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放課後の魔少女——楽園は次の角に  作者: 結城コウ
第六章「苦楽を分かつ人々」Sie teilen Lieb und Leid.
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6-1

章管理を見直して分割しました。

 週明けの火曜日の朝。

 高原詩都香(しずか)は文化部棟の一階で開かれた委員会にまず出席した。

 この日の議題は、土曜日に委員全員で見学に行った附属中学校の文化祭――非公式の通称“徳操前祭”のことである。先月京舞原(きょうぶはら)市を震撼させた連続誘拐事件が一応の解決を見たことで、無事開催されたのだ。

 高校生から見た意見をまとめて中学の委員に渡し、来年度からの文化祭に活かしてもらうことになっている。もちろん、女子大学の委員会からも同じように意見が送られるが、例年の傾向として、高校からのものは少し厳しい「先輩」のような、大学からのものは優しい「姉」のような性格になりがちなのだとか。

 詩都香も昨日書いたレポートを提出した。全員分コピーされたものが昼休みまでに届き、放課後はそれに基いて議論することになっている。

 下足箱に待ち構えていた手紙に嘆息してから教室に向かう。同じく四階に向かう一年生の委員の目もあるので、こそこそと鞄にしまいこんだ。

「――絶対そうだって。ほら、制服だってうちのだし」

「うーん、まあたしかに似てるけど……」

 教室に入ると、前の方で数人の女子生徒が集まり、何事か議論していた。

 中に親友の相川魅咲(みさき)の姿を見つけ、詩都香はなんとなくそちらに近づいていった。

「あ、しずちんだ。聞いてみようよ」

 詩都香の姿に気づいた度会という女子生徒が、雑誌を片手に詩都香を出迎えた。

 その後ろで魅咲が憂鬱そうな表情を浮かべていた。

「どうしたの、渡会さん? またそんなもの持ってきて」

 あまり品のいいとは言えない大衆向け写真週刊誌。本人が買っているのか、家族のものを持ってきたのか。

「おはよう、しずちん。ね、これってさ、しずちん?」

 広げられた誌面に向けた詩都香の目に、「放課後の逃避行――人気アイドル、地元でも“百合営業”!?」という見出しとともに、その写真が飛び込んできた。

 河合涼子と、詩都香の写真だった。

「なっ……」

 詩都香は絶句した。

 写真の中の二人は、街の中を手を繋いで走っている。

 涼子が振り返った瞬間を捉えたもので、彼女の方はカメラ目線に近い。

 一方の詩都香は横顔だけの写り込みである。かろうじて左の目元が窺え、表情が読み取れる。

 笑顔と笑顔を向け合う、素晴らしいツーショット写真だった。

 何も言えぬまま本文に目を通す。

 大した内容ではなかった。見出しほどの悪意はなく、詩都香の個人情報に繋がるようなことも書かれていない。茶化す調子はあったが、最近話題になった別のアイドルの恋愛報道と絡めてどちらかと言えば好意的な筆致である。

 問題はやはり写真だった。涼子と手を繋いでいる女子生徒の制服は、市内の人間ならたいてい水鏡女子大附属高校(ミズジョ)のものだとわかる。

 その上、詩都香の顔にはぼかしも目線も何も入っていないのだ。横顔だけとはいえ、完全無修正の素顔を晒している。詩都香を知る者なら同定も不可能ではない。

「な……いつ……こんな……」

 詩都香のその反応で、度会たちは確信を持ったようだ。

「あ、やっぱりしずちんだったんだ」

「ほら魅咲、やっぱそうじゃない。あんた友達の顔も見忘れたの?」

「ていうか高原さん、河合涼子と知り合い?」

「知り合いどころかこうやって手を繋いでるんだもん、そうとう仲いい、ううん、それどころか――」

「えーっ! エス?」

 などと口々に騒ぎ立てる女子たちだが、詩都香が青ざめた顔で写真を凝視しているので、しだいにそのトーンが下がっていった。

「しずちん?」

「もしかしてこの写真――」

 魅咲が後を引き受けた。

「盗撮なのはまあ見ればわかるけど、許可出したわけじゃない、ってことだね」

「うそ……勝手に?」

 詩都香は唇を結んで小さく頷いた。

 げんきんなもので、そうとわかると「ひどぉい!」の大合唱である。

「魅咲、ごめん。ちょっとあと頼んだ」

 ちらちらと眼差しを向ける魅咲にそうとだけ言い、詩都香は廊下に飛び出した。

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