↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感情のソーサラー  作者: よるのとびうお
第一章 魔法の発現
PR
20/26

開戦



 ──分厚い雲から漏れる光を黒い翼が反射する。生い茂る木々を掻き分け彼の分身が降り立つと、何やらエンシーレと言葉を交わしていた。フィンセントは少し離れた場所に座り込み、その様子を眺めている。


「ふむふむ、なるほどね。愛の感情を使う魔法使いがいるのか……回復に(てっ)されると厄介だけどもう愛は足りてるからな……」


 本体に情報を伝え終わると、分身の色彩が薄くなり最後には細かな光の粒となって姿を消した。エンシーレはしばらく呟きながら頭の中を整理すると、無愛想な顔でこちらに視線を向けている彼女に声をかけた。


「そろそろ行きたいんだけど、そこの君、聞いてる?」


 フィンセントは深いため息をつくと重い腰を上げた。服についた塵を尻尾で器用に払うと体の前で堂々と腕を組み口を開く。


「聞いてない。君が立てた計画だろ? 私はそれに従うだけ」


 彼女のツンとした表情とその物言いに慣れているのかエンシーレは面倒くさそうな表情で、はいはい信頼してくれてありがと。と、軽く流した。


「それじゃあ……そろそろ僕らも向かおうか」


 フィンセントは組んだ腕を解き両手を前に出すと、目の前の空間に人間大の丸い穴を作り出した。隣に立つ彼に一瞬だけ(にら)みを利かせた視線で合図を送ると、先に歩を進め穴の中に入って行く。彼女の何物も近寄りがたい表情とは裏腹に、右へ左へと揺れる尻尾が最後に消えて行ったのには本人は気が付いていない様だ。


「あーうん。良く出来ました。僕らの付き合いも長いんだし、もう少しだけ愛想よく過ごして欲しいもんだよ……」


 森に一人残されたエンシーレは、顔を片手で覆い軽くため息をつくと愚痴をこぼしながら穴に向かう。


 まぁ、完璧な僕には些細なことさ。でも、せっかく美しい()()を持っているんだ。もっと表に出していけばいいのに……


 彼はそう言うと、顔を覆う(てのひら)から不気味な笑みを溢し穴の中へ消えていった。





 ──サンティオーネの港では未だ死闘が繰り広げられていた。疲労は蓄積し皆の体は既に限界が近い。フィリアの付与で多少の傷なら癒えはするが痛みが無くなりはしない。


「フィリア様の付与も消えかかっている! 皆んな気を抜くなよ!!」


 アルタが周りを鼓舞すると剣を握り締め再び駆け出す。アクアリザードのしなる尻尾を低い姿勢で滑り込み掻い潜ると、前脚の腱に狙いを定め斬りつける。一つ。前傾姿勢で倒れてくる巨大を(かわ)しつつ後ろに回ると今度は後脚の腱を狙う。二つ。三つ。激しい唸り声と共に倒れ込んだ魔物は立ちあがろうと手脚をもがかせている。アルタは再び振り回される尻尾を頭の方に転がりながら回避すると、喉元目掛けて剣を突き刺した。


「勝機はある!! 脚を狙え! 」


 方法を学び、伝えて行くことで人は生き残ってきた。団員達は終わらない行進に気持ちが折れかけていたが、アルタの快進撃が彼らの心に再び火をつける。


「アルタに続け!! 数も少なくなってきてるぞ! 気合いれろ!!」


「「「うおおおおおおお!!!」」」


「いいね、皆んな……その調子……!」


 一人で何体ものアクアリザードを相手にぶつかってきたフィリア。辛うじていつもの明るさで振る舞うが、桃色の髪は荒れ呼吸は乱れてきていた。団員達にかけた魔法も消えかけ、硬い鱗を殴り続けた手からも血が流れる。自身の傷を直す余裕などなく感情を保つのにも限界が近づいてきていた。しかし、彼らの鼓舞は切れかけたフィリアの心を支え、再び感情が溢れ出す。


「はぁはぁ、うぅ、はぁはぁ……皆んなはまだ大丈夫ね。よし、私も燃えてきちゃった……!!」


 彼女は雄叫びを上げながら魔物の中を突き進む。目の前に迫る硬い鱗の壁を跳躍して躱しつつ、着地際に尻尾を両手で抱え込んだ。そのまま自分の体ごと回転させてひっくり返すと、縦回転に跳躍して(かかと)を振り下ろす!! 剥き出しの腹に強烈な一撃を喰らわせると魔物で吸収しきれなかった衝撃が地面に亀裂を走らせる……!!



 ──その様子は離れた高台にいるエルビスにも届いていた。彼もまた休む事なく魔法を繰り出しおり、身体中から汗が吹き出し視界が僅かに(かす)む。


「あいつら……俺も負けてられないな」


 エルビスは目を閉じ少しだけ口角を上げると、疲労に侵されていた感情を切り替えた。


「落ち着け……俺は希望の魔法使い。俺が今に疲れたら誰が明日を護るんだ。俺は誰よりも前に立ち、誰よりも未来を信じている……」


 エルビスは再び目を開くと集めた光を次々と撃ち込んでいく。幾度となく繰り返したその動作をもう一度頭に浮かべながら、それを一つ一つ丁寧になぞり魔法を放つ。ただ、彼の頭にはある事が引っ掛かっていた。


「おかしい……アクアリザードは鋭利な牙と爪を持つ魔物……なのに何故、真っ直ぐにぶつかってくるだけなんだ」


 港では目の前の脅威を退けるのに精一杯だが、高台から全体を見渡している彼の視点は違った。魔物達は海から飛び出してくると明らかに内陸を目指している。それが街の脅威になっている事もまた事実だが、決して何かを襲いにきた様子はなく……まるで海から逃げ出してくる様な……


 ──その時、港のすぐ近くの海面が爆音と共に弾け飛び辺りに水飛沫が撒き上がる!! 突然現れた商船よりも大きな黒い影。港はたちまち混乱し、アクアリザードさえも逃げ惑う。ただ一人、エルビスの瞳だけはその全容を捉えていた……!!


「な、あれは……!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。