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打ち出の小槌を鳴らしたら、現実世界が異世界化した件  作者: さく


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1/11

プロローグ

――世界が異世界化して十年。


ドラゴンはビル群を飛び交い、かつて車が走っていた道路ではオークが闊歩する。

人が去った限界集落にはエルフやドワーフが住み着き、新たな国を築いていた。


人類も抵抗した。

自衛隊も各国軍も総力を挙げて戦った。

……だが敗れ、人々は城壁都市へ追いやられた。


人々の悲鳴が聞こえる。

「ぎゃあああ!」

「助けてえええ!」


男はその声を聞いて走り出す。

クロークの裾が靡く。

腰には剣を携えている。


ゴブリンの軍隊が見える。

朽ちかけたマンションの階段を駆け登る親子。

その後をゴブリンの集団が追っている。


「ちっ…!」

男は壊れた車を蹴り、一気に宙へ跳ぶ。

一閃。

ゴブリンの首が宙を舞った。


飛び掛かった一体を身を捻って躱す。

返す刃が胴を裂く。

横から迫る棍棒を剣で受け流し、そのまま喉を貫いた。


次々と飛び掛ってくるゴブリン。

気付けば、ゴブリンは塵となって消えていった。


剣を軽く振る。

刃についた緑色の体液が地面へ散る。

後ろで怯える親子へ振り返る。

無言で見つめる男。


父親の視線は男ではなく、その剣に釘付けになっていた。

両刃の剣。

刀身の中央に刻まれた見慣れぬ紋様。

父親が見聞きした勇者の剣、そのものだった。


「その剣は…!もしかして、勇者様?」

父親が男に向かって言う。


「……俺は勇者じゃない」


男は立ち上がる親子を尻目に立ち去る。

手すり壁に手をかけ、飛び降りようとする。


「お待ちください!」

父親が男に声をかける。

男は身体を戻す。

そして、無言で見つめる。


父親は鋭いその視線に一瞬怯むが、声をかける。

「私たちは都市部を目指しています。」

父親が俯く。


「私たちの村はドラゴンによって、壊滅させられました…。」

男の顔が一瞬、悲痛に歪む。

「そのとき、村の皆とは散り散りに…。」

母親がへたり込み、泣き出す。

娘は母親に縋り付く。


父親は顔を上げる。

「聞けば、都市部ではまだ人を受け入れていると聞きます。」


土下座をする父親。

「どうか、私たちをお守りください!」


男は無言で父親を見る。

男の心に色々な感情が渦巻く。

「……俺には、人を守る資格はない。」


再度、手すり壁に手をかける男。

飛び降りる。

車を潰しながら着地する。

男はそのまま去っていった。




男は藪の中を進み、森に入る。

都市部以外は手入れもされていないので、草木が生い茂っている。


この辺は特に危険だ。

ウルフェンが野犬を従えていることもある。

野生化した動物が、魔物に対応するために凶暴化していることもある。


男はしばらく、森を歩いていた。


その時。

草が揺れる音がする。


男は辺りを警戒する。

腰に携えた剣に手をかける。

気を探る。


音が近づいてくる。

体の力を抜き、剣を持つ手に集中する。

音が間合いに入る。

男は剣を鞘から抜く。


「待った!」

父親が両手を上げて現れる。

その後ろには、母親と娘。


男は剣を鞘に収める。

無言で親子を見つめる。


「へへ…。ついて来ちゃいました…。」




男は草木をかき分け、森を進む。

その後ろには、親子。

男が作った道を必死についてきていた。


あの後、男は剣を収めて、進んでいった。

親子はそれを着いてきて良いと解釈した。


しかし、道は険しい。

男が軽々と進むが、親子には厳しかった。

もうそろそろ日が暮れる。


「あの…娘がもう限界なんです。」

父親が娘を抱えたまま言う。

親子は息も絶え絶えだ。


男は辺りを見渡す。

風向きを確かめる。

足元の獣道を追う。

木々の枝に新しい傷がないかを見る。


(…大型の魔物はいないか)

男は無言で薪を集め始めた。




男と親子は火を囲んでいた。

缶詰を取り出す。

あるゴーストタウンになった町で買ったものだ。


缶詰を開ける。

男は視線に気づく。

親子は缶詰に目が釘付けだ。


男は親子の分の缶詰を差し出す。

「勇者のお兄ちゃんありがとう!」

娘は缶詰にがっつく。

両親もお礼を言い、缶詰を食べ始める。


母親が涙を流す。

父親が少しずつ語り始める。

「ドラゴンの襲撃があってから、始めてですこんな食事…。」


父親が視線を落とす。

「逃げ続けてばかりでしたから…。」

男の胸がチクリと痛む。


「あなたのような方に出会えて、私たちは幸運でした。」

父親が顔を上げて、男を見る。

「違う…。」


一呼吸置く。

「そんなことない。俺は死神だ。」

男は視線を逸らす。


「え…?」

父親は言葉の意味が理解できなかった。


「お兄ちゃんは死神じゃないよ。」

娘が純粋無垢に言う。

「私たちを助けてくれたもん。」

朗らかに笑う娘の顔は男には眩しすぎた。


男は一瞬驚くが、直ぐに無表情に戻る。

娘の言葉に男は答えなかった。


「しかし…。」

父親が続ける。

「何故、ドラゴンが私の村を襲ったのか…。」

父親は腕を組む。

安心感からか、考える余裕が出てきたのだろう。


「いえね、私たちの村は比較的郊外にあったからか、魔物の襲撃はあまりなかったんです。」

男は顔を合わせず、耳を傾ける。


「……ですが、一つだけ妙なことがありました。」

父親が眉間にしわを寄せる。

「あれが来てからですよ……。」


「小槌。」


男の呼吸が止まる。

焚き火の薪が、ぱちりと弾けた。

男の瞳が大きく見開かれる。


次の瞬間。


父親の胸ぐらを掴み上げる。

「今、何と言った?」

父親は目を泳がせる。

「小槌ですか…?」


「どんな小槌だ!?」

男は父親を揺さぶる。

「音が鳴る小槌です!願いが叶う!」

男の顔に希望の色が見える。


「お前の村はどこだ!?」

男は父親から、故郷の場所を聞き出す。

男の口元が、十年ぶりにわずかに緩んだ。

父親は何が何だか分からなかった。




全てはあの日から始まった。


ーー10年前。


「おい。勇。

お前のお祖父ちゃんの蔵に宝物があるって本当かよ?」

茂がカメラを構えて言う。


「おう。お前の昔のもの好き欲も満たせるぜ!」

勇は胸を張って歩き出す。


その後ろを歩くのは、桜。

よくこの3人でつるんで遊んでいる。


桜は呆れたように、着いてくる。

「でも、大丈夫なの?

勇のお祖父ちゃんから、危ないから近づくなって言われてるんでしょう?」


「大丈夫だって!

ついてこ〜い!」

勇は蔵の扉に手をかける。


(あの時、蔵に行かなければ…。)


笑い合う3人が蔵に入る。

お宝に感動し合う。

蔵の最奥に一際目立つ箱を見つける。


「これが一番の宝物じゃね?」

意気揚々と箱を開ける勇。


(あの時、あんなものを見つけなければ…。)


空気を揺らす咆哮が響く。

蔵を飛び出す3人。

蔵の前にドラゴンがいた。


この時、全てが変わった。


「やっと……手がかりを見つけた。」

勇は小さく呟く。


脳裏に浮かぶのは、十年前の笑顔。

(茂……桜……。)


勇は親子を都市部まで送り届けると、一人、ドラゴンに滅ぼされた村へ向かって歩き出した。

最初は短編を書くつもりでした。

ですが、書いているうちにどんどん話が膨らみ、「これは長編だな」と思うようになりました。

『神薙』もそうですが、僕は一つのアイデアから世界観や物語を広げていくのが好きみたいです。長編向きなのかもしれません。

更新ペースはゆっくりになるかもしれませんが、最後まで楽しみながら書いていこうと思います。

読んでいただき、ありがとうございました。

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