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打ち出の小槌を鳴らしたら、現実世界が異世界化した件  作者: さく


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11/11

10話 村

勇は準備を進める。

必要なものを詰めていく。


ドラゴン。

嫌でもあの時を思い出す。

「桜…。」


久しぶりに充電できたので、スマホの電源を入れる。

あの時から鳴ることのないスマホ。

待ち受けは3人の写真にしている。


あの時のことを忘れないために…。


部屋がノックされる。

「…。」

無言でいたら、勝手に入ってくるシルフとハープ。


準備は万端といった様子だ。

「行くよ!」

シルフが腰に手を当てて言う。


瓦礫の下から見えた桜の手。

茂の血で濡れた頬。

あの日の光景が脳裏をよぎる。


勇の視線が机の上にあるスマホの画面に落ちる。

桜と茂が笑っている。

「ダメだ!」

勇の突然の大きな声に怯む二人。


「何よ!うちら今まで仲良くやってきたじゃん!」

ハープが頬を膨らませる。


「ダメなもんはダメだ!」

勇は荷物を担ぐ。

そして、部屋を出ていく。


「一人で行くって言うの?

私たち仲間だよね?」

シルフが縋る。


「…俺に仲間はいない。」

シルフの腕を無理矢理引き剥がし、立ち去る。


シルフとハープは呆然と立っていた。




「ちぇ!何よあいつ!」

ハープは頬を膨らませたまま怒る。


シルフは俯く。

「私…何かしちゃったかな?」

「シルフ…。」

ハープがそっと羽根を肩に置く。


不意に横目に入るスマホ。

その画面が消えた。

「あれ…。」


シルフはそのスマホを手に取る。

操作の仕方がわからない。

スマホをくるくる回す。


四苦八苦している内に横のスイッチに触れる。

スマホに光が戻る。

「これって…。」


そこには、笑顔で肩を組んでいる三人。

「あ…!」

ハープが真ん中を指す。

「これって勇?」


「ちょっと若いけど、確かに勇だね。」

勇の笑顔を始めて見た。

でも、今は無表情。


「もしかして、何かあったのかな?」

シルフがスマホを握り言う。

「…。」

ハープも考える。

勇に何があったのかを。


シルフが画面に触れたことで、動画が再生される。

急に音が出て、びっくりする二人。


しかし、二人はその動画に釘付けになる。


三人で笑い合い、蔵に入る。

探検しながら、小槌を見つける。

騒ぎながら、小槌を振る勇。

悲鳴が響く。

カメラが激しく揺れる。


動画はそこで終わっていた。


シルフとハープは顔を見合わせる。

「勇が一人でいる理由って…。」


「行かなきゃ!」

シルフとハープは走り出した。




勇は検問所で剣を受け取る。

(捨てられたかと思いましたぞ。)

一日ぶりの剣が軽口を叩く。


「黙れ!」

(おお…。今日はご機嫌斜めのようですな…。)

勇はクロークで剣を隠し、歩き始める。


「勇!」

シルフが叫ぶ。

勇は無視して歩き去る。


何故か桜と茂の顔が過る。


「待って!」

シルフが手続きに手間取る。

その間に、勇は行ってしまった。




シルフとハープは壁を出る。

辺りを見回すが、勇の姿がない。

「どこ行っちゃったの?」

シルフは必死に辺りを見る。


「シルフ!」

ハープが足に何かをつけている。

「マップ!」


「行くところは分かってるもんね!」

シルフは目を輝かせて、ハープの足のマップを受け取る。


マップを見る二人。

「ここから暫く行ったところ…。」

「ここじゃない?」

シルフが指をさす。


「村の名前も一緒だね!」

「行くよ!」

シルフとハープは勇を追いかける。


「勇、待ってて!」



勇は森を行く。

村までは2日かかる。

逸る気持ちを押さえて歩く。


(二人での旅も久しぶりですな。)

「…。」

勇は剣の言葉を無視して進む。


(次の相手はゴールドドラゴンですか。

腕が鳴りますな。)

勇は剣の柄を強く握る。


(イタタタ…分かりました…。)

勇は黙って歩き続ける。


ドラゴンはこれまでだって何度も相手をしてきた。

桜と茂のことを思い出すこともあった。


しかし。


胸がざわつく。

何故だか分からない。


(ただのドラゴンだ。)

そう言い聞かせる。

勇の胸のざわめきは止まらなかった。





少女は憔悴しきっていた。

与えられる食べ物はなく。

草か虫。

小動物を食べるしかなかった。


しかし、少女は作らないといけない。

ゴールドドラゴンが岩を持ってくる。

震える手でその岩に触れる。


その時。


少女の触れた岩が純金に変わっていく。

岩が黄金へ変わるたび、少女の顔色が悪くなっていく。

ゴールドドラゴンは満足気に金の岩に食らいつく。


力を使い、地面に倒れる少女。

(私ももう…、あの人たちみたいになるのかも…。)


辺りには冒険者の骨。

少女を助けに来ては焼かれていった。

助ける。

その言葉にどのくらい希望を打ち砕かれたか分からない。


(何でこんなことになったんだろう…?)

力が出ない。

(何でこんな力を持っちゃったんだろう…?)

少女は静かに涙を流す。


ゴールドドラゴンの咀嚼音だけが響いていた。




勇は村にたどり着く。

村は家々が焼かれ、朽ちていた。

焼け焦げた家だけが残り、人は誰もいない。


ここには、魔物や動物も寄り付かないようだ。

(これもドラゴンの影響か…。)


唯一ある気配は、この先の洞窟。

洞窟の前に立つ勇。


ダンジョン。

世界が異世界化してから生まれた、人類最大の脅威。


洞窟だけではない。

森にも、海にも、時には廃ビルの地下にも口を開ける。

勇はこれまで何度も潜ってきた。


元の地形ではあり得ない程の道が続く。

その道は入り組み、冒険者を迷わせる。

そして、大抵最深部にボスがいる。


コウモリの群れが飛び立つ。

(行くか…。)

勇は洞窟に足を踏み入れた。




中は所々黄金でできていた。

勇がその黄金に触れる。

ポロリと落ちたその黄金は本物に見えた。


ここが金がとれる村だった歴史はなかったはず。

この村も異世界化以降、何かがあったことが伺える。

出現する魔物がいない。


大概、ダンジョンは魔物の巣窟になっている。

その上、人っ子一人いない。

金があれば、誰もいないと言うことはあり得ない。


急に強い気配がする。


勇はクロークを翻し、剣を握る。

ゴールドドラゴンが飛び、向かってきていた。

ゴールドドラゴンは勇には目もくれず、岩を掘っている。


「奴は…!」

勇には見覚えがあった。


蔵に出る。

憧れの眼差し。

瓦礫の下の桜の手。


「あいつは…!」

勇が憎しみに支配される。


金色の鱗に覆われていたが、間違いない。

桜を殺した龍。


特徴的な二本の角と顔立ち。

そして、ドラゴンに見られない屈強な腕。


勇たちが始めて出会った龍そのものだった。

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