63 虹色のヘアバンド
肉も焼きそばも、そろそろ食べごろかと言うタイミングで、恵子さんがメンバーに挨拶をする。
「今日は虹子ちゃんの入寮、そして2日すぎちゃったけど誕生日を祝いたいと思います。それから沙羅の友達の朋美さんも、遠路はるばる来てくれました。みんな大いに食べて、楽しんでください。だけど、明日からまた練習があるから、あまり夜更かしはしないようにね。おばちゃんの長話は良くないので、キャプテンの静さん、あとはまかせます」
恵子さんに指名された銀谷静が席から立ち「あ、えっと、ああ・・・」と壊れたラジオみたいになっている。
見かねた紺野巴が「じゃあ、みんなジュースを持って。鉄板の前の二人も。あかりにも渡してあげて」と指示する。
「虹子の入寮、そして誕生日を祝って、せえの!」
全員でハッピーバースデーの合唱が始まると寮の灯が消える。
ハッピバースデー・トゥー・ユー♪
ハッピバースデー・トゥー・ユー♪
ハッピバースデー・ディア・ニジコ〜〜〜〜〜〜〜♪
建物の方から突如、ホールケーキを持った長身の女子が登場した。白い衣装の茶野梨恵と藤野紗季を従えた緋野神子だ。虹子のもとに来て、ケーキを差し出した。
ハッピバースデー・トゥー・ユー♪
「ふ〜っ」
虹子は失敗しないように17本の蝋燭に灯った火を一気に吹き消した。そして火が消えると、同時に両眼から涙が溢れ出てきた。
メンバーの歓声が鳴り止むのを待つ間に、ひなぎくと桃香が忍者のような素早さでジュースを取りに行き、登場した3人に手渡す。
巴「静も一緒に」
静「はい、では・・・」
巴「今度こそ、クライネの前途を祝して〜乾杯!」
「カンパ〜イ!!」
結局、中学の活動で来られない3人をのぞくクライネのメンバー全員が城星寮に集まった訳だ。
楽しい時間は過ぎるのが早い。みんなで食べて、飲んで、喋って。あかりの焼きそばは確かに絶品だったが、時枝おばあちゃんを超えるかと言えば・・・。
「虹子、焼きそば美味しかった?」
唐突に視界の外からあかねに声をかけて、虹子はゴホゴホっとむせてしまった。
虹子「うん、すごく美味しかった」
あかね「おばあちゃんと、どっちが?」
虹子「どっちも美味しいかな・・」
あかね「ずるい。おばあちゃんのが美味しいって思ったでしょ」
虹子「あはは・・・まあ」
あかね「あそこの鉄板は特別だもん。ソースも秘伝だし」
虹子「そういうことですが」
あかり「いつかお店で食べさせるから」
虹子「沼津店で」
あかり「おっ、グランブル沼津に興味持った?」
思わぬところで、あかりのスイッチを入れてしまったことを虹子は後悔した。
虹子は女子に対しては人見知りになりがちだが、すっかり「クライネ」のメンバーとは打ち解けて、多くのメンバーと色んなことを話した。
好きな男子のタイプを聞かれたときは真っ白になってしまい、あることないこと、いじられ放題だったが。
バーベキューがひと段落し、寮生の多くが自分たちの部屋に戻っていったところで、虹子はせめて、後片付けを手伝うことにした。
「虹子さんはいいのに」
そう言う紫乃を押し切って、お皿をまとめてキッチンに運んで行って洗った。
「残りは大丈夫です」
作業もひと段落してと、紫乃に言われて裏庭に戻り、キャンプ組に合流した。それから何時まで語り明かしたのか、その間に誰が寝てしまったのか覚えていない。ただ、最後は華とおやすみの挨拶をした記憶が確かにあった。
「虹ちゃん、虹ちゃん」
翌朝、テントで隣り合っていた華にゆすり起こされる。あたりはまだ暗く、朋美と沙羅はまだ寝ている。ランは桃香、ひなぎく、さくらと一緒のテントで寝ているはずだったが、いつの間にか朋美のお腹のところで、すやすや眠っている。
「いつの間に仲良くなったんだ、この二匹は」
虹子は静かに起き上がり、華に導かれるままに寮を出て、南の方向に走って行く。
真夏と言っても夜明け前は程よく涼しかった。ちょうどあたりが薄明るくなってきた頃、目の前に海が広がった。
「うわっ」
虹子は思わず声を出す。そして水平線の東側から次第に光がさして行く。
「さすがに都合よく虹は出ないか」
華が言う。虹子は一瞬、ワケが分からず華の顔を見る。
華「虹ちゃん」
虹子「ん?」
華「これ誕生日プレゼント」
華から手渡されたのは虹色のヘアバンドだった。手に取って見ると赤・橙・黃・緑・青・藍 ・紫の7色が順番に並んでいる。
虹子「すごい・・・」
華「作ったのお姉ちゃんだけどね。私はお願いしただけ」
虹子「蕾さんが」
華「虹ちゃん、虹色のヘアバンドしてたでしょ」
虹子が3年前、ボールと一緒にヘアバンドも捨ててしまった。そのことを今更ながらに思い出していた。
虹子「・・・うん。サッカー辞めたときに捨てちゃったけど」
華「そうかなと思ったんだ。髪も伸びてきたでしょ」
虹子「そろそろ少し切ろうかなと思ってたけど」
華「これがあれば大丈夫だよ。ねえ、虹ちゃん」
虹子「ん?」
華「虹って世界で見え方が違って、色の数も違うんだって」
虹子「知ってる」
華「だけど、やっぱり七色が好き。虹ちゃんは?」
虹子「あたしも。誕生日がナナイロだし」
華「うふふ」
「これ付けたい。華が付けてくれる?」
虹子がヘアバンドを差し出すと、華は受け取って虹子の頭にかぶせて調整する。
華「これでよしっと。違和感は無い?」
虹子「バッチリ」
華「似合ってるよ。虹ちゃんなら・・・」
虹子は何も言わずに華の顔を覗き込むと、華は虹子を横目で見て、再び海の方を向いた。
華「きっと、もっと大きな虹をかけられると思う」
虹子「もっと大きな・・・虹」
華「この前のシュートも綺麗だったけど」
虹子「ありがと」
華「だけど、もっと大きな七色の虹をクライネのみんなと」
虹子「できるかな、あたしに」
華「きっとできるよ。虹ちゃんなら。そこに私が華をそえる。ハ・ナ・・・ハチ・ナナ」
虹子は思い出した。華の誕生日、8月7日は3週間後に迫っているのだ。
華はニンマリと虹子の顔を覗き込んだ。朝焼けに照らされた華の顔はオレンジ色の華のようだ。
虹子「ハードル上げられた。さすがにビッグマン・チョコってわけにも」
華「うふふ。清水エスドリームの選手サイン入りユニでいいわ」
虹子「ええっ!?」
華「うそよ。気持ちで十分。だってXVカップの最中だよ」
虹子「そうか。じゃあ試合で華のゴールをアシストするよ。フィールドの華を咲かせる」
華「それ絶対に外せないね」




