共鳴戦線
~あらすじ~
暗殺者、マリオ・コールマンと対峙した春山と梓、そして歌音の三人。張り詰めた緊迫感の中、マリオの攻撃に耐えるのみ……。
一発逆転の間隙を突いた攻勢が戦況を傾ける……!?
低い朝日は校舎の奥まで仄かに照らし、視覚は徐々に明確になる。撃ち抜かれ砕けた蛍光灯は火花を散らし、崩れた壁が廊下に散らばる。
足場の悪い中、歌音は地に潜るマリオ・コールマンを狙い撃っていた。
しかし、どの一撃もマリオを射止めることはない。
マリオは地から瓦礫・刃物の投擲を止めず、攻めは止まらない。春山が“浮遊”の魔術で瓦礫を盾に転用し、防御を担う。しかし、状況は防戦一方だ。
「次、斜め左前方から多段攻撃が来るわ」
梓も意識を防戦に回し、姿の見えないマリオの攻撃を凌ぐに終わる。
「ちょっと梓! 私ら大見得切ったクセに手も脚も出てないんですけど!? かなりダサいんですけど!?」
春山の扱う瓦礫の盾に身を潜め、歌音は悲鳴を上げる。
「このまま敵の弱点を暴くまで防衛するのは、確かに建設的じゃないですね……」
続いて春山も弱音を溢す。冷や汗の伝う表情から、春山も息つく暇がないようだ。
気を抜けば戦況は一気呵成に動き出す。梓の索敵頼りの状況で、敵の観察など容易ではない。
三人が手を出しあぐねる間もマリオの攻撃は止まらない。投擲される瓦礫は、ボロボロの校舎から無尽蔵に採取できる。
地に潜るマリオは更に高速。歌音の光弾の間を達者に駆け抜け、攻撃にも余念がない。
「くぅっ……!」
「痛っ!」
「っ!」
マリオの手数の多さに、三人のスタミナはジリジリと削られ、とうとう破片が身を切った。
それぞれが息を切り、呼吸が荒くなる。
そして三人の連携が弱まる隙を見逃すマリオではなかった。
「まず 一人 ……」
それまで一定の距離を保っていたマリオは、加速して接近する。その手にはダガーナイフを握り、地中から標的を定めた。
マリオが最初にダガーの的にしたのは……。
「やっぱりそう来るのね!」
歌音は上擦った声と同時に身体を動かしたが、マリオの速さには紙一重で間に合わない。
「くぅっ……!」
そして鮮血が舞った。
マリオのダガーは首筋を掠める。
「春山さぁぁん!」
歌音が光弾を放つも、ヒットアンドアウェーのマリオはすぐに地に逃れた。
自らに魔術をかけた春山は刃の直撃を避けた。しかし勢いのいい出血は簡単には止まらない。
「大丈夫春山さん!?」
すぐに駆け寄った歌音は春山の傷口を伺う。
すぐにブラウスの裾を引きちぎった春山は止血を行った。
「油断しないで歌音、真下に来てるわ」
「っ! このしつこいキモい!」
梓の檄で、歌音は反射的に乱射した。足元のコンクリートが蜂の巣にされ、マリオはようやく距離をとる。
「二人とも気を取り直して。やつはまだ狙ってるわ」
春山を背に庇い、梓はマリオの動向を探る。
「大丈夫、まだ行けます」
「でも血が止まってないよ……」
春山は歌音の手を断って独力で立ち上がる。足取りはまともだが、血の気が引いていくのが分かる。
春山の様子を見かねた梓は歌音に指示を出した。
「陣形を変えるわよ。前に出るわよ歌音」
「了解、近付けさせるものですか!」
守りの要だった春山が満身創痍な以上、守りに入っては圧倒的不利だ。梓の判断は良策ではあるが、博打であるのも事実である。
「二時の方向、壁伝いに天井へ」
「頭上を迂回しながら後方に移動中」
「投擲物四つ……、接近されるわ、牽制して」
梓はマリオの放つ僅かな音も逃さない。的確に位置と動きを把握し、歌音への伝達も素早い。
歌音も梓の伝える位置へ正確に光弾を撃ち込んでいた。投擲物の全ても全てを撃ち落とし、光弾が命中するのも時間の問題だ。
結論、二人は善戦していた。
相手がマリオ・コールマンでなければ競り勝っていただろう。
プロの暗殺者として裏社会で名の通るマリオにとって、この様な戦況は飽きるほど通過してきた道である。
敵が位置を把握出来たとしても、マリオが姿を現さない限り傷は負わない。マリオが姿を現すのはその首根っこを掻き切るときのみだ。すなわち、辛抱強く待てばマリオは負けない。
ただ気の向くままに翻弄し、針の穴のような相手の緩みを突く。
長年の死線から得た経験は、マリオの最大の武器だった。
「次は投擲物が三つ来るわ。方向は、丁度真正面」
「了解!」
梓は自身の能力を最大限引き出して警戒の網を張る。歌音の正確な射撃も相まって、戦況が変わった。ように思えた僅かな油断が二人の足元を掬った。
ジュッ……!
光弾が放たれる。
キィィン、キィンッ!
投げ付けられた鉄片が弾かれる。
「おかしい……、一つ足りない……!?」
光弾の迎撃をした歌音が違和感を察した。だが時すでに遅し。
撃ち漏れた一片が梓の腱を貫いた。
「っしまった……!」
さすがの梓も虚を突かれ姿勢を崩す。そのまま壁にぶつかり地に腰を落とした。
マリオは、二人の連携が一人でないことの綻びを見事に突いた。
梓の指示は耳を使ったもの。そして歌音の射撃は眼を使ったもの。他人同士の聴覚と視覚では大きな実感の差がある。その差を見逃さなかったマリオは、歌音の死角に入るように、鉄片を鉄片の影に隠したのだ。
梓がそれに気が付いても、伝達の言葉を編むタイムラグがある。マリオは賢しく器用であった。
唇を噛み締めた梓は、負傷した右足を庇い、壁にもたれ掛かりながら立ち上がる。その姿は痛々しく、壁に背を預けることで立っている状態だ。
歌音はすぐに梓の元へ駆け寄ろうとするが、それを振り切ったのは梓本人だった。
「梓、だいじょう……」
「私の足下を撃って、早く!」
「っ……、わかった!」
理解が追い付かないまま、歌音は梓の指示に従った。
なぜって? 梓が無駄なこと言うはずがないじゃない!
事実、梓の指示には余念がなかった。
狙い通り梓の機動力を奪ったマリオが次に行うことは、敵の中核でもある梓の殺害。
マリオが取る次なる手段はすでに決定していた。
梓の背後の壁に潜伏し肉薄、そして奇襲をしかける。
背後から肩を鷲掴みにされた梓は、思いの外の握力に表情を強張らせる。
歌音もマリオに奇襲に反応をしてはいたが、半ば梓を人の盾にされた状況に、容易に射撃は出来ない。
マリオの手にしたダガーが梓の喉元に触れたとき、思わず歌音は眼を逸らした。
校舎一杯に、悲鳴とも取れぬ絶叫が木霊する。




