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影の囁き  作者: れい
5/10

目覚めの予言

器は帰ってくる。


祠の扉の前から離れたあと、リナはしばらく何も言えなかった。

ユウは彼女を自宅まで送り届けると、最後にぽつりとこう言った。


「夜、また来るよ。話したいことがあるんだ。……僕の“家の秘密”を」


その言葉がずっと耳に残っていた。


──そして夜。

あたりは再び霧に包まれていた。月も星も見えず、音さえ消えたような静けさ。


時計の針が午後九時を指したころ、リナの部屋の窓をコツ、コツ、と叩く音がした。


開けると、ユウがいた。

その手には、古びた革のノートが握られていた。


「これ、うちの蔵から見つけたんだ。祖父の日記だよ。

“ソトル様”の真実が書かれてる」


ユウはそう言って、ページを開いた。


そこには、震える文字でこう記されていた。



「この村は神に選ばれたのではない。

我らが“選び、封じた”。

ソトルは神ではなく、“祟り”だ。

何かを代償に、“封印”を保ち続けなければならぬ。

代償は、人。

“血の濃い者”を捧げよ。

さすれば、静寂が保たれる」


リナは目を見開いた。


「……どういうこと……?」


「ソトル様は神じゃない。

昔、この村で何か“災い”が起きた。人が消え、獣が狂ったって記録もあった。

それを封じたのが、僕の先祖。

でも……その代わりに、“儀式”が必要だったんだ」


ユウの声は震えていた。


「それで、血筋の者を時々“捧げる”ようになった。

ぼくの父の妹も……子どもの頃に“行方不明”になってる。

誰も探そうとしなかった。

それは……きっと、“選ばれた”からだよ」


リナの心に、嫌な予感が広がっていく。


「リナ……君の家族って、ここと関係あるの?」


「……わからない。聞いたことない。でも……」


頭の奥で、霧のように記憶がざわめく。


――幼い頃、母に連れられて山に来たことがある。

――暗い祠の中で、誰かに見つめられていた。

――そのあと、熱を出して寝込んだ。


「……ねえ、リナ」

ユウの声が低くなった。


「祖父の日記には、こうも書かれてたんだ。

“次の目覚めのとき、外から“器”が来る。

それは一度、村を離れた者。

ソトルは、その“器”を求める。

そして――帰ってくる”」


リナは小さくつぶやいた。


「器って……私?」


その瞬間、家の外で、大きな叫び声が響いた。


「きゃあああああああっ!!」


それは近所の老婆の声だった。


二人が飛び出すと、霧のなかに立っていたのは、村人たち――だが、様子がおかしかった。

皆が一斉に、リナを見ていた。

目を見開き、口を半開きにし、なにかに取り憑かれたように、同じ言葉を繰り返していた。


「おかえりなさい、ソトル様……」

「器が、帰ってきた……」

「これで、目覚めがくる……」


その場の空気が、ぞっとするほど冷たくなった。


ユウがリナの腕を掴む。


「逃げよう。この村はもう、始まってる。

君を“捧げる”ために動き出してる……!」


霧の奥から、古びた太鼓の音が聞こえてきた。

どん……どん……どん……

太鼓の音に合わせて、村人たちが笑い出す。


歪んだ笑顔。濁った目。

それはもう、“人間”ではなかった。


リナの胸に、一つの問いが浮かんだ。


――自分は本当に、“器”なのか?

それとも、“神”なのか。


彼女の中の“何か”が、目を覚まそうとしていた。

リナの中の何かとはなんのか。

リナは逃げることができるのか、

次のお話もぜひ呼んでください!

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