68.お披露目会、はじまります。
お披露目のためにお父様とお母様は、わたしの希望通りに新緑色をベースに胸元には薔薇の刺繍が入っているプリンセスラインのドレスを作ってくれた。こういうのを着ると、やっぱりここは異世界――というより、日本ではないと実感する。
ここが、お姉様が主人公の漫画の世界だと知ったのが、去年の年末前――そこから、アドルフ様を排除して、新しいストーリーが始まった。
それでも、お姉様とヴィンス様は結ばれ、わたしはリアム様にちょっかいを出されたり、それでもニールというかけがえのない人と、今日婚約式を行った。
そして、これからペイリー伯爵家の次期当主として、そしてニールの婚約者として、人前に立つことになる。
……半年に満たない時間で、よくここまで話が変わったものだわ。
そんなことを考えている間に、髪はゆるやかにまとめられ、新緑色のドレスに合わせて白い薔薇を飾られ、最後にネックレスが掛けられた。
「これで完成です、お嬢様」
エイダの言葉に鏡を見ると、そこには普段の自分とは違う令嬢が映っていた。
……これが、今日のわたし。
「とても素敵にしてもらったけど、ちょっと窮屈に感じてしまうわね」
「今日は我慢してくださいませ。本日は皆様の前に立たれる日ですから」
エイダは笑みを浮かべたままそう返してきたので、わたしは苦笑するしかなかった。
階下が賑やかになってきた。招待客が来たのだろう。わたしのお披露目のため、あとから登場になるので、もうしばらく待機だ。
気を紛らわせるために、エイダにいろいろ話しかけるんだけど、そこは無駄なことをしない有能メイド。たいてい「さようでございますか」で終わりにされる。
「もうっ、もうちょっと真面目に聞いてよ」
「聞いていますよ、エレンお嬢様。ですが、お嬢様でも緊張されるのですね」
「……何よそれ。わたしがとても図太いように聞こえるわ」
「左様でございますか」
エイダに何を言っても「はいはい」という感じで、わたしはため息をついた。でも、この方が日常だと感じられて、緊張が少しだけほぐれた気がした。
そうこうしていると、扉を叩く音がした。
「どうぞ」
わたしがそう言うと、扉が開く。
「迎えに来――」そう言いかけたニールが、そこで言葉を失った。
「ニール?」
「……すごく、綺麗だ」
照れてそういうニールに、わたしまで顔が熱くなる。
「馬鹿。照れるじゃない」と呟くと、ニールも気まずいのか視線をそらした。
二人で気まずい思いをしていると、エイダが「時間がありませんよ、早く向かいましょう」と割って入ってきた。
……なんて、無粋な。
とはいえ、このままではいつまで経っても動けないのは分かる。
わたしは「ニールもとっても素敵よ」と返して、彼の腕を取った。こういう時、男性は女性をエスコートするもの。さすがにニールも照れていた顔を引き締めて、「じゃあ、行くか」と言って歩き出した。
その歩みはゆっくりで、わたしに合わせてくれるのが分かる。
昔はやんちゃで先頭を切って走っていったニールは、いつの間にか人に合わせることを覚えていたんだと、改めて思う。
いつか、二人で歩いて行くのが当たり前になるのかしら?
***
廊下を歩いて階段まで行くと、ちょうどお父様がお披露目会の挨拶をしているところだった。
「本日は、我が娘エレンのお披露目を兼ねた婚約のお祝いにお集まりいただき――」そう言うお父様は堂に入っていて、いつもの優しい雰囲気とは一味違っていた。
お父様の口上がしばらく続いた後。
「それでは改めて二人を紹介いたしましょう。――エレン、ニール」
お父様に呼ばれて、二人で階段を下り始める。
姿を見せただけで、拍手が沸き起こった。
この拍手は、わたし達を祝福してくれているのか、儀礼的なものなのか――まだ分からないけれど、とりあえず、良い方に思っておこう。
笑みを絶やさずに、ニールと一緒にゆっくりと階段を降り切った。
「改めてご挨拶申し上げます。エレン・ペイリーでございます。この度、姉に代わり次期当主候補となりました。まだまだ未熟な身でございますが、何卒よろしくお願いいたします」
「ご紹介にあずかりました、ニール・リントンです。エレン嬢と同じく若輩者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」
二人で挨拶を終えると、ニールは頭を下げ、わたしはカーテシーをした。
会場から再び拍手が沸き起こった。その様子にわたしは少しだけほっとした。あからさまに反対する意見がないだけ、マシだろうから。
その後は、お父様から離れ、ニールと二人で招待客へ挨拶して回った。
お父様が招待したのは、ほとんど中立派の貴族たち。そのおかげか、思っていたほど人は多くなかった。今まで社交をサボっていたわたしでも、なんとか話ができる状態。
相手の名前を間違えないよう、慎重に挨拶していくと、クラリス様とご両親に会った。
「エレン嬢、本日はおめでとうございます」
「ありがとうございます、アッシャー伯爵。クラリス様もお変わりないようでなによりです」
「あなたは、以前お会いした時とは、ずいぶん雰囲気が変わられましたね」
「そう、でしょうか?」
「ええ。ローズの代わりは大変だろうけれど、きっと、エレン様なら立派な当主になられますわ」
「ありがとうございます。でも、まだまだ勉強中です」
未熟なのは仕方ない。結果がものを言うけど、過程も見て欲しいと思う――そう思うのは傲慢ではあると自覚はしているけど。領民にしたら、結果を出してくれないと困るのだから。
難しいな、と思いながらも、挨拶して回った感じは比較的好印象だった。お父様が何かしてくれたのかしら?
「ふぅ」
「緊張したか?」
「ニールは?」
「緊張してる」
「実はわたしも。それでも何とかなりそうで良かった――」
話しながらニールを見た、その時だった。彼の肩越しにリアム様の姿が目に入った。
どうしてリアム様がいるの?
アルドリッド公爵家は王族派――ヴィンス様のエアルドレッド侯爵家以外は招待していないはずよ? ヴィンス様と一緒に来たのかしら?
そんな風に思っていると、リアム様がうっすらと笑みを浮かべた。
その笑みに、なぜかぞっとした。
1ヶ月以上間が空いてしまいました。すみません。
環境をtxtファイルからGoogleドキュメントに移行していたのですが、見直し始めたら終わらない…
そのため、現在中途半端な感じになっています。
早く移行作業を終えなくては。
また、見直し始めたので、ここから英数字ではなく漢数字になりました。2人→二人など。




