プロローグ
遥か昔、ここより遠く西の国に狐貍精がいた。
狐貍精は妖怪仙人であった。
ある日のこと、娘の身体を乗っ取り、名君であった王への接近を試みた。狐狸精はすぐに王の心を掌握し、ついには正妻の座を奪う。
狐貍精の術により骨抜きになった王は、瞬く間に暴君へと成り下がる。昏君とも陰で囁かれるほど、その聡明さは見る影も無く、名声は地の底まで失墜した。
王は重税を民に課し、自分達は贅沢三昧の暮らしを続けた。毎夜毎夜が酒池肉林の大騒ぎ。それでも物足りないと感じた狐狸精は、油を塗って熱した銅の柱の上に罪人を歩かせる刑を思いついた。また、大きく掘った穴に無数の蛇を入れ、そこに人を突き落とす刑も考え、王と二人で、もがき苦しみながら死ぬ民の様子をけたけたと笑い楽しんだ。人の残虐な死に様に娯楽を見出だしたのだ。
あまりの傍若無人ぶりに、ついに見かねた側近が苦言を呈した。しかし王は憤慨し、部下に命じてその側近を殺してしまう。これにより、民草のみならず家臣の心も完全に離れてしまった。
その時には、既に王は形だけの、狐貍精に操られる生きた骸に成り果てた。
だが、そのような暴虐の限りを尽くした行いにも天誅が下る。
属国よりついに謀反を起こされ、天才軍師の指揮の元、重税に苦しめられ弱りきった国は、いとも簡単に軍の侵入を許してしまう。
狐貍精は殺され、王は燃え盛る城の中に身を投げ死ぬ。国は滅びる。そして、新しい国の誕生である。
そんな歴史の裏で、狐貍精のみならず、仙道と妖怪仙人の暗躍があったと言う。
天より命を受けた仙人が、人間界で悪事を働く妖怪仙人を懲らしめ、その魂を封印した。
だが、それが真実なのかは分からない。
全ては昔、昔の話。当事者しか知り得ないのだから。




