屋上・サバイバル・デッド11
「みんな集まったかな。先に状況を伝えるよ」
無月が、生徒たちの顔を見回した。
「三日前に依代が持ち帰ってくれた食料が、もう底をつきかけている」
生徒たちの間にざわめきが広がっていく。
不安そうに顔を見合わせる者。
ブルーシートの奥に積まれた食料へ、確かめるような視線を向ける者。
「大丈夫だから、落ち着いて聞いてくれ」
声が大きくなる前に、無月が片手を上げた。
「校内に、防災用の備蓄があることが分かった。まだ量や状態は確認できていないけど、食料を確保できる可能性がある」
「そう! この私に覚えがあってね!」
ぬめった声が割り込んだ。
教頭が胸を張り、生徒たちの輪の中央へ入り込んでくる。
額には汗が浮かび、薄くなった髪が張りついていた。
「無月君たちが困っていたようだから、私が手を差し伸べたのだよ。いやはや、大したことではないがね!」
無月は一度だけ息を吐いた。
「……教頭先生から、学校に防災用の備蓄があると聞いた。これから確認へ向かう必要がある」
「校内にあるなら、さっさと探しに行けばいいじゃねえか」
赤間が苛立ったように声を上げる。
「また依代に行かせりゃ済む話だろ」
無月が静かに赤間へ視線を向けた。
「依代が行くことを、当然みたいに言うな」
赤間の口元から笑みが消える。
「前回も依代は、一人で校内へ下りて食料を持ち帰ってくれた。僕たちが命令できることじゃない」
「じゃあ、誰が行くんだよ」
赤間が顎を突き出す。
「依代以外に、あの中を歩いて帰ってこられる奴がいるのか?」
生徒たちの間に緊張が走った。
風に煽られたブルーシートが、ばさりと頭上で鳴る。
誰も声を上げない。
「……依代が、自分が行くと言ってくれている」
無月の声が僅かに沈む。
「僕はまだ納得していない。でも、ほかに案がないのも事実だ」
「笑えねえな」
松風が頭を掻きながら、苦い顔をした。
「結局、また依代頼みかよ。他に手がねえのは分かってるけどさ。前と同じ顔して送り出せるような話じゃねえだろ」
普段より低い声だった。
それでも無月だけを責めるような響きはない。
生徒たちへ向けられていた視線は、最後に松風自身の足元へ落ちた。
「いやいや、松風君」
教頭が間へ滑り込む。
「まだ子供である無月君に、そこまでの責任を求めるのは酷というものだよ」
松風が眉を寄せる。
「別に無月だけを責めてるわけじゃ──」
「分かっているとも」
教頭は松風の言葉を遮り、無月の肩へ手を置こうとした。
その直前、無月が半歩だけ位置をずらす。
教頭の手は何もないところを通り過ぎた。
僅かに指を曲げたあと、教頭は何事もなかったように腕を引く。
「リーダーというものは、時に自ら危険へ身を投じ、皆の信頼を得なければならない」
無月は答えない。
「もっとも、それを経験の浅い無月君へ求めるのは酷だろう。大人が責任を引き受けるべき場面というものがあるからねぇ」
誰が向かうかという話になってからも、教頭だけは一度も不安そうな顔をしていなかった。
「だからこそ──」
教頭が両手を広げる。
「ここは私が率先して、手本を見せようじゃないか!」
誰かが小さく息を呑んだ。
教頭はそこで初めて僕へ顔を向けた。
細められた目だけが、妙に嬉しそうだ。
「依代君、私が君に付き添ってあげよう」
胸元へ手を当て、大仰に顎を上げる。
「教師としての引率というやつだ」




