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歪な純真

~あらすじ~

 謎の地下室に着いた王太郎はとある日記を見つける。

 その内容に驚愕する王太郎だったが、さらに驚きの内容を含む一紙を発見する。

 一方アケディアの正体を知った紗耶たちは戸惑いを隠せずにいた。

 その場に復日真党の党員がやってきて明知の説得を試みる。が、全く耳を貸さない明知は暴挙に出る。

「……何よここ。秘密基地みたい」

「秘密基地“みたい”と言うより、まんま秘密基地だな、こりゃ」


 復日真党ふくにちしんとう党首室に空いた謎の空間に入った俺と恵梨香えりかは梯子を降りて、この空間に辿り着いた。

 ほの暗い蛍光灯に照らされ、秘密基地のような怪しい隠し部屋を探る。

 床に敷き詰められたコードは部屋中の様々な機材に繋がっている。大小様々な機械はピコピコビービー起動している。用途は分からないが、かなり高性能な機械だということは何となく分かった。

 そして確かに言えることがあるなら、政党や個人が持つには大袈裟すぎる機材である。


明知あけち哲也てつや、あの男は何者なのよ」


 部屋を粗方探り終えた恵梨香はアゴに手を当てて熟考のポーズをする。

 恵梨香が考えに耽る間、俺は部屋の中の探索を続行していた。


「なんだこれ?」


 そして俺はブックスタンドに並んだノートを発見した。

 そのノートの周りには乱雑に紙が散っているのに、ノートは綺麗な状態で並べられている。

 一番右のノートを手に取る。無題のノートのページを適当に開く。


『201X年 5月12日』


 どうやら日記のようだ。開いたページの日付は昨日のものだ。

 続きを読み進める。


『201X年 5月12日

 街は今日も平和を気取っている。やつらは自分たちが受けている不条理に目を瞑り、与えられた欺瞞の平和で餌付けされている。僕にはそんな世界は耐えられない。

 だがそんな世界とも明日でお別れだ。

 三年前に受けたの屈辱は忘れない。

 僕は何が起ころうと、正義は勝つ』


 昨日の日記はそこで終わっていた。

 何とも物騒というか、恨みの籠った文面だ。文字の一つ一つは均等に綺麗に並んでいるものの、筆圧は今にも消えそうなほど弱々しい。

 そして気になった「三年前」という文字。

 もしこの日記が明知 哲也という男そのものなら、この部屋の存在意義が分かるはずだ。

 それに、俺の直感が正しければ明知哲也がアケディアだ。

 並んだノートから三年前の日記を見つける。一番最初のページを捲る。


『200U年 5月13日』


 日記はこの日付から始まっている。

 そのページを広げて小声で音読する。


「『200U年 5月13日

 評議会は何も分かっていない。僕の研究の成果を、最先端科学の結晶を『兵器』と蔑んだ。

 だからこの屈辱を忘れないためにも、そして復讐の道標として日記をつけようと思う。

 復讐は今日から丁度三年後。やつらが『兵器』とよんだもので、やつらが作り上げた“大罪の魔王”という偶像を利用しよう。

 それに、今日は悪いことばかりではなかった。

 僕の意志を汲み賛同する者に出会えた。彼らは……』 “レ、レキンダレ”?」


 何て読むんだ? 分からねぇ……。とりあえず読み進めよう。


「『……と名乗り、僕と共に世界を変えることを誓った。

 R.K.に栄光あれ』

っと、ここで終わりか」


 書き連なった文面を、もう一度目でなぞる。

 書き手の思いがひしひしと伝わる手書きの文字はやや薄れている。


「太郎! とりあえず外へ出ましょう。騒動が収まったら、改めて調査してもらいましょう。今は竜崎りゅうざきを探すことが先よ」

「そうだな。それと俺は王太郎おうたろうだチビ」


 恵梨香の呼び掛けに応じ、ノートを戻そうとした。すると、乱雑に積まれた紙の山が崩れてしまう。


「あぁ、もう! ちゃんと整理しとけよ!」


 いらいら口に出して崩れた紙を拾い上げる。

 すると目についた紙に書かれた文面に目が止まった。

 この隠し部屋に来る前に覗いたパソコンの画面を彷彿とさせる図面。文字は日本語に訳されている。

 そして目に留まった単語を読み上げる。


「魔力、放出、飽和、暴走……、魔獣化!? おい、恵梨香これ見ろよ!」


 俺は急いで恵梨香の元へ紙を持っていく。

 目を通した恵梨香も血色を変えた。


「何よこれ。これが本当なら……」

「急ぐぞ恵梨香、紗耶さやたちが危ない!」


 そのときの俺の頭には「竜崎を見つける」という目的はなかった。

 梯子を手繰り寄せるように上り、アケディアとの戦闘の場へ駆ける。






「首への負担を考慮した、頭部装甲を軽量化したのが仇となったな……。改良の余地はある」


 ヘルメットの頭部装甲を投げ捨てたアケディアこと、明知哲也は呟いた。傾いた黒縁眼鏡を正す。


「あなたがアケディアだったの」

「どうしてこんなことを……」


 アケディアの正体を知った紗耶さや七海ななみは同様の色を隠せない。


「おい、相手が誰であろうと狼狽えるな。気を抜くと殺される。そういう戦いをしているんだ……!」


 狼狽する二人に檄を飛ばしたすばるは力みながら先頭に立つ。

 昴はいうでも防御をできるように腰を落とし、アケディアの出方を伺う。


「いいね、そのやる気。次の攻撃もさっきみたいに防いでごらんよ」


 アケディアは攻勢などまるで気にしていない。その表情は新しい玩具で遊ぶ子供のように輝いている。


「ふ、ふふふ……。はっはっは!」


 突如笑い出したアケディアは右腕の大砲を変形させる。

 大砲が大きく割れて内部から様々なパーツを展開される。独りでに動くパーツは大砲を飾り、あっという間に形が一変したものになった。

 変形した大砲は全長が倍以上になった。本体は不格好に太り、砲口は大口に開いている。


「変形しそうだと思ってたら、本当に変形しちゃったよ」

「米谷、気を抜くなよ。何か仕掛けてくる」

「うん、分かってるよ」


 昴たちは一層警戒心を高める。魔力を高めて攻守の準備は万端だ。

 アケディアの不気味な右腕に魔力が集中する。太った本体の中に魔力がどんどん高まっていく。

 昴の額には冷や汗が走った。


「ちょっとヤバイぞ……! あんな兵器アリかよ!?」


 何かを察した昴は顔色を変えて叫んだ。

 紗耶と七海は絶叫に驚愕する。昴の血相変えた表情に焦りが募った。


「昴くんどうしたの?」

「俺の考えが正しければ、あれは人道を外れたモンだ」

「だから何なのよ!?」


 紗耶が昴の答えを急かした。

 昴が言葉を選んで単刀直入に答えようとしたとに、三人の後ろで物音がした。

 物音に気が付いた三人は慌てて振り返る。そこには復日真党員の面々がいた。その顔には絶望の表情が張り付いている。


「に……、新見にいみさん? あなたは何をして……?」


 弱々しい声で小太りの男がアケディアに問いかける。目の前の出来事を理解できていないのか、表情筋の動きは全くない。

 魔力の集中を中断したアケディアは、党員を一瞥すると吐き捨てるように言った。


「……誰だっけ?」

「そんな!? 私ですよ。あなたの復日真党の事務所長の……」

「あぁ、そんな顔してたね。ごめん忘れてた」


 アケディアの喜色は消え去り、冷たい視線で党員を眺める。


「で、なに?」

「『なに?』ではなく……、あなたはどうしてこのようなことをなさっているのですか!? 我々の目的はこんなことではありません!」


 小太りの男は必死に訴えかけるがアケディアには響かない。

 アケディアはつまらなさそうな顔で話終わりを待っている。そんなアケディアに小太りの男は弁を奮い続ける。


「あのさ……、もういいかな。君に説教される筋合いはないんだよね」


 聞き飽きたようなアケディアは男の話を断ち切った。男はハッとした顔をする。

 アケディアは男から視線を切って、仰々しい大砲をもたげた。


「まずは君からでいいや。魔導学園の諸君、僕の魔学の集大成から目を離さないでくれよ」

「撃ってくるぞ。宇佐見と俺で弾道を誘導する」

「分かった。私が最後の迎撃するね」


 アケディアが不気味に微笑んで魔力の集中が再開した。

 緊張感が高まり、昴と紗耶が防御の構えを取る。七海も油断なく 迎撃の体勢を整えた。


「魔力充填完了……。魔弾“ヴァイラス”発射!!」


 アケディアは発射の号令を叫んだ。蓄積された魔力が弾け、大口の砲口から光の魔弾として撃ち出された。


「させない! いくよ向坂くん!」


 昴と紗耶は氷と鉄の壁で魔弾の軌道を誘導しようと試みる。

 だが砲弾よりも自由に飛び回り素早い魔弾は、すぐに二人の魔術を追い越した。


「うそっ、速い!」


 魔弾は後衛の七海をも追い越して小太りの男に直撃した。

 魔弾を受けた男は即死するわけでもなく、眼を見開いて静止した。そして突然、身体のあちこちを苦しそうに押さえ出した。


「グッ、ググッ! アアアAaa!」


 もがき苦しむ小太りの男は天に向かって吼える。その瞳は生気を失い、血よりも赤く染まっていく。男が押さえた喉は黒々とした斑点が浮かび、皮膚は黒よりも黒い漆黒が満ちた。

 口からは怪しく光る牙が伸び、爪は凶器のように鋭さを増した。男の体躯は倍に膨らみ、筋骨隆々の別物へと豹変した。


「Gyaaaa!」


 理性の飛んだ男は人に非ず。そいつはまごうことなき魔獣だった。


「「うわぁぁぁ!」」


 魔獣の周囲にいた復日真党の党員たちは絶叫とともに逃げ出す。しかし逃げ遅れた一人は魔獣の腕に捕まり、呆気なく手の中で潰れた。


「うそ、人が……、魔獣に……!?」


 口元をを抑えた七海は言葉を失い座り込んだ。立ち上がる気力はもうない。七海の眼には涙が浮かぶ。


「Guaaa!」


 大猿のシルエットをした魔獣は、長い腕を振り回し暴れ回る。


「このっ! 止めろ!」


 紗耶が魔獣の腕に槍をぶつけが、魔獣の腕力に押された。力負けした紗耶だが、果敢に魔獣に向き合う。……その脚は震えている。


「はっはっは! 君たちのおかげでいい隠れ蓑だったよ。最後に僕のために死んでおくれよ!」


 魔獣の暴れっぷりを見てアケディアは高揚する。


「クソッタレが! この野郎一発殴るだけじゃ足んねぇぞ!」


 激昂した昴が氷柱を連投する。アケディアは氷柱を容易く避けるが、さらに昴の最大魔力で作り出された氷の龍が追撃する。

 アケディアは氷の龍と鬼ごっこをするように空中に逃げる。どこまでも追いかける氷の龍だったが、昴の魔力切れと同時に瓦解した。


「Kyyy!」


 魔獣は空舞うアケディア目掛けて飛び出した。

 アケディアは真っ直ぐ飛んでくる魔獣を数発のミサイルで撃ち落とした。


「そうだ、それでいい」


 起き上がる魔獣を見下ろして呟いた。


「既存の兵器は魔獣にはつうようしないが、僕の兵器は魔獣用の兵器だ。理性のない魔獣なんて敵じゃないな」

「お前の『変革』が何なのか分かったぜ」


 膝を着いた昴がアケディアを見上げて言った。その言葉に紗耶たちは意識を集める。


「人間を魔獣して自分でそれを殺す、ってことかよ……。そのための魔獣化の兵器に魔獣用の兵器、そして“大罪の魔王”を語って英雄となること」

「その通りだよ! 君は頭が切れるね」


 自らの目的を言い当てられたのにも関わらず、アケディアは嬉々とした声音ではしゃぐ。


「僕はね、ずっと“大罪の魔王”が実在するのか不思議だったんだよ。どうせ評議会の作り出した偶像だろうと思っている。

 だけどとても簡単なことに気付いたんだよ。僕が“大罪の魔王”になればいいんだ。魔獣を一掃する英雄になる! じゃあ魔獣はどこから持ってくるのか? いないなら作ればいいんだ。そのための魔学さ」


 アケディアは堂々と持論を繰り広げる。その顔には恍惚とした笑みが浮かぶ。

 そんなアケディアを目にして、紗耶は拳を握り締めた。強く地面を踏み鳴らして息を吸い込む。


「バッッッッッカじゃないの!!」


 怒鳴り付けた紗耶に視線が集まる。紗耶の顔は紅潮し、肩で息を息をする。


「どれだけ頭がよくても、あんたは決して英雄ではないわ! 英雄っていうのわ人の笑顔を守るのよ。あんたのワガママに巻き込むな、私はあんたを許さない!!」


 断言した紗耶は槍を構えた。切っ先はアケディアに向けられ、紗耶の意志が表れている。

 紗耶を見下ろすアケディアは小さく溜め息を吐いて頭を抱えた。


「君のような物分かりの悪いやつがいるから世界は不均衡なんだよ……。でもまぁ、どうせ魔獣になってしまえば世界は均衡だ」


 アケディアは右腕の大砲の照準を紗耶に合わせる。そしてアケディアの能力“追跡”で紗耶を確実に捉える。


「魔力充填完了…、発射ぁ! ははははは! さらばだ勇敢な学生よ!」


 障害物のない軌道を駆ける魔弾はどんどん加速して紗耶を狙う。

 槍を強く握る紗耶は魔弾越しにアケディアを睨み付ける。その視線に恐れはない。

 魔弾が紗耶に直撃しようとしたそのとき、紗耶と魔弾との間に割り込む人影が現れた。そして魔弾を殴り付ける。

 割り込んだ男の拳に打たれた魔弾は霧散して消える。


「笑うんじゃねぇぇ!!」


 アケディアに向けられた怒号が鳴り響く。

~キャラクター紹介~

明知 哲也

193cm、68kg

かつては世界に名の知れた物理学者だったが、三年前から消息が不明になっていた。

“怠惰の魔王”の新見零を自称し、復日真党を結成した。しかし本当のところは復日真党を隠れ蓑かつ、資金源として魔学の研究をしていた。

“大罪の魔王”は世界評議会が支配するために作り出した偶像だと思っており、自分が“大罪の魔王”となって世界評議会に復讐をしようと企てる。

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