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異世界にて9

「……魔法適性値は、限りなくゼロに近いですね。1stランクの初歩魔法すら、行使するのは難しいでしょう。それに……マナの器も標準を大きく下回っています」


無月たちと別れたあと、僕はセラフィム・カテドラル南棟、そのさらに奥にある石造りの検査室へと通された。


先ほどまでいた謁見の間とはうってかわって、質素な部屋だった。


窓はなく、石壁に囲まれた室内には、古びた机と椅子が一脚ずつ置かれているだけ。


しばらく待っていると、黒いローブを羽織った男たちが三人、無言で入ってきた。


挨拶はなかった。


中央の男が水晶玉のような物を机へ置き、「これに手をかざせ」とだけ告げる。


言われたとおりに手を差し出すと、水晶玉はぼんやりと輝いた。


けれど、その光は弱く、すぐに消えた。


向かって右の男が、手元の紙へ結果を書き込みながら口を開く。


「勇者はエゴばかり注目されがちですが、実のところ、魔法適性やマナの器の容量が飛び抜けている場合も多いのです」


中央の男が水晶玉を覗き込みながら続けた。


「エゴが弱くとも、それを補って余りある魔法の才能を持っているという例もあります」


「くくっ。だが、貴様はその両方が底辺……終わってんな、お前」


左端の男だけが、愉快そうに喉を鳴らした。


右の男はそちらを見ることもなく、紙へペンを走らせている。


「これでは修練を施す意味もありません。ただ飯食らいを養う必要もないでしょう」


中央の男が水晶玉を布で拭い、箱の中へ戻した。


「残念ですが、あなたはこれで正式に戦力外です。城から追放いたします。お疲れさまでした」


「……追放って、国外追放的なことですか?」


なにせ追放された経験がないので、想像でしか話ができない。


「なんだ、案外冷静じゃねえか。つまんねえ」


「あくまで城からの追放ですので、王都を出る必要はありません」


右の男は僕を見ず、手元の紙へ何かを書き加えながら答えた。


「このまま王都ルクレアの外縁区で暮らしてください。治安は少々悪いですが、住む場所くらいはあります」


「そうですか」


外縁区。


言葉の響きだけで、あまり良いところではなさそうなことは分かる。


「……ところで、他の勇者たちには僕の追放をどう説明するんです? 才能がないから切り捨てた、では無月が黙っていませんよ」


あの性格なら、間違いなく食ってかかるだろう。


「ご心配なく」


中央の男は、口元だけを持ち上げた。


「『依代様は特殊な修練のために出立された』とお伝えします。本人が不在なら、信じるほかありませんから」


「でも、それだと中途半端ですよね。王都で僕が無月たちに会ったら、あることないこと吹き込みますよ」


「それも問題ありません」


男は机の上の紙を重ね、端を揃えた。


「実際に特殊な修練へ出立されるのは、他の勇者様方です。魔王討伐が終わるまで、王都へ戻ることはありません」


……周到すぎて、少し感心してしまう。


「その力では、王都を出て遠くへ行くこともできませんからね」


王都の中で暴れられるほど強くはない。


外では魔獣とやらが跋扈していて、遠くへも行けない。


とても効率のいい飼い殺しだ。


あの王女は、僕に魔法の才能があっても、なくても、同じ場所へ連れてこられる言い方をしていた。


あの気品も、言葉も、礼節も。


すべては計算のうちか。


「……なるほど。最後に一つ、いいですか?」


「あァ? なんだ?」


「広間では、エゴには成長の可能性があると説明されましたが……ここまで、その話が出てこないということは」


左端の男が、片方の眉を上げた。


「察しのいいガキだな。理論上は可能ってだけだ。少なくとも、王国の記録に成功例は一件もねぇ」


おっと……一人もか。

そこまでは察していなかったな。

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