夜明け後、嵐前
~あらすじ~
長かった夏休みが明け、王太郎は久々のクラスメイトと顔を会わせていた。
しかし依然として紗耶とは気まずい距離を保っていた。
そんな中開会が宣言された大会だったが、同時に“会議”というワードに皆が息を呑んでいた。
一方の零は三ヶ月も経たない内に世界樹にとんぼ返りしていた。
世界樹に集う権力者たちは何を企むのか……?
暑さの頂点が過ぎ去ってもなお残る暑さに汗を浮かべる。
俺はそれを拭いながら、夏休み終わりの生徒たちの喧騒に一人、耳を傾けていた。
「海へ行った」「祭りに行った」だの、「宿題しかしていない」だの「宿題終わってない」だの……。そんな定型句をだらだらと並べる喧騒に一抹の安心感さえ覚える。
俺なんて地元の田舎で一生傷増やしただけだぞ。
この言い方だとワンパクな小学生か! と思うかもしれないが、まぁ切断傷だったり刺傷傷だったりするのだが、大した思い出でないことは確かだ。
俺は窓際の自席で夏休みの記憶に黄昏ていた。
すると昴と颯介の同室コンビが登校してきた。
「よう」
「おう」
「おはよう王太郎」
手短に二人と挨拶を交わすと、席が近所の俺たちは話し込む姿勢になった。
「王太郎は夏休みどうだったの? 宇佐美さんと一緒に地元に帰ったんでしょ?」
「まぁ色々あってな……。端的に言うと一生傷が増えたくらいか」
「何だよそれ。無邪気な小学生じゃあるまい」
ですよねー。
詮索されるのも気分がよくないので、とりあえず「ははは……」と愛想笑いで誤魔化す。
二人とも特に気にかかることはなかったらしく、同じように笑って話題を戻した。
そのとき教室の扉が爽快に開き、ショートカットの髪を靡かせる女生徒が入ってきた。
「おっす」と小さく手を上げて挨拶を交わすと、ショートカットの女生徒もとい、紗耶が後方の席に着いた。
「……」
「……」
俺と紗耶の間に会話が生まれない。
何て言ったって、あの花火大会以来俺と紗耶は顔を会わすどころか会話すらしていない。
他の連中は二騎先生 の計らいもあって花火大会の一件は知らない。しかし超関係者の紗耶とは気まずくなってしまう。
当の紗耶も気まずいらしい。さっきから携帯を見て
「いや~、今日も暑さマックスだね。夏休み続行でいいんじゃない」
などと冗談めかしている。
昴と颯介に違和を感じさせない紗耶なりの工夫なのだろうが、昴の視線がどこか鋭い。
颯介は勘づいているようには見えないが、異様な空気に発する言葉さえ慎重に選んでしまう。
その間にも生徒は登校し、珍しく七海と恵梨香が始業の予鈴に直前で滑り込みで登校した。
予鈴が甲高く鳴ると担任と副担任が入室。それも『この二人どこかでスタンバってたの?』ってレベルで予鈴と同時に。
二人の教師が入室すると、先程までの浮わついた空気は消え去った。このクラスもいい感じに纏まってきている。
クラスの雰囲気を受け取った二騎先生が口を開いた。
「夏休み明け早々だが、来週に学園を上げた大会が執り行われることになった」
二騎先生は開口一番、大会の開催を告げた。
そして二騎先生から話を受け継いだ香月先生が用紙を読み上げる。
「来週の月曜日から三日かけてトーナメント形式での大会が開催されます。この大会は外部の識者を招待し、学園での日々の努力の成果を発表する機会でもあります。皆さん、ぜひともご健闘を!」
一通りの決まり文句を読み上げた香月先生は一人拍手をする。クラス中からも疎らに拍手が鳴り、満足した香月先生は出場者を発表した。
「私たち1組からは向坂君に出場してもらいます。拍手!」
そして再び拍手。
しかし今度の拍手はクラス中から鳴り響き、出場する昴を激励した。
ただ一人、納得をしていない生徒がいた。
「ちょっと待った。どうして俺なんだよ?」
それは昴自身だ。椅子から立ち上がり、机を叩いて抗議する。
選出した俺としては、昴がこんな反応を示すとは思ってもいなかった。
昴の抗議に答えたのは、やはり二騎先生だった。
「喧しい、選ばれたからにな胸を張って受け入れろ」
「しかし勝つことを目的とするならば、俺は宇佐美を推薦します。俺は前線に立つよりも後方支援向きなんですよ」
しかし昴は二騎先生の意見をすんなりとな受け入れない。
昴の言動からして自身が選ばれたこと事態ではなく、人選の適切さに不満があるらしい。
昴の正当な意見に二騎先生は溜め息を一つ吐いた。そして視線を俺に向ける。
あぁ俺に説明責任があるんですね。分かります。
先生からの視線の意を解した俺は静かに手を挙げた。
そして二騎先生が俺を指名する。
クラス中の視線が俺に集まる。その中には、漏れなく昴の眼差しもあった。
「選んだ理由についてだが、確かに昴の魔術の特徴まで考慮していない!」
「だったら人選を再考すべきだ。今からでも間に合う」
「だがな昴。俺が昴を選んだ理由は他にある」
「……?」
言葉を遮り俺が言ったことに、昴は首を傾げた。そして静かに俺の次の発言を待つ。
「俺が昴を選んだのは、今まで目の当たりにした事件での昴の判断力を評価したからだ」
「判断力……? 俺の……?」
「こいつは何を言っているのか」と言わんばかりな眉をひそめた昴は、ただただおうむ返しをした。
どうやら昴は自身への評価を誤っているようだ。
この際、昴を誉め殺しにしてやろう。と俺は心に誓う。
「あぁそうだ。葉吹市の事件での昴の的確な指示に対応。魔術でのサポートも去ることながら冷静な状況判断。
夏休み前の森の調査でも、昴は俺たちを助けてくれた。
どんな状況でも焦らず冷静に、かつ実践経験の豊富さが昴を選んだ理由だ。
他にもあるぞ。例えば」
「分かった分かった。もういい承ったよ」
俺がある程度昴を誉めちぎると、参ったと言わんばかりに昴が口を挟んだ。降参したように手を振って承諾する。
後ろの席の颯介も微笑んで拍手をし、クラスの雰囲気も和やかになった。
そんな中、二騎先生が咳払いとともに教壇に立つ。クラス中の雰囲気が一瞬で張り詰めた。
「さて、ここからが本題だ。心して聞け」
教壇に上がった二騎先生は、いつになく真剣な面持ちだ。
「何事か」と全員が注視するなか、二騎先生が重々しそうに口を開く。
「大会の日程と“会議”の日程が重複してしまっている」
「ん? “会議”……?」
先生の言ったことがよく理解分からなかった俺は一人、同じワードを反復していた。
しかし他の生徒の様子は違った。
全員が息を呑み、瞳を揺らしている。まるで見えない金槌で頭を打たれたような表情の生徒も見てとれた。
“会議”が被っただけで大仰な。俺は内心で笑っていた。
「“魔王会議”……」
誰かがそう呟くまでは。
世界評議会本部、通称“世界樹”。その最上階の一室、V.I.P.専用の待合室は静寂に包まれていた。
「…………チッ!」
物静かな空間に舌打ちが木霊する。
しかしその舌打ちを諌める人間はいない。
再び静寂が空間を支配した。
「……………………チッ!!」
すると先程よりも苛立たしげな舌打ちが返ってきた。
そしてやっと舌打ちをした張本人が口火を切った。
「何のための緊急招集か、説明くらいしろよクソが」
机に両脚を投げ出した男が一番近くの役人に八つ当たりした。
答えを知らない役人は恭しく頭を垂れて謝る他ない。その行動が男の気を逆撫でする。
「零、八つ当たりもその辺りにしてください。上に行きますよ」
扉を開け放った人物が零をたしなめた。その人物は銀色の燕尾服を翻し、そのまま零を部屋の外へ誘う。
燕尾服の男に促された零は役人には目もくれず、扉を潜った。
「おい孔明、そろそろ招集の意味を教えろよ。どーせ知ってるんだろ?」
「さぁ……、どうでしょうね……」
燕尾服の男、劉孔明は糸目を吊り上げて問いかけを誤魔化した。
話をはぐらかされた零は再三の舌打ちをしたものの、それ以上は何も言わなかった。
それ以上の憤りを表に出すならば、もしかしなくとも暴力となる。零にはその確信があった。
つまり、零の機嫌は最高に最悪なのだ。
元来、零は世界評議会嫌いの魔王である。以前、零が籠ったオルガを訪問したときさえ世界樹が震撼したほどだ。
そんな零がものの三ヶ月で世界樹にとんぼ返りすることは異常なのだが、それは零にとっても立派すぎるストレス源である。
零は己の憤懣を制御しながら、世界樹の 最 上 階 よ り 更 に 上 の階を目指した。
そこは世界広しと言えど、たった12人しか立ち入ることの出来ないフロア。
専用のリフトで到着する階には、文字通りの世界の支配者たちがいる。誰にも手出しが出来ず、誰も手を出そうとしなち聖域。
「さぁ着きましたよ」
世界の頂きに到着した11人目の支配者。
そこには最高権力者の世界評議委員全てと、世界最強の“大罪の魔王”の内の六人が顔を揃えていた。




