異世界にて7
御法川
エゴ名:恩知不
本人が武器と認めた物の威力を増大させる。
四方田さん
エゴ名:サイレンとナイト
対象の危険度を色で可視化し、それと同程度の力を持つ騎士を召喚する。
嵯峨さん
エゴ名:黒
任意の範囲における重力の方向と強度を操作する。
無月
エゴ名:正義漢
一定時間、状態異常を含むあらゆる攻撃を無効化する。
エゴ名:自己矛盾
一定時間、指定した相手の戦闘能力を自分と同程度まで引き下げる。
全員の能力を確認し終えたところで、ティアラ王女が口を開いた。
「なお、エゴは発現した時点で完成された力とは限りません。稀ですが、その性質や威力が成長する可能性もあると伝えられています」
「成長……ですか?」
無月が手元のカードから顔を上げる。
ティアラ王女は柔らかく微笑んだ。
「はい、今ここに現れた能力が、皆様の力のすべてとは限りません」
文字が現れなくなるまで新しいカードを確かめ、それぞれが自覚した能力を聞いた結果、随分と個性的なエゴが発現していることが分かった。
聞いただけなら、本当にそんなことが可能なのかと疑うような能力ばかりだった。
けれど本人には、なぜかできて当たり前のこととして理解できるらしい。
僕も同じだった。
初めて自転車に乗れた時に似ている。
一度身体が覚えてしまえば、なぜ乗れるのかを考える必要はなくなる。
理解したというより、確信した。
エゴとは能力だけでなく、このできるという認識まで含めた力なのかもしれない。
「それと……依代様。もう一度、エゴを教えていただいてもよろしいでしょうか?」
指先に残る感覚を確かめていると、ティアラ王女から声をかけられた。
「え? あぁ、僕のエゴは一激です。能力は……」
説明を続けるうちに、ティアラ王女の眉間へ薄く皺が寄っていく。
「……一定時間、自分の身体能力を二倍にできるようです」
ティアラ王女は伏し目がちにカードを見つめ、先ほど白い束を取り出した側近へ視線を送った。
側近から新しいカードを受け取り、僕の手の上へ載せる。
しばらく待っても、白い表面には何も浮かばなかった。
「……承知しました。依代様。残念ですが、こうしたことは初めに明言すべきでしょう」
ティアラ王女は白紙のカードを側近へ返し、僕へ向き直った。
「あなたの能力では、魔王討伐についていくことはできません」
先ほどまで声に含まれていた柔らかさは消えていた。
「……理由を聞いても?」
「単純です。あなたの能力は《《弱すぎる》》のです」
「……弱すぎる……ですか」
「はい。身体強化系のエゴは、戦闘において有用です。しかし、効果が及ぶのは依代様ご自身のみ。そのうえ、強化倍率も二倍程度では、到底戦いについていくことはできません」
「はぁ……」
「従軍されても戦力にならないばかりか、足手まといとなる可能性が高いでしょう」
側近は僕のカードを束へ戻し、そのまま視線を外した。
無月の能力が明らかになった時には身を乗り出していた廷臣たちも、今は僕を見ながら小声で何かを囁き合っている。
「ちょっと待ってください! そんな言い方はあんまりではないですか!?」
無月が声を上げた。
「そもそも、まだ僕たちは戦うと決めたわけではありません。そんな中で、能力の強弱だけを見て人を値踏みするような発言を聞かされて、誰が喜んで協力するでしょう?」
「……ごもっともなお言葉です」
ティアラ王女は胸元へ手を添え、僕へ頭を下げる。
「依代様、大変失礼いたしました。しかし、それほどこの戦いにおいてエゴが重要なのだとご理解ください」
頭を上げた後も、その表情は変わらなかった。
廷臣たちの囁き声も止まらない。
「戦うかどうか決めかねるお気持ちも、よく分かります。情報が足りない中、この場で決断を求めるのも性急な話でしょう」
ティアラ王女の声に、先ほどまでの柔らかさが戻る。
「別室にお食事をご用意しております。そちらで、より詳しいお話をさせていただけませんか? 皆様はこちらの世界へ来て以降、何も口にされていませんよね?」
「あー、そりゃあいいな。これからどうするにしても、腹が減ったまんまじゃ何も考えられねぇ」
「あんたは、いつも何も考えてないでしょ」
「あぁ!? 今なんつった!?」
「二人とも落ち着いて」
言い争いを制し、無月がティアラ王女へ向き直る。
「……いずれにしても、考える時間をいただけるのは助かります。お心遣いに感謝します」
そう言って、軽く頭を下げた。
「いえ。それでは皆様、こちらへどうぞ」
ティアラ王女は微笑み、謁見の間の出口へ歩き始める。
数歩進んだところで足を止め、僕だけを振り返った。
「ただ、依代様はご一緒いただけません」




