再びの屋上
パァン!
掌がコンクリートを叩く、乾いた音が鳴った。
右手の指が屋上の縁へかかる。
胸から下は届かず、身体が壁面へ叩きつけられた。
遅れて左手も縁を掴む。
両手の指先がコンクリートへ擦れ、皮が剥がれた。
「っっはぁ……!」
壁を蹴り、肘を縁へ乗せる。
身体を引きずり上げ、そのまま屋上へ転がり込んだ。
仰向けに倒れ、大きく空気を吸い込む。
太陽はほぼ真上にあり、梅雨とは思えない青空が広がっていた。
熱を持ったコンクリートが、制服越しに背中を焼いている。
一激を解くと、身体はただの高校生へ戻った。
走り続けて溜まった疲労が、そのまま全身へ残っている。
脚だけが細かく震え、息を吸っても肺の奥まで空気が入らなかった。
「ゔあぁぁあぁ!!!!!」
幾つもの濁った咆哮が、向かいの屋上から重なる。
首だけを動かしてそちらを見ると、ゾンビたちは今も僕へ向かって走り続けていた。
先頭の一体が屋上の縁を踏み越える。
その後ろも止まらない。
こちらへ手を伸ばしたまま、次々と宙へ消えていった。
遥か下から、湿ったものが潰れる音が断続的に返ってくる。
下を見たらきっと後悔するだろうな。
ようやく落下音が途絶えたところで、深く息を吐いた。
雲が一つ、青空の端をゆっくり流れていく。
汗が額を伝い、制服の背中が肌へ張りついていた。
身体を起こそうとして、掌へ痛みが走る。
両手の指先は裂け、コンクリートの粉が血へ貼りついていた。
手の甲で額の汗を拭い、ゆっくり上半身を起こす。
向かいの屋上に残っているゾンビは、さっきより減っていた。
膝へ手を置いて立ち上がり、屋上扉のノブを回す。
重い抵抗のあと、扉が僅かに開いた。
隙間の奥は薄暗い。
階段の下から、何かを引きずる音と濁った呻き声が返ってくる。
扉を閉め直し、周囲を見回す。
外付けの階段は見当たらない。
給水塔。
室外機。
点検口。
その脇に、清掃用らしい道具がまとめて置かれていた。
結束バンドで束ねられたロープ。
その先には、金属製のフックがついていた。
結束バンドを外し、束を解くと、ロープは屋上を横切ってもまだ余った。
そのまま縁まで引きずり、地上を覗き込む。
建物の周囲には、数十体のゾンビがうろついていた。
さっきの騒ぎで集まったらしい。
時折首を持ち上げ、何かを探すように顔を左右へ揺らしている。
……このままロープで地上に降りてもあれの餌食になってしまう。
その時、視界の端である構造物がふと目に入った。
電柱。
配電盤。
そして──太い支線ワイヤ。
街の隙間を縫うように、張りのあるワイヤがピンと伸びている。




