53 富士宮の看板娘
入団テストを兼ねた2日間の練習に行った時、橙山華からメンバーの出身地、そして誰が寮に住んでいて、誰が地元の実家住まいかを聞かされていた。
さすがに半分も覚えられなかったが、唐銅あかりが富士宮であることは記憶していたのだ。
「唐銅あかり・・・」
虹子が頭の中ですらフルネームで呼ぶぐらい、直接の親交が無かった。何より今後、ポジションを争うライバルになるかもしれないと華から伝えられたメンバーだ。紅白戦では中盤で何度もマッチアップしたが、ほとんど言葉は交わしていない。
しかし、旅のお供である香月朋美に焚きつけられて怖気付くわけに行かず。恐る恐るUNITYのグループにある唐銅あかりの名前をタップして「虹子です。」とメッセージを送ってみた。
「虹子です。って、どこのヒロシさんだ」と自虐を呟きながら待つこと数分、あかりから返事がきた。
あかり:虹子さん、こんばんわ。
虹子:こんばんわ
あかり:【グランブル沼津のスタンプ】
グランブル沼津・・・なんだこれ。虹子は一旦UNITYのアプリを離れてMOOGLEで「グランブル沼津」と入力して検索を押した。
「どれどれ・・・」
「グランブル沼津は現在NリーグのN3に所属するサッカークラブです」と書いてある。虹子もジョイフル磐田など、N1とN2の主だったクラブは認識しているが、N3までは知識の範囲外だった。
「か、絡みにくい・・・とりあえず、当たり障りないメッセージは」
虹子:グランブル沼津が好きなんですか?
あかり:そうなの。虹子さん・・・虹子でいいかな。私は富士宮の出身なんだけど、沼津に親戚のうちがあって、よく遊びに行ってたのよね。静岡というと清水エスドリームとジョイフル磐田でしょ。あと藤枝ラブFCもあるけど、やっぱり沼津が好きなの。まず名前がいいでしょ、ユニがかっこいいでしょ、スタグルが美味しいでしょ。試合の内容?いいのよ、ちょっと足りないぐらいがちょうどいいの。巴御前だって岡谷の出身で信州松本SCを応援してるんだからさ。しょっちゅう愚痴ってるけどね、だらしないって。
「情報量やば。名前があかりだけに、スイッチ入ると止まらんやつだこれ」
虹子:素晴らしいですね。ところで、聞きたいことがあって。
あかり:【グランブル沼図のマスコットらしきキャラが首を傾げているスタンプ】
あかり:なになにに、グランブルの何が聞きたいの?何でも言って。
虹子:あ、富士宮焼きそばの美味しいお店知ってるかなって。地元だって聞いたので。
あかり:な〜んだ、早く聞いてよ。私の実家は富士宮の鉄板焼き屋なの。
「そうなんだ」
虹子は会話がグランブル沼津から移ってくれたようでホッとした。思い切って名前を聞いてみることにした。
あかり:「あかり」って店
虹子:あ、あかりさんの名前と一緒
あかり:さん付けいらない。あかりちゃんでいいわ。
「唐突にちゃん付け要求かい!」
あかり:場所は駅から5分ぐらい。
虹子:近いですね。
あかり:グルガイの評価は富士宮で5本の指に入るけど、私がいたら絶対に一番ね。
虹子:えっ?
あかり:私、何を隠そう、富士宮の鉄板焼き大会クイーンだから(ピース)
意外なことを聞いてしまった。あかりによるとサッカー選手を目指しているが、いずれは富士宮で家業を継ぐ予定だという。そこからカリスマ女亭主として名前を広めて、沼津に2号店を出したいんだそうだ。
「そしたらグランブル沼津の試合にいつも行けるでしょ」とメッセージを送ってきたので、虹子はそこから話が続かないようにまとめた。そしてUNITYで朋美に通話をする。
虹子「やった。あかりちゃん、実家が富士宮の鉄板焼きやだって」
朋美「おお、でかした。ちゃん?」
虹子「そう呼ぶように言われて・・・」
朋美「無自覚な女王様タイプかもしれないな」
虹子「それで彼女の名前を言ったらサービスするように連絡しておくって」
朋美「おおおおおお〜エアハイタッチ」
虹子「バシッ!」
そういう訳で、虹子と朋美の二人旅は始まったのだった。




