32.漫画にない設定ばかりでもう嫌
「それではどうすれば……」
お姉様の婿候補が名乗りを上げる前に、話を潰してしまいたい。そう思っているのは、わたしだけじゃなく、リアム様や会ったことがないけどヴィンス様も同じだと思う。
いくら貴族派からの縁談は断る可能性が高くても、爵位が上の家からの話では断るのも難しくなるもの。
「貴族派といっても、やはり上に居る王族は目の上の瘤。貴族派は数を多くしないと、何かあった時に王族にひっくり返されるからな。中立の立場にいるペイリー家と婚姻を結べば、貴族派に取り入れることが出来ると思っているのだろう」
そう、なのよね。王族(派)と貴族派は表立って揉めていることはないけど、政策で揉めて長引く場合があるって、お父様もぼやいていたのよね。お父様は宮廷貴族ではないので、あまり政治に関わることがない。けど、国の情勢を知ることも大事だと言って、夕食を揃って取るときはお説教めいたそういった話が出る。
おかげでリアム様の話に何とかついていけてるんだけど。
「爵位が上のアルドリッド公爵家としても無理ですか?」
「それをやると王族派対貴族派になってしまう。まさに大事だ。それは望まないだろう?」
「……そう、ですわね」
そういえば、ニールの家のリントン子爵家はどうだったかしら? うちと同じく、領地を賜った封建貴族で領地を切り盛りする方が優先のため、特に派閥に属していなかったはず。
となると、ニールとは反対されな――駄目、そんなこと考えても、ニールにその気がないのだから。
「どうした?」
「いいえ。思った以上に大事になっているのだな、と。お父様がどのような考えでアドルフ様を選んだのか、少しわかりましたわ」
アドルフ様の家――サザーランド侯爵家のも、表立って派閥に入ってはいなかった。
この国には、王族派、貴族派、中立派、その中でも、王族派寄りになったり貴族派寄りになったりする貴族もいる。日和見というやつだ。
サザーランド侯爵家は日和見といえ、我が家は中立派、お父様がアドルフ様を選んだのも頷けるものだわ。中立派でお姉様と丁度いいお年の方は、すでに婚約している方ばかりだったから。
ああ、もう、ここに来て一気に情報過多だわ。漫画ではこんな細かい設定なんて、全く出てこなかったもの。
知っていれば、少しはお姉様の役に立てたのに。
お姉様はこのことを知っていたから、余計にお父様に言いづらがったのだわ。
それなのに、わたしったら呑気にお姉様の恋を応援します! と、それだけだった。具体的なことは、跡を継げるくらい勉強して、お姉様とお父様に及第点を貰えばいいとしか考えていなかったのだ。
「あの男の名前はあまり聞きたくないな」
わたしがそんなことを考えていると、リアム様がアドルフ様の話を続けていた。
「あら、リアム様には関係ない方かと思われますが?」
「ヴィンスの想い人の元婚約者だぞ。あまりいい気分ではない」
「心が狭いですわね。元婚約者でもう関わり合いがありませんわ」
「だが、君にも声をかけたのだろう?」
リアム様の言葉に、軽く眉根を寄せてしまう。
そんな情報は出回ってないんだけどね。
表向きは、アドルフ様の不貞行為が表沙汰になって、お姉様の婿に相応しくないと判断されたから――だけなんだけど。
「妹ですから。多少声をかけられましたわ。というより、わたくしの方からも声をかけておりましたし」
リアム様が声を掛けられた――と暈した言い方をしたので、あえてそのままに受け取って答える。
何も無かった――というように、顔色を変えずに返したが、リアム様は眉をひそめた。
「君は、奔放な性格なのだろうか?」
「どういうことですの?」
「私の言った意味を理解しているはずだ。それなのに、顔色も変えずに答えるのは、君はそういったものを彼に求めたからだろうか」
そう言われて、頬に熱を持つ。
言うことはそれ? 何処からそんな情報を仕入れてきたのか――またしても、リアム様に対して苛立ちが募る。
アドルフ様にされたことは、悍ましいと言えるけど、自分から誘うような真似をしていたのは事実だ。
「下衆な勘繰りですわね。失礼ですわ」
「そうか? 私は君にルカを勧めた。が、そのような性格では、それも取り下げなければならない」
「……そもそも、ルカ様との話も大きなお世話ですわ。それに、ルカ様はリアム様とご兄弟――同じ王族派ではないですか。エアルドレッド侯爵令息とお姉様の話がより遠ざかりますわ。手近なところで済ませないでくださいませんか?」
最初は派閥のことなんか言ってなかったのに、今になって言うからややこしくなるんじゃないの。
うちが徹底した中立派だというのも、初めて知ったわ。それまでぼんやりと中立派かなぁ、くらいの認識だったのよ。
「済まなかった。思った以上にペイリー伯爵家を派閥に入れたい輩が多いみたいでな」
「それほど我が家に旨味があるのでしょうか?」
しっかり勉強してこなかったツケがここに出ているんだけど、うちって普通の伯爵家では中より下辺りの家格だと思っていたんだけど。
「ある。ペイリー伯爵家は堅実で領民にも好かれている。また、堅実なやり方故に、味方に引き入れれば確実に自分たちの派閥のために動くだろうと思っているんだろう」
「そうでしょうか。お父様より上の代でも、派閥に属するようなことはなかったと思いますわ」
「それは嫁として入ってきたのだろう? 今回は入り婿だ。まだまだ男性社会でもあるこの国では、男性の意見のほうが優先されることが多い。そんな中、伯爵家が入り婿の発言を無視する訳にもいかないだろう。何かあった時に、入り婿の親族が助けてくれなくなるからな」
残念ながら、この国はまだまだ男尊女卑が強い。社交界で爵位を持った女性より入り婿に話を持っていく者は後を絶たないらしい。
そうなると、婿として入った親族が口を出せば、我が家は完全に拒否できるものではない。
「では、質問ですが」
「なんだ?」
「エアルドレッド侯爵令息がお姉様を娶った場合、エアルドレッド侯爵家は、我が家に多少なりとも融通を利かせてくれるのでしょうか?」
「どういう意味だ? 彼女は嫁として出て行ってしまう立場だ」
「ええ。でも我が家は実家となります。実家が困っているとなれば、助けてあげようという気持ちはお有りでしょうか?」
お姉様が出ていって、わたしが後を継いだ時、派閥の問題で困っている時に手助けくらいはしてくれるのかしら?
流石に貴族派に属してしまったら無理だろうけど、貴族派の婿を容認しなければならない場合、それでも中立であろうとする我が家を助けることをしてくれるものかしら?
お姉様が王族派に嫁いだ場合、バランスを取るために貴族派の婿を迎える可能性だってあるけど、リアム様の話では婿の立場のほうが大きいようだしね。
本当なら、中立派の入り婿が望ましいんだけど、年齢的に合う人は少ないらしいのよね。




