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黄泉がえりの東條英機  作者: 広田昭和
49/81

第49夜 アメリカ議会公聴会

「今晩は、東條閣下、四日ぶりです。ご機嫌はいかがでしょうか。」


「頗る良い。」


『会うな』の声は何だったのか。今も何かが意識の片隅にあるのは感じている。


「それでは、話をしよう。」


「お願いします。」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 昭和16年12月6日、米国ワシントンDC,下院外交問題委員会が開催されていた。委員会には、ルーズベルト大統領とハル国務長官が呼ばれていた。

 外交委員会の委員長は、民主党の議員であったが、日本のプレス発表と意見広告が効いて、委員会の公聴会が開かれた。

 ハミルトン・フィッシャー議員が短刀直入に聞いた。


「プレジデント。あなたは、戦争に参加しないという公約を掲げ、再選を果たされました。その方針は、今でも変わりありませんか。」


「私は、1937年10月、シカゴで『宣戦の布告も警告も、また正当な理由もなく婦女子をふくむ一般市民が、空中からの爆弾によって仮借なく殺戮されている戦慄すべき状態が現出している。このような好戦的傾向が漸次他国に蔓延するおそれがある。彼ら平和を愛好する国民の共同行動によって隔離されるべきである』と私は演説しました。  今もその主張は変わらないばかりでなく、イギリスや中国に対するあらゆる支援を与ええているのは、そのためです。」


「プレジデント。あなたは、質問に答えていない。合衆国は、自らヨーロッパ或いは中国またはその両方の戦争に参戦するか、しないか。」


「ある国の危機が我が国の安全保障にとって重大な危険となる場合には、自ら攻撃を指示する場合もある。」


「それは、合衆国が遠いヨーロッパやアジアの戦争に巻き込まれることを意味するのではないか。」


「私は、ドイツや日本という恐ろしい伝染病が英仏や中ソによって隔離できず、合衆国までに蔓延する恐れがあれば、攻撃する可能性があると、安全保障問題を論じている。」


「それでは、質問を変えます。大西洋会談で、大統領は英首相に対し、日本がフィリピンはもちろん英・蘭領を攻撃すれば、極東での戦争に加わるつもりだとの発言はしているか。」


「そのような発言内容は、記憶にありません。」


「あなたの記憶にないのは、どちらでもよい。発言した事実はないかあるか。あらゆる記録、関係者の記憶にもないと言い切れるか。あとから、この話が事実となった場合、あなたは責任をとるべきだ。」


「記憶にないのだから責任はとれない。」


「大統領として、このような重大な事柄を覚えていないのは、その職責を全うできないので、辞めるべきだと言っているのだ。」


「辞めるかどうかは、合衆国国民、議会が決めるべきである。」


「それでは、大統領に確認します。インドシナの英領または蘭領が攻撃された場合、アメリカの安全保障にとって危険であるか。」


「それは、当然、フィリピンが危険になるということであり、我が国にとって、良いとはいえない。」


「それでは、その攻撃国に対し、フィリピンが攻撃されていない場合でも反撃する計画や構想、大統領単独の考えはあるか。」


「我が国に安全保障に関係する作戦計画、構想は、当然、選択使の一つとして用意してある。しかし、だからと言って、私は、我が国がこれらの攻撃に積極的に反撃すべきであるといえない。」


 今度は、民主党の委員が質問に立った。


「ハル長官に質問します。11月26日、長官が日本国政府代表に通告した覚書がお手元にあると思うが、その内容は、本当ですか。」


「本当です。しかし、これはが我が国と日本との秘密外交の文書であり、日本が信義を破った以上、日本との今後の交渉は、継続が難しくなると考えます。」


「本当ということが確認できました。それでは、大統領に確認したい。日本側は、受入れ難い3項目として、満州国をふくむ支那及び仏印からの全面撤兵、中国国民党重慶政府以外のいかなる政府の否認、三国同盟の事実上の廃棄を上げています。その上で、新たなそして最終的な提案をしてきています。あなたは、今後の交渉を是非継続していただき、日本側の言う3項目で、譲歩できる用意がありますか。」


「これらの提案は、私は、日本側の画期的な案と思うが、今後の継続は難しくなると考えるし、外交交渉にかかわることなので、秘密会であっても答弁はできない。」


「それでは、日本の最終提示案、第2条の(三)治安維持を目的とする内蒙古・北支の一定地域に日本・米国陸海軍各20,000人を上限とし、3年間駐兵する。(四)(三)の駐兵以外の軍隊は日中平和条約が成立後、直ちに撤兵する。ただし、満州国は除く。(十一)満州国は、民族独立権に基づき政治を行う。関東軍は、軍事に専念する。具体的には、2年以内に普通選挙により選出された議会と政府を創設する。(十二)満州国における日本軍の駐兵は、(十一)を実施した後に決まる政府との条約によって決する。

第3条 米国が欧州戦争に対する態度は、もっぱら自国の福祉と安全とを防衛するという見地によってのみ決することを声明する場合には、日本国政府は、これをもって参戦することはないことを声明する。

これらの日本側の提案は、検討に値する提案と思うが、大統領はどう取り扱うか。」


「ハル4原則及びハル・ノートの提案を基に交渉を進めたい。妥結する可能性はあると考える。」


 フィッシャー議員が痺れを切らして言った。

「大統領、日中両国は、12月7日明日から講和交渉の予備会談を行うと聞いています。今や、わが国が日中間問題を日米交渉の取引材料にすることはできないと考える。私はあなたが日米交渉を無理やりとん挫させ、ヨーロッパや中国の戦争に参戦しないことを希望する。」


「私は、我が国が他国の戦争に巻き込まれるのは望まない。だが、我が国の安全保障にとって危険であると考えたときは、今までの大統領もそうであろうが、敢然と戦う覚悟がある。日本やドイツ・イタリアがそうさせないことを希望する。」


 フィッシャー議員の公聴会での参戦に対する質問に対し、ルーズベルト大統領は、曖昧な答えしか言わなかったが、共和党系の新聞社は、「大統領、参戦否定明言せず」と書き立てた。

 

 公聴会が終わって、ホワイトハウスで。

「ハル君、この公聴会は、どうなっているのかね。君はハル・ノートを突きつければ、日本は、宣戦布告すると言ったではないか。」


「はあ、申し訳ありません。まさか秘密交渉の内容を暴露されるとは思っていませんでした。」


「それにしても日本が記者会見だけでなく意見広告まで出すかね。」


「はい、例の『マジック』情報では、10月下旬には、開戦準備が整うということで、こちらは遷延工作をしてきたわけですが、東條内閣に替わってから何かおかしいのです。」


「東京のグルー大使から何か情報はないのか。」


「はい。11月にソ連のスパイ事件が起きてから、どうも変です。日本の議会で支那講和、ソ連国交断絶の決議が採決されたとの情報が入っています。」


「それは、いつのことか。」


「はい、東部時間、17日午前4時のようです。」


「そうか。東京時間で18日午後2時。まだ、君のデスクまでしか届いていないようだな。」


「どうもすみません。政府の動きではないのでご報告しませんでした。」


「日本は、次にどう出ると思うね。」


「日中が講和に動いたとなると対米交渉から中国に関する部分の削除を要求するでしょう。」


「とすると、我々はどうするかね。」


「中国に条件を引き上げるよう要求するしかないですね。」


『広田の先生』:(東條さん、アメリカの公聴会の模様を伝えます。)

『東條の先生』:(何か、変化があったかね。)

『広田の声』:(ルーズベルトは、追い込まれています。日中講和会談が成立した場合は、

アメリカは、対日制裁を継続できなくなりそうです。また、今、英蘭の植民地解放戦争を支援してもアメリカからの宣戦布告はなさそうです。)

『東條の先生』:(対米交渉に目途がつきそうかね。)

『広田の先生』:(はい、日中次交渉次第です)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 もうじき就寝の時間ですから今日はここまでとしましょう。

 続きはまた、明日、お話します。おやすみなさい。


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