67.婚約式と披露パーティの合間
遅くなりました。すみません。
お姉様は、私がまっすぐ進んでしまうのを、やんわりと制してくれる。でも、ただ止めるだけではなくて、他の道を示してくれるのだ。
その、お姉様がお嫁に行ってしまうのは、かなり寂しい。
今までの歪な関係から脱したのに、姉妹で一緒に居られる時間が短すぎるわ。
でも仕方ない。お姉様の幸せを、わたしのわがままで引き伸ばしたくないもの。
それに、わたしだって、ニールとの婚約式が控えている。
それまでの間、お姉様にいろいろなことを教わるの。
***
二ケ月して、ようやくニールとわたしの婚約式になった。
式自体はつつがなく進み、夜に開かれるわたしの次期当主と婚約者のお披露目パーティーまで、数時間だけど余裕があった。
もちろん、余裕があるのは表面上。ペイリー伯爵家の使用人たちはせわしなく動いているし、わたしも今から心臓がドキドキしている。
それは、ニールも同じなのかもしれない。
「ねぇ、ニール、疲れなかった?」
「疲れたというより、緊張した。今も、ちょっと信じられないから」
「……まだそんなこと言ってるの?」
「だって、少し前まで諦めるつもりだったんだぞ」
ニールは、わたしからの告白を断ったことに対して、申し訳なく思っているようで、神妙な顔つきで言った。
でも、諦めようとしたのは、わたしも同じなんだけどな。
「それはわたしも同じよ」
「エレンは違うだろ。俺よりずっと覚悟決めてた」
「ううん。わたし、怖かったの。ニールに駄目って言われたら、ちゃんと諦められるか自信なかったもの」
「でも、そのおかげで、俺は諦めなくて良かった」
ニールはそう言うとわたしの手を取って、微笑んでくれた。
取られた手の熱さに、視線のやさしさに、頬が熱くなっていく。
「まあ、微笑ましいこと」
突然、割って入ったようにお母様の声が聞こえて、ニールと2人、飛び上がるようにして離れた。
「まあ、離れちゃったわ。残念」
「お母様……」
面白がるお母様の後ろで、窘めるようなお姉様と、そんなお姉様を優しい目で見るヴィンス様。さらに後ろには、お母様と同じように面白そうな表情を隠さないお父様と、リントンの小父様、小母様がいた。さらにテリーお兄様は苦笑いしていた。
ニールの妹たちと弟は幼いため夜のパーティーには参加しない。早々にリントン子爵家のタウンハウスへと戻したようだった。
それにしても、なかなかカオスな状態だった。
「もうっ、お母様がそんな人だとは思いませんでしたわ」
優しい母ではあったけど、お茶目な――恋愛脳なところを見たことはなかった。
いや、夫婦仲は良いように見えてはいたのよ。だけど、ニールから聞いた2人の様子に「それ、どこの誰?」と思わず聞いてしまったくらいだった。
「今まで我慢していたところもあるのよ。文句はお父様に言ってちょうだいな」
「私のせいかい?」
「そうですわ。まあ、うちは乳母任せるのでなくて、自分自身で育てることはできたから良しとしますけど」
「なら……」
「問題はその後ですわ。最初は良かったですわ。でも、二人目がエレン――女の子だからって、ローズを跡取りに決めて、わたくしに手を出すなって言ったこと、まだ覚えていましてよ?」
あらら……意外な両親の話が出てきて、思わず口を開けてぽかんとしてしまったわ。
ちらりとニールの方を見ると、またか……というような顔をしている。ニールは知っていたのかしら?
「うちの両親がこんな感じなの、ニール知ってたの?」
「……知ってた。というより、この間知った」
「そう」
ニールは本当に仲いいよな、と言うけど、わたしとしては複雑。
でも、仕方ないのかもしれない。甘やかされてきたわたしは、親に愛されていると勘違いし、両親の仲を気にしていなかった。
前世の記憶が戻ってからは、お姉様に幸せになってもらうことばかりで、両親のことを深く考えたりしなかった。
でも、根底に愛情を感じなかったわけじゃない。
……とはいえ、目の前でやられると微妙なのよね……。
「お父様とお母様の準備はもう整ったということでしょうか?」
「そうだよ」
「もちろんよ」
息の合った返事だったわ。
「もう、少しは娘に気を遣うとかできないのですか?」
「そう言われても、ニール君はもうすぐ家族になるのだから、遠慮なんてしてられないだろう?」
「そうよ。うちは娘だけでしたからね、息子ができるのが嬉しくて」
「……ものは言いようですわね」
お父様相手に勝てるわけがない。年の功には、いくら前世の記憶があろうとも追いつけないものがある。
そう、いくらわたしに25年くらい前世の記憶があったとしても、世界が変われば役に立つものは少ない。それに、子どもを産み育てたことのないわたしには、子育ての正解・不正解なんてさらにわかるわけがない。
きっと、ニールと結婚して、子どもを産んで育てて――40代になって、やっと今のお母様と対等になれるのかもしれないわね。
「どうした?」
「ううん。なんでも。ただ……そばにいてね」
きっと、そういったものは、わたし一人じゃなくてニールと一緒にしていくことなんだわ。
わたしが急にそんなことを言ったせいか、ニールは真っ赤になりながら。
「あ、当たり前だろ。何を急に……」
「別に言いたかっただけ」
ちょっと照れて視線を逸らして言うと、にやついているお母様が目に入る。
そういえば、お母様はお父様に一目惚れして、反対を押し切ってお父様と結ばれたと言うから、恋愛に関しては結構な猛者なのかもしれない。
お姉様のように立場を気にして進展しないのは、もどかしかったのかもしれないわね。
「どうしたの?」
「いえ、いろいろあったけど、今、幸せなんだなって」
「エレン」
「お姉様もヴィンス様と結婚できるようになって、わたしもニールと婚約式までして……今シーズン、ここに来た時には思いもしなかったことだなって」
本当に、わがままな妹だったわたしが、今は次期当主とお父様に認められ、相手は幼馴染のニールになった。
親に決められた婚約者じゃない。自分で選んだ、生涯共に歩む人。
そんな風に感慨深げにしていると。
「奥様、お嬢様方、そろそろお支度を――」
侍女頭のマイラが声をかけた。
「わかったわ。マイラありがとう。ローズ、エレン、支度しますよ」
「はい」
「はい」
女性はドレスを着るのや髪形にに時間かかるのよね。
仕方なく立ち上がり、ニールに「またあとで」と手を振って自室へ向かった。
ラストに向けて脳内であーだこーだと考えた挙句、最近ChatGPTを始めたので、今までの話を見てもらい(添削不要)、そのあとこういう方向にもっていきたいんだけど、どう思う?などとやり取りをしてました(;'∀')
とはいえ、そこに行く前の状態なので、なかなか言葉が出てこず、やっと1話できました。




