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黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
78/81

第78夜 アメリカ抗議する

挿絵(By みてみん)

「今晩は、東條閣下。ご機嫌はいかがでありますか。」


「頗る良い。」


「日本軍の緒戦は、優勢だったのですね。」


「緒戦だけではない。」


「そうなんですか!。」


「話の続きをするぞ。」


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 1942年1月19日、駐日米国大使グルーが外務省に出向いた。外務大臣に面会を申し込んで来たのだ。

「本日は、日本政府に対し、抗議に来ました。」


「抗議とは、穏やかでないですね。伺いましょう。」


「日本政府が16日未明、英領マレー半島及びシンガポールに対し、開戦したことは、他国の領土の主権を侵害する行為であり、ハーグ不戦条約に違反する行為であるので、断じて容認できない。直ちに日本軍の撤退を求める。

また、シンガポールに停泊中のアメリカ海軍駆逐艦ホイップル、ジョン・D・エドワーズ、エドソール、オールデンを一方的に攻撃、沈没させたこと、その上、乗員130名を死亡させ、62名に負傷させたことは断じて許せない行為である。加害責任者に対する処分並びに被害者及び遺族に対する補償、米国海軍に対する賠償について日本政府の誠実な対応を求める。日本政府の如何によっては、アメリカ政府は、応戦せざるをえないものである。

以上、2点について、1月26日までに日本政府の誠意ある回答を求める。」


 広田外相は、1点目の抗議については、予想していたが、2点目の米国海軍駆逐艦の沈没については、初耳であった。


「今、米国海軍駆逐艦4隻を攻撃、沈没させたと言われたが、それはどういうことですか。」


「額面通りです。米国海軍駆逐艦4隻を攻撃、沈没させたのです。」


 広田外相は、とんでもないことになったと考えこみ、かろうじて口を開いた。


「マレー開戦の件は、26日までに回答できますが、沈没の件は、早急に海軍に確認した上で、回答をいたしますので、26日と言わず暫時猶予をお願いしたい。」


「26日までに回答できない場合には、調査状況をお知らせください。進捗していない場合には、米国は、開戦しますよ。」


「しかし、何故?シンガポールに米国駆逐艦がいたのですか。」


「駆逐艦ホイップルは、レンドリース法による貸与のためシンガポールに輸送されたのです。星条旗を掲げて、イギリス海軍乗員に対し、訓練中でした。他の3隻は、米英共同軍事訓練のため寄港していました。」


「そうですか。分かりました。」


「では、良い回答をお願いする。」


 外務省は、大騒ぎになった。それもそのはず、松岡洋祐外相時代のドイツ派官僚を英米派官僚に入れ替え、親英米の姿勢を外務省は示していたのだ。それが、米国の駆逐艦4隻を海軍が一方的に撃沈させ、猛抗議を受けたのだ。


 広田外相は、直ちに、嶋田海軍大臣に連絡し、事実確認を依頼した。

嶋田海相は、南雲司令長官に無線連絡を取った。


 南雲司令長官からは、次のような報告があった。

 偵察機からの写真の映像には、駆逐艦が映っていたが、それが、英国と米国を識別できる資料がないので、不明である。空母赤城第15攻撃隊の井上機の偵察員が空母に並んでいる駆逐艦の星条旗を確認している。これ以上のことは、結局、不明であり、不可抗力による誤爆であると結論付けざるを得ないことになった。


 広田外相は、頭を悩ませた。アメリカとは開戦する訳にはいけない。今、ここで開戦となれば、海軍が恐れたようにフィリピンの米軍が脅威となるのだ。

広田外相は、電話の受話器を取って、海軍大臣官邸を呼び出した。


「嶋田さん、閣下と永野軍令部長と私の3人でアメリカ大使館に行って、この度の1件を謝罪して欲しいのだが。」


「私は、一向に構わないのだが、永野さんがどう言うか。アメリカは責任者の処罰を要求しているからな。それだけは、受け容れられぬ。」


「アメリカと事を構えるのが困難なのは、永野さんも分かっているはず。処罰の件は、誤爆とは言え、避けらないことはアメリカも承知のはず。日本は、ひたすら謝ることで、アメリカの世論に訴えるのが得策だ。駐米大使館に世論への働きかけをするよう命じます。」


 1月25日、午前10時、広田外相、嶋田海相、永野海軍軍令部長は、連れ立って駐日米国大使館を訪問した。


「大日本帝国政府及び大日本帝国海軍は、この度のホイップル号他駆逐艦の乗員の被害者並びにご遺族に対して、深く謝罪するとともに、亡くなられた方のご冥福を祈ると共にご遺族に対し哀悼の意を表します。」


3人は、深く頭を下げた。


「さらに、大日本帝国政府は、被害者及びご遺族の方に対し、誠実にその損害を賠償する用意があります。」

 

 グルー大使が確認するべく発言した。

「私が、要求した責任者の処分は、どうなりましたか?」


「偵察機からの写真、戦闘員の証言で確認されたところにより、日本政府は、謝罪するものであります。しかし、攻撃はイギリス軍港に対するものであり、アメリカ軍に対して行われたものではないことから、不可抗力である。したがって、責任者の処分をすべきでないとの結論を出しました。」


「責任者の処分がないことは、本国に伝達します。もう1点、確認したいことがあります。」


「何でしょう。」


「アメリカ海軍は、駆逐艦4隻を失っておりますが、この賠償はどうなっておりますか?」


「賠償することで本国に伝達してください。ただし、イギリス海軍と共同訓練中、貸与する予定だったことを米国も考慮をお願い致します。」


「分かりました。本国に伝達します。」


 私たち3人は、その後、NHKまで行き、外国人記者との会見に臨んだ。

会見の内容は、グルー駐日大使に説明したことを繰り返したものであった。

しかし、日本のシンガポール攻撃については、より詳細に説明したものであった。


「最後に、この度の大日本帝国陸海軍のマレー、シンガポール攻撃は、マレーシア独立軍の要請により行ったものであります。すでに、11月7日、大日本帝国政府は、英・仏・蘭・葡に対し、昭和16年12月31日までに、各植民地独立勢力の代表と独立の準備交渉に応じるよう通告し、応じない場合には、採り得るべき全ての手段を行使することを表明したことを実行したものであります。

 マレー上陸地点並びにシンガポール爆撃地点は、迎撃陣地、航空基地、軍港、軍施

 この度の、米海軍艦船は、共同訓練並びに英海軍への引き渡し訓練中であり、当方は、想定外のことと判断しています。

 重ねて被害者並びにご遺族に対し、謝罪いたします。」


「更に、英国の場合には、直ちに、蘭国の場合には、本年2月11日までに、英蘭政府が、マレーシア独立軍およびインドネシア独立軍に対し、独立交渉を開始し、将来の独立を承認する場合には、日本政府は、更なる攻撃を中止するものである。」


 この会見は、米国は、もちろんドイツにも伝わることを念頭にセットしたものだった。海を越えたワシントンの日本大使館でも野村大使が、マスコミ対応をすることになっている。日本側の遺憾の態度を徹底的に示すつもりで、国内の新聞に対しても事態を煽るような記事は避け、事実だけを掲載するよう海軍省・外務省から通知をした。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 もうじき就寝の時間ですから今日はここまでとしましょう。

 続きはまた、明日、お話します。


 節子さんの部屋には、今日は、普通に見回りしました。

「今晩は、今日も綺麗ですよ。」

 私たちは、キスしました。

「貴方も素敵よ。」



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