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黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
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第9夜 黄泉がえりの百鬼夜行(1)

「今晩は、東條閣下、ご機嫌はいかがでしょうか。」


「頗る良い。」


「夕飯の時は、大変でした。井上さんが自分のおかずがないと大騒ぎ。」


「本当に、土肥原の奴が食べたのだ。私は見た。」


「本当ですか。言ってください。」


「仲間を裏切れんよ。では、黄泉がえりの話を聞いてくれ。」


「お願いします。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 10月19日、午後6時過ぎ、都内、某所料亭でその会合はあった。

 私が料亭に着くと朝鮮から板垣征四郎大将もすでに着座し、殉国七士が揃った。


「板垣閣下、遠いところお疲れ様です。」


「木村次官、宴席の手配ありがとう。私は、こういう場所は苦手でね。」


「東條閣下は、仕事は剃刀のようにできますが、こういう席は苦手でしょうから。でも首相みずから酒席を用意しろというのでびっくりしました。」


 私は、皆の顔を見た。


「皆さんお揃いのようですので、始めましょう。その前に、今日は嶋田海軍大臣、永野修身軍令部長、山本五十六連合艦隊長官、杉山元参謀総長、山下奉文中将、赤松秘書官にも同席してもらいますがご了承ください。」


「陸軍ばかりで海軍関係者がいないので結構でしょう。」


 広田外相から声が上がった。一同から「異議なし」の声があった。

 障子が開けられ、紹介された皆が入ってきて会議は始まった。


「嶋田さん。昼間はご苦労様です。」


「今日は、参りましたな。会議冒頭、国策遂行要領の白紙還元だと言われたのには。」


「すみません。今日、集まってもらったのは、嶋田さん達に是非とも理解してもらいたいことがあるからです。信じられないと思うが、実は、私の頭の中に、死後の自分の霊魂がいるのです。」


 嶋田たちは、面食らった顔で、もの言いたげだ。


「最後まで聞いてくれ。その死後の霊魂が言うには、大日本帝国は、昭和20年8月15日、無条件降伏を受入れ、対米英蘭戦に敗れる。国土は焦土と化し、私は、敗戦の責任を取って、米軍に死刑にされる。そして、ここにいる広田閣下、板垣大将、松井大将、土肥原大将、武藤中将、木村中将も同様に死刑に処せられ、死後の自分が今、頭の中にいる。嶋田さんは、自己弁護が完璧で死刑を免れて無期禁固刑だった。だから我々と違って、仲間はずれというところかな。はははは。いや、これは失敬。」

 

 嶋田海相、永野軍令部長、山本長官、杉山元参謀総長、山下中将、赤松秘書官も声もでず、7人を見つめた。


「嶋田さん、東條君が言っていることは、冗談ではない。本当だ。霊魂が宿ってから冗談も言うようになったが。」

 

 広田元総理がそう言うと他の5人から「本当だ。」との声が上がった。東條は、何が本当か。冗談を言うことか、黄泉がえりが本当かと思ったが言わなかった。広田は続けた。


「永野さんの最期ですが、我々と同じように戦犯となり、裁判中に病死しました。山本さんは、昭和18年4月18日、ブーゲンビル島で米軍機の待ち伏せに会い、戦死しました。その後、国葬です。暗号が米軍に解読されまして、行く先が判明された結果です。外交暗号も解読されました。杉山参謀総長、あなたは戦犯になる前にさっさと自決してしまった。山下君は可哀そうにシンガポール華僑、マニラ虐殺の罪で死刑になった。それも、辻正信参謀と大本営のせいですよ。」


 物事に動じないと言われた山本五十六長官が、驚愕の顔を隠さない。


「俄かには信じられませんが。東條総理それで、どうして我々を呼んだのでしょうか。」


「山本さん。対米戦はルーズベルト大統領が仕組んだ罠なのだ。ルーズベルト大統領は、欧州大戦に参加するために、日本に先制攻撃させようと、わざわざ手の込んだ日米交渉を行い、開戦を遷延し、米国の戦争準備を整えたのだ。だから、真珠湾攻撃はだめなのです。」


「えっ。その作戦は、まだ海軍上層部しか知らないはずでは。それに日米交渉は、八百長だったのですか。」


「俺は、誰にも話していないぞ。山本長官。」

 永野軍令部長が弁解した。山本長官は、知るはずのない真珠湾攻撃を総理大臣の私が知っているので、また驚いた顔をした。


「八百長ではなく、罠だよ。最初に良い顔を見せ、後で条件を吊り上げ、相手を怒らせるという訳だ。」


「そうですな。今から考えるとなぜ、あんな馬鹿な戦争をやったのか。」

 木村次官が悔しがった。


「それから、ドイツは、来年1月にはモスコーの攻略に失敗し、昭和20年5月には無条件降伏します。」


「やはり、冬将軍に敗けたか。」


「そうです。ドイツ軍得意の電撃戦も補給線が伸び切って、上手く機能できませんでした。ソ連軍は、縦陣を深くし、相手を呼び込んで、疲弊するのを待ってから反撃に出たのです。」


「危惧したとおりであったか。」

 杉山総参謀長は、がっかりしたようだった。


「実は満州帝国に油田があります。それも膨大な埋蔵量です。しかし、利用できるまでには、1年以上はかかります。」

山本長官がまた驚きながらすぐに反応した。


「石油がある。それが本当なら帝国の国策は根本的に変更できます。」

土肥原賢二大将が話を引き取った。


「本当だ。しかもハルピン付近と遼河に。山東半島にもある。その上、朝鮮半島には大量の鉄鉱石、希少金属もある。」

永野軍令部長はどうやら私の話を信じたようだ。話に乗ってきた。


「それは、対米戦を根本から考え直さないとだめですな。」


「満州の石油があれば、1・2年後には帝国は石油に困らない。今日の会議の目的は、そのことを前提に帝国の国策を考え、帝国の戦略を考えたいと思います。」

山本長官も納得した様子だった。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 もうじき見回りの時間ですから今日はここまでとしましょう。

 続きはまた、明日、お話しましょう。


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