺りを見回すが、勇の姿がない。
「どこ行っちゃったの?」
シルフは必死に辺りを見る。
「シルフ!」
ハープが足に何かをつけている。
「マップ!」
「行くところは分かってるもんね!」
シルフは目を輝かせて、ハープの足のマップを受け取る。
マップを見る二人。
「ここから暫く行ったところ…。」
「ここじゃない?」
シルフが指をさす。
「村の名前も一緒だね!」
「行くよ!」
シルフとハープは勇を追いかける。
「勇、待ってて!」
勇は森を行く。
村までは2日かかる。
逸る気持ちを押さえて歩く。
(二人での旅も久しぶりですな。)
「…。」
勇は剣の言葉を無視して進む。
(次の相手はゴールドドラゴンですか。
腕が鳴りますな。)
勇は剣の柄を強く握る。
(イタタタ…分かりました…。)
勇は黙って歩き続ける。
ドラゴンはこれまでだって何度も相手をしてきた。
桜と茂のことを思い出すこともあった。
しかし。
胸がざわつく。
何故だか分からない。
(ただのドラゴンだ。)
そう言い聞かせる。
勇の胸のざわめきは止まらなかった。
少女は憔悴しきっていた。
与えられる食べ物はなく。
草か虫。
小動物を食べるしかなかった。
しかし、少女は作らないといけない。
ゴールドドラゴンが岩を持ってくる。
震える手でその岩に触れる。
その時。
少女の触れた岩が純金に変わっていく。
岩が黄金へ変わるたび、少女の顔色が悪くなっていく。
ゴールドドラゴンは満足気に金の岩に食らいつく。
力を使い、地面に倒れる少女。
(私ももう…、あの人たちみたいになるのかも…。)
辺りには冒険者の骨。
少女を助けに来ては焼かれていった。
助ける。
その言葉にどのくらい希望を打ち砕かれたか分からない。
(何でこんなことになったんだろう…?)
力が出ない。
(何でこんな力を持っちゃったんだろう…?)
少女は静かに涙を流す。
ゴールドドラゴンの咀嚼音だけが響いていた。
勇は村にたどり着く。
村は家々が焼かれ、朽ちていた。
焼け焦げた家だけが残り、人は誰もいない。
ここには、魔物や動物も寄り付かないようだ。
(これもドラゴンの影響か…。)
唯一ある気配は、この先の洞窟。
洞窟の前に立つ勇。
ダンジョン。
世界が異世界化してから生まれた、人類最大の脅威。
洞窟だけではない。
森にも、海にも、時には廃ビルの地下にも口を開ける。
勇はこれまで何度も潜ってきた。
元の地形ではあり得ない程の道が続く。
その道は入り組み、冒険者を迷わせる。
そして、大抵最深部にボスがいる。
コウモリの群れが飛び立つ。
(行くか…。)
勇は洞窟に足を踏み入れた。
中は所々黄金でできていた。
勇がその黄金に触れる。
ポロリと落ちたその黄金は本物に見えた。
ここが金がとれる村だった歴史はなかったはず。
この村も異世界化以降、何かがあったことが伺える。
出現する魔物がいない。
大概、ダンジョンは魔物の巣窟になっている。
その上、人っ子一人いない。
金があれば、誰もいないと言うことはあり得ない。
急に強い気配がする。
勇はクロークを翻し、剣を握る。
ゴールドドラゴンが飛び、向かってきていた。
ゴールドドラゴンは勇には目もくれず、岩を掘っている。
「奴は…!」
勇には見覚えがあった。
蔵に出る。
憧れの眼差し。
瓦礫の下の桜の手。
「あいつは…!」
勇が憎しみに支配される。
金色の鱗に覆われていたが、間違いない。
桜を殺した龍。
特徴的な二本の角と顔立ち。
そして、ドラゴンに見られない屈強な腕。
勇たちが始めて出会った龍そのものだった。




