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感情のソーサラー  作者: よるのとびうお
第一章 魔法の発現
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vsシーサーペント



「キァシャァァァアアアアアアアア!!!」


 突如、水飛沫を撒き散らながら現れた商船を優に超える程の大蛇は、甲高い叫び声を上げると港のアクアリザードを丸呑みにした。途端に魔物達は蜘蛛の子を散らす様に逃げて行く。


「な、あれは……シーサーペントだと!?」


 赤い眼光にずらりと並ぶ鋭利な牙、頭からは二本の角が伸び全身は碧く不気味な光沢を(かも)し出している。エルビスはその姿を見るや否や身体が無意識に動き出した。遠距離でどうにかできる相手ではないと、直感で理解できる程の威圧が全身を駆け巡る。そのまま高台から飛び降りると家々の屋根を伝い最短距離で港へと走り抜けた──




 ──突然の轟音。もう訳が分からない。今、目の前で対峙していたアクアリザードが滝の様な水飛沫が落ちてきたと思うと一瞬で消えた。不測の事態に体は硬直し無意識に思考が止まる。優勢の雰囲気の護衛団達だったが、蛇に睨まれたそれの様に動きが止まる。動けない……その時、皆の意識を掻き分けてフィリアの叫び声が飛び込んできた……!


「全員退避!! 全力で距離を取って!!」


 港全体に響き渡った彼女の声は硬直していた彼らの体を突き動した。


「た、退避! 退避!! 街の中央まで全力で下がれ!!」


 団員達は港を放棄し一斉に駆け出した。あんなバケモノ普通の人が敵う相手ではない。しかしそれはアクアリザードも同じだ。団員達は街に逃げ込む彼らを(さば)きつつ港からも距離を取らなくてはいけない……! フィリアもそれを理解しており一人でシーサーペントの前に立ちはだかる!!


「私が時間を稼ぐ!! 皆んな逃げて!」


「親愛の魔法……」


愛の衝撃(ディア・ソニック)!!」


 彼女は片手を前に突き出し大蛇相手に魔法を放つ!! 繰り出された衝撃は大蛇の頭部目掛けて空気を切り裂きながら進んでいく! が、それはシーサーペントに当たる直前で黒い翼によって弾き飛ぶ……!!


「はっはっはっ! サンティオーネの諸君、ご機嫌よう。僕からのプレゼントは喜んでくれたかい?」


 硬く黒い翼で空を飛び、巻き起こる風で白い髪が(なび)く。上空に(たたず)む魔族の腰には顔を隠した女神の紋章が刻まれており、両手を広げ高揚している彼のその赤い瞳はフィリアを見下ろしていた。


「その紋章……七つの波紋(ゼノゲミュート)!?」


 ただでさえシーサーペントの脅威で街が危ないというのにその大蛇の前に憚るのは七つの波紋(ゼノゲミュート)の魔法使い。相手に(かざ)したフィリアの腕は力無く下がっていく。


「お、僕達を知ってくれて嬉しいねぇ。でもそんなに怯えなくて大丈夫だよ。もうすぐ何も感じなくなるんだからさ!!」


 その言葉と共にシーサーペントが頭を伸ばし噛み付いてくる! その口元には鋭利な牙、まともに食らえば命はない。フィリアは瞬時に魔法を(まと)うと、腕を前で折り畳みぶつかる衝撃に合わせて後ろに飛んだ! 直後、フィリアの体は弾け飛び背後の外壁に叩きつけられる! その凄まじい衝撃から外壁は崩れ砂埃がフィリアを包む。咄嗟(とっさ)に衝撃を殺し被害を最小限に抑えたとはいえ体はこの有様。


「うう……ぜぇぜぇ、んんん、ぺっ」


 口内に溜まった血を吐き出す。体中は擦り切れ攻撃を受けた腕は青紫色に腫れ上がる。


「親愛の魔法……愛の祈り(ディア・ケルシオン)


 彼女の腕の腫れがゆっくりと治っていく。しかし、体中に刻まれた傷跡からは以前変わらずに血が流れている。フィリアは瓦礫を払いのけ体を引きずりながら這い出ると鋭い目つきで相手を睨む。

 もう少し、もう少ししたら皆んなの避難が終わる……何とかそれまで……!!


「ここは愛情を胸に助け合う街サンティオーネ……この街からは誰の感情も奪わせやしない!!」


 両手に眩い光を集めて走り出す! 先程の攻撃の後で今やシーサーペントの頭部は陸の上。彼女は全力で地面を蹴り出し空高く跳躍すると拳を思いっきり振りかぶり渾身の一撃を繰り出した!!


「親愛の魔法……愛の鉄槌(ディア・クラッシュ)!!」


 瞬間、激しい衝撃と共に頭部は地面へと叩き付けられ(つぶて)が弾け飛ぶ!! 着地したフィリアは即座に距離を詰めると横たわる頭部目掛けて追撃を仕掛けた!


「良い子だから……君は海に帰りな!!」


 地面を蹴り出し体を回転させながら遠心力を付ける。そのままの勢いを脚に伝え大蛇の頭に回し蹴りを入れるその刹那、エンシーレが上空から猛スピードで迫り来るとフィリアを再び吹き飛ばす!! 彼女は何度も跳ねるように転がると低い姿勢で地面にしがみつき体制を整えた。


「僕を放ったらかしにするなんてつれないなぁ」


 エンシーレは翼を広げ天を仰ぐように嘲笑った。その不気味な笑顔は背後の大蛇によって気味の悪さをより一層に際立たせた。

 一方、フィリアは吹き飛ばされたことによりある程度の距離を取ることができた。この隙に傷を回復させたいが……フィリアはチラリと港の様子を伺う。向こうでは、街の中にアクアリザードが逃げ込まないように対処しながらも中央へ向かう団員の姿が見える。

 後少し。彼らの避難が終われば付与分の魔法をぶつけられる……!!

 しかし、様子を伺ったその隙を彼らは逃さなかった。


「ほらほら! まだ僕らがいるよ!!」


「シャアアアアアアア!!」


 いつの間にか頭を起こしていたシーサーペントの牙が予測を上回る速さで迫るともう目の前に……どうにか防御を……でも、攻撃を、(かわ)しきれない……!!

 その時、背後から眩しいほどの閃光が放たれると空気を切り裂きながら突き進む……!!



希望の輝(グリザール・ランツァ)!!」


 迫り来る鋭い牙がフィリアを捉えると思われた瞬間、強力な光が大蛇を吹き飛ばしその衝撃は凄まじい風となって辺りに吹き荒れた……!!


「待たせたな……この街の希望の光は、誰にも奪わせやしない!!」


 エルビスには何度も窮地を救われる。フィリアはエルビスに全幅な信頼を寄せており、今回もまた、窮地を救ってくれた彼に対してほんの少しだけの笑顔を溢した。


「エルビス……さぁここからよ! 誰も彼も皆んな吹き飛ばしてあげる!!」



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