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第四十四話 終話

 あかりは気絶した。怪異は満身創痍ながらも立っている。

 気絶した彼女に向かって、よろよろと歩き出した。刀を構えてあかりにとどめを刺そうとしている。


 動けるのは碧依だけだった。ここで初めて、あかりは碧依だから回復してくれたことに思い至る。

 彼女にとっては無意識だっただろう。しかし、そこには友達だからという感情が乗っていることを確かに感じた。


「やらせない……」


 碧依は刀を構える怪異に向かって走り出した。その音に気がついたのか、こちらに振り返る。しかし先ほどのあかりとの戦いのダメージが残っているのか、動きは比べ物にならないほど緩慢だ。

 

 細剣を構えて、振り下ろす。剣身が捉えたのは、狐面だった。

 金属音が周囲に響き渡る。数秒の沈黙のあと、面にヒビが入っていく。


「本当の顔を見せるのが怖いんでしょ?」


 碧依の言葉に答えるかわりに、大きな音を立てて割れた。現れた顔は、泣いている橙夏だった。


「本当に、悲しいなぁ……」


 彼女は小さく呟いて、消える。


 碧依が膝を地面につけると同時に、時間の動きが戻る。怪異を倒すことができた証左だった。


 周囲の一般人のざわめきが聞こえる。複数の少女たちが倒れてたら、そりゃ驚くだろう。


 肩で息をしながら、碧依はここで気絶したらダメだと踏ん張った。

 ゆっくりと立ち上がり、鼓動を落ち着かせる。


 一緒に戦った魔法少女たちも、順番にゆっくりと立ち上がっていた。あかりは紫音に手を貸してもらっている。

 碧依はそんなあかりのすぐ上を見つめる。そこに時空の切れ目ができつつあることを認識した。


『危険な魔法少女を教えてくれてありがとう碧依』


 聞き覚えのある声。かつて学校の怪異を倒したあとにあかりを殺したものと同じものだ。

 今また、あかりを直接始末するために現れたのだ。


 周囲の魔法少女たちは、何が起きているのか分かっていない。それはそうだろう。彼らが直接関与してくるところを見てるのは、この時間軸では碧依だけなのだから。


『褒美に君だけは解放してあげよう』

「……そんなものいらない」

『いいのかい? まぁ、こちらとしてはうれしい限りだけど』


 それじゃあと声が切り替える。あかりに殺意を向けてるのが分かる。このままでは彼女はあの時のように殺されてしまうだろう。未来人にとっては、見られているなど関係ないのだから。


 もう一度いう、このまま何もしないならあかりは殺される。

 果たして碧依は、そんなことを許すだろうか。


「……美鳥、今だよ」


 碧依が呟くと同時に、再び周りの時間が止まる。魔法少女たちは驚いて周囲を見回していた。


『な、なんだこれは!?』


 同じように驚く声を上げた未来人に向かって、碧依は言い放つ。


「今、感情を一番動かしたね?」

『何を──』


 声が途切れる時空の切れ目の奥で、何かが弾ける音が聞こえた。

 美鳥の怪異の能力は、怪異内で感情の揺れが大きいものから殺されていく。時空の奥でも例外ではないのだろう。

 

 管理していた未来人が殺された変化はすぐに訪れた。過去に影響を与えていた一人が死んだのだから、当たり前だ。

 景色が歪み、崩れ、無くなっていく。時間の矛盾を直そうと、ひずみが起こっているのだ。


 碧依はすべてがなくなる前に、あかりに近づいて彼女の手を握った。顔を見て、笑う。


「やっと……助けられた」


 それだけ言うと、碧依の記憶はそこで途切れた。



※※※※※※※※※※



 碧依はゆっくりと目を開ける。

 いつもの天井にいつものベッド。外から差し込む朝日は、微睡みをゆっくりと覚醒させていく。


 今日から高校生となる碧依は、変わらぬ朝を迎えた。


 用意を手短に済ませ、玄関を出る。朝日を感じながら、彼女は新しく迎える生活に心を躍らせる。


──はずだった。


「やぁ、おはよう碧依」


 玄関に佇むポコン助を見て、碧依は目を細めてため息をついた。

 どうやら自分はまだ解放されていないらしい。それでも、あかりを一時的とは言え救えたのは前進だろうか。


「当然、あいつらを一人倒したくらいでは終わらないよ。怪異も魔法少女もまだまだいるからね」


 ぬいぐるみの言葉に分かってるよと碧依は短く答える。

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