封印の巫女
祠の奥へと進むにつれ、リナの体はどんどん重くなっていった。
まるで、何百年もの記憶が自分の中に流れ込んでくるようだった。
目の前に、ひとつの石碑が現れた。
苔に覆われ、風化したそれには、見慣れぬ古代の文字が刻まれていた。
ユウがその文字を読み上げる。
「『ここにソトルを封ず。
血を継ぐ者よ、再び闇が訪れしとき、祈りと命をもって、これを静めよ』……」
リナは震える手を胸に当てた。
心臓の鼓動が、ゆっくりと、確かに石碑の音と同調している。
「わたし……この場所、知ってる。夢の中で、何度も見たの。
ここで、誰かが……命をかけて、何かを……」
そのとき――
視界が暗転した。
リナの意識は、時を超えて、“封印の夜”へと引き込まれていった。
※数百年前※
夜の村に、悲鳴が響いていた。
空が割れ、黒い影が村を呑み込もうとしていた。
若き巫女――アイハは、祠の前に立っていた。
その瞳には恐怖ではなく、決意が宿っていた。
「私が……わたしが、あなたを封じる」
アイハの胸元には、赤ん坊が抱かれていた。
それは彼女の娘。
――リナの祖先であり、“器”となる血を引く最初の存在。
ソトルの影は囁いた。
「お前は、何も変えられぬ。
人々の信仰はやがて腐り、我を崇めるために使われるのだ。
未来は、苦しみと、嘘と、支配で満ちるだろう」
「それでも……
私は、今を止める。
未来に、託すために――」
彼女の体は祠に吸い込まれ、封印の術が発動された。
命と引き換えに、ソトルは深い眠りにつき――
その存在を“神”として村に残した。
やがて時が経ち、“信仰”は変質した。
封じたはずのものが、神と崇められ、
巫女の末裔は“器”として利用される運命となった――。
※現在※
リナは、はっと目を覚ました。
「……私の、曾祖母……いや、もっと前の先祖……
あの人が……」
涙が流れる。
自分がどれほどの“想い”の上に立たされているのかを、ようやく理解した。
「ユウ……私は、封印する。
でも、それだけじゃダメ。
この村が、この信仰の形が……“変わらなきゃいけない”」
ユウは頷く。
「僕も、そのためにここにいる。
……でも、覚えておいて。
ソトルは、“人の心”に棲んでる。
完全に消し去ることは、たぶん……できない」
「それでもいい。
私は、進む」
リナは祠の中心に立ち、両手を広げる。
石碑に刻まれた封印の呪を、彼女の口から自然に紡がれていく。
「……我、リナ。血を継ぎし者。
いま再び、闇を封ずる――」
その瞬間、祠の中に光が満ちた。
ソトルの影が断末魔のようにうねり、悲鳴のような風が吹き荒れる。
「おまえたちは、いずれ、また……
信仰という名の仮面の下で、
同じことを繰り返すのだ――!」
リナは目を閉じた。
「それでも……
それでも、人は、変わると信じたい」
影が砕け、祠は崩れ落ちていく。
ユウがリナを抱きしめ、二人は倒壊する祠から走って抜け出した。
空が、晴れていた。
霧は消え、月が優しく地を照らしている。
村は静かだった。
けれど、どこかで鐘の音が鳴っているような気がした。
リナは、振り返る。
祠があった場所から、微かに光が漏れていた。
ユウが隣で静かに言った。
「……これで終わったのかもしれない。
でも、信仰は……まだ残る。
きっと、すぐには変わらない」
リナは頷いた。
「うん。私たちの戦いは、きっとこれからも続く。
でも、もう騙されない。
誰も、“神”の名前に怯えることのない世界に……」
そのとき、背後で何かが動いた気がして、リナは振り向いた。
そこには誰もいない。
けれど、風に混じって、かすかな“囁き”が聞こえた気がした。
「――また、会おう……器よ」
いよいよ終盤です!
最後まで読んでくださいね!!




