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 なにが本当で、なにが嘘かなんて言った本人にしか分からない。例えば、いま嬉しいだとか、悲しいだとか、そんなことをいきなり赤の他人に『それは嘘ですよね?』なんて言われても、『いや私本当にこう思ってるんですけど……』としか言えず、それが本当かどうかを証明することは出来ない。例え嘘をついていたとしても、その嘘は暴かれない。そう思った俺は、早速行動に起こした。具体的に言うと姉ちゃんのアイスを食べた。


「……で? まさか本人の目の前で食べておいて食べてないなんて嘘が通じると本当に思ったの?」

「そうだけど? だって嘘をついたかどうかなんて本人にしか分からないじゃん! 嬉しいとか悲しいに嘘だって言っても分かんないでしょ? だから俺は食べてないね!」

「せめてそれをやるなら誰も居ないところでやりなよ。こと今回においてはお父さんやお母さんも見てる中で食べてるからね!? いや、そもそも私が買ってきたアイスを食べないでよ」

「それはごめん。でも手っ取り早く証明出来るかなと思ったんだ」

「雪見だいふくを今度買って冷凍庫入れといてくれたら許す。んで、証明?」

「そう! 今この世界には嘘で溢れてる。SNSに、日常会話、ちょっとした身近なものだけでもこんなに嘘でいっぱいなんだ。でも、それを嘘とは言えないなぁと、そう思うんだ」

「メッセージアプリ以外SNSにあんまり触れてないやつが言うセリフか? それ。あとかなめの世界って学校と家でしょ。そんなに大きくない世界じゃん」

「大きくなくたっていいの! とにかく、たくさん嘘があるのに、それを嘘だと分かるのは本人だけ。だから嘘なんて暴けないことの証明をしたくってアイスを食べた、って訳!」

「それアイスじゃなくていいじゃん」


 すぐさま土下座した。確かにアイスじゃなくても良かった。お風呂上がりで冷たいものを体が欲してたのと、お風呂でふとふと思い浮かんだ『嘘、暴けないんじゃね?』なんて考えを試して見たくなったのも事実。それに、今回は家族が見てる中でアイスを食べたから失敗したけどもしも誰も見てなかったとしたら、家族の中の誰も食べていない状況に、大いに困惑しただろう。

 そんなことを言うと姉ちゃんは、苦笑し、呆れたように首を振ると椅子に座るように促してくる。特に拒否する理由もないので座ると、姉ちゃんは喋り出す。


「そもそもの話として、アイスを勝手に食べるなーとか、少し間違えたらそのまま関係がひび割れそうな嘘をつこうとするなーとか、色々言いたいことはあるんだけど、別に嘘を暴こうとしなくていいんじゃないかなぁと、私は思うんだよね」

「ん? いや、俺が言いたいのは嘘を暴くことじゃなくて、暴けないんじゃないかと言うことだ」

「や、それは暴くことが前提だから暴かれないんじゃないかって思考に繋がったんだと思ったんだよね。違う?」


 そうやって問いかけられて、頭に浮かぶのはついこの前嘘をついて、そのままどこかに行ってしまった友人の姿。学年が上がっても一緒に遊ぼうな! なんて約束に、笑顔で頷いていたのに、引っ越したあとにメッセージで謝られ、その後になんて返せばいいか分からなくて、そのままにしてしまってること。


「確かにそうかもしれない。だけど、別にそれは関係ないだろ」

「んー。嘘には暴かなくてもいいものだってあると、私は思うんだよね。や、もちろんついちゃいけない嘘はあるよ? 責任とかもあるし、そういう暴かなきゃいけない嘘とは別に、さっきかなめが言ってたSNSだとか、日常会話の嘘なんていちいち気にしなくても良いんじゃないかなぁって。必要な嘘って言うのもあるしね?」


 必要な嘘。そんな無責任な言葉にかちんと来てしまった。


「はぁ!? 必要な嘘ってなんだよ! そもそも嘘は全部悪いもんだろ。だって相手を騙すことなんだから」

「えー……。すっごい極端な事を出すなら、娘と電話をしている時に撃たれてもう息も絶え絶えな男の人がいたとして、その人が娘に家でまた会おうって電話を切るのは、悪いことかなぁ」

「言わせといてごめんだけど例えがすっごい下手。そんな状況あるか?」

「いきなり難しいこと例えさせといて酷いね!? でもなんとなくのニュアンスは伝わったでしょ。嘘の全部が全部悪いものでも無いよ。まぁ嘘つかれたほうとしては複雑だけどね。だけど、相手に伝えることが難しいものを嘘として吐くことはあるよ。それを私は暴こうとは思えない」

「……そっか。ちょっと難しくて分からない事もあったけど、なんとなく言わんとしてることはわかった。いきなり怒ってごめん。アイスもまた明日買ってくる」

「ま、アイス買ってくれるならいいよ」


 姉ちゃんと話して、もしかしたらあの嘘はあいつに必要な嘘だったんじゃないかと思い始めた。嘘はやっぱり、ついた本人にしか分からない。だけど、その後の謝罪に対してなんにも言葉が無いのはそれこそ今までの関係が嘘のように感じてしまった。だから、しばらく返事を返せなかったことを謝って、それから話を聞こう。さっき姉ちゃんが言ってたことを反芻しながら、メッセージアプリに文字を打ち込み始めた。

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