証拠は全て揃いました! 悪徳公爵を叩きのめす最高のフィナーレ
「——以上の通り、我がヴァルター公爵家は今後も皇帝陛下を支え、王宮の秩序を守ることを誓います!」
煌びやかな大聖堂のような「皇帝即位記念式典」の会場。
高壇の上に立つヴァルター公爵の朗々とした声が響き渡り、皇帝をはじめとする全貴族、そして魔法騎士団から惜しみない拍手が送られていた。
公爵の口元が、勝利を確信した醜い笑みに歪む。
邪魔な変人皇子は軟禁し、貧乏文官の娘は地下牢で一生を終えるはずだ。これで王宮の財政も権力も、すべて自分の思い通り——。
バァァァァンッ!!
式典会場の巨大な重厚扉が、爆風とともに吹き飛んだ。
「な、なんだ!?」
白煙と静寂が立ち込める中、煙の向こうからカツン、カツンと二つの靴音が近づいてくる。
現れたのは、息をのむほど美しい姿だった。
洗練された漆黒のドレスに身を包み、堂々と胸を張るロザリア・フェルゼン。そしてその隣で、白銀の礼服を纏い不敵な笑みを浮かべる第四皇子ルシアン。
「お騒がせしてすみません、皆様。⋯⋯定時退勤の前に、どうしても処理しなければならない『重大な書類の不備』がありまして」
澄んだロザリアの声が、会場の隅々にまで響き渡った。
「ロ、ロザリア!? なぜ牢から⋯⋯! 警備兵、捕らえろ! 囚人の脱獄だ!」
ヴァルター公爵が蒼白な顔で叫ぶが、ルシアンが冷ややかに指を鳴らす。
次の瞬間、天井から降ってきた無数の「科学粘着弾」が警備兵たちの足元を襲い、身動きを完全に封じ込めた。
「静かにしたまえ、公爵。僕たちのプレゼンテーションはまだ始まったばかりだ」
ルシアンが腰のベルトから取り出したのは、見たこともない金属製の筒型ガジェット——「超高輝度・科学プロジェクター」だった。
彼がスイッチを押すと、強烈な光の束が吐き出され、大聖堂の巨大な白い壁面に巨大な画像がデカデカと映し出された。
「「「な⋯⋯なんだこれは!?」」」
大観衆からどよめきが起きる。
壁に投影されたのは、公爵が消去したはずの「裏帳簿の化学分析結果」と「毒薬購入の筆跡鑑定」、そしてルシアンの試薬によって鮮明に浮かび上がった「殺人現場の血痕反応」の拡大画像だった。
「見苦しい言い逃れはおやめください、ヴァルター公爵」
ロザリアは手元の羊皮紙すら見ず、暗記した数字とデータを淀みなくスラスラと叩きつけ始めた。
「あなたが過去5年にわたり横領した王宮財政の総額は、金貨四十二万五千枚。さらに、その不正を隠蔽するために毒殺した財務大臣の死亡推定時刻⋯⋯あなたが『公務中』と主張していた時間帯と、ルシアン殿下の化学試薬が証明する犯行時刻は完全に一致しています!」
「ぐっ⋯⋯そ、そんな幻灯機の胡散臭い光など証拠になるか! 魔法の偽造だ!」
なおも足掻く公爵に向かって、ロザリアはとどめの一撃となる書類の束をドサリと床に投げつけた。
「魔法ではありません、科学と確定的な事実です! 現場に残されたあなたの指紋、ならびに密売ルートの台帳は、すでに皇帝陛下直属の監査官の手元に渡っております!」
「⋯⋯なん⋯⋯だと⋯⋯?」
皇帝が重々しく立ち上がり、冷徹な視線を公爵へ向けた。
「ヴァルター公爵。⋯⋯お前の言い分は後で聞こう。連れて行け」
「ひっ⋯⋯ひぃぃぃぃっ! お、お許しをぉぉぉっ!」
権力を振りかざし、全てを揉み消そうとしていた悪徳公爵は、なりふり構わず泣き叫びながら騎士たちに引きずられていった。
会場全体を支配していた重苦しい雰囲気が吹き飛び、割れんばかりの歓声と拍手がロザリアとルシアンを包み込む。
(ふぅ⋯⋯! 終わった⋯⋯! 私の勝ち、完全にスカッとしたわ!!)
ロザリアが心の中で盛大な勝利のガッツポーズを決めた、その時だった。
ルシアンがロザリアの前に進み出ると、大観衆の前で、優雅に片膝をついた。
「で、殿下⋯⋯!? 一体 何を⋯⋯」
ルシアンは胸ポケットから、眩い輝きを放つ大きなダイヤモンドの指輪——ではなく、何やら怪しげな「複雑な回路が刻まれた金属の指輪」を取り出した。
「ロザリア。君の圧倒的な書類解読能力と不屈の精神は、僕の科学捜査に不可欠だ。⋯⋯いや、僕の人生そのものに不可欠だ」
ルシアンは真っ直ぐな瞳でロザリアを見上げ、大真面目な顔で宣言した。
「公爵の財産没収に伴う懸賞金で、君の実家の借金は全額完済された。⋯⋯だが、僕は君を逃がすつもりはない。僕の『永久専属パートナー』として、そして——僕の皇子妃として、生涯僕の隣にいてくれないか?」
「⋯⋯え?」
「ちなみにこの指輪は、僕の特許技術が組み込まれていてね。君が危険に晒された瞬間に僕の元へ空間転移できる最新ガジェットだ。⋯⋯どうだい?」
会場中から「おぉぉっ!」 「微妙なプロポーズだわ」 「受け取れー!」 「ちょっとキモくない?!」という野次と歓声が上がる。
ロザリアは呆れたように大きな溜息を吐き、それから——今日一番の暖かな笑みを浮かべた。
「はぁ⋯⋯どこまでも科学バカなんですから、殿下は」
ロザリアは差し出された手をとり、その指輪を受け入れた。
「いいでしょう。ただし条件が一つあります」
「なんだい? どんな無理難題でも科学で解決してみせるよ」
「私の定時退勤と、週末の完全休日を保証すること。⋯⋯約束していただけますね、ルシアン殿下?」
「ふっ⋯⋯努力はしてみよう、僕の愛しい捜査官」
引き寄せられ、深く重なる二人の唇。
大歓声と科学プロジェクターの眩い光の中で、貧乏文官と変人皇子の、最高に爽快で波乱に満ちた新しい物語が幕を開けたのだった。




