21.社交シーズンは忙しいのです
あれから、お姉様がわたしに付いて勉強を見てくれることになった。
まずは復習として、今まで学んできたことをお姉様が課題としてまとめたものに答えを記入していく。
「思ったよりいい点だわ」
「……ありがとうございます」
……お姉様、本音が漏れてますよ。
まあ、わたしもそう思いましたけどね? 今までの家庭教師への対応を自分でも振り返って、物凄く心配だったけれど、意外にも座学はいい点を取れた。自習を頑張ったおかげかしら? 本で見たことを結構覚えていたわ。これぞ若さなのかしらね。それか、今まで脳みそスカスカ状態だったから、その分吸収率が良かったのかも。
「ごめんなさい。お父様から、厳しい家庭教師は嫌がって辞めさせてしまうと聞いていたものだから」
あ、わたしの不満を感じ取ってしまったわ。
お姉様、勉強のことになると容赦ないんですね。
「いえ、事実ですから。でも、自分で本を読んだりして勉強してみました」
「そう。いい心がけね。それにしても、エレンが帳簿について詳しいのには吃驚したわ」
「そうですか?」
前世、経理事務でしたので。パソコンはないから、計算はちょっと面倒なんだけどね。
この世界ではすでに複式簿記を利用した資産管理をしている。さすが漫画の世界。現代日本のいいとこどりをしている。そのうえ魔法あり、魔道具による電化製品に替わる品ありの、贅沢な世界だ。
おかげで、前世の知識を使えるんだけど、知識チートは無理みたい。しがないOLが覚えている知識なんて、この世界ではすでに確立されているからね。
――まあ、おかげで及第点は頂きました。
「後は……」
「後は?」
「淑女教育かしら? エレンは嫌がってきちんと先生の授業を受けなかったでしょう?」
「うっ」
たしかに、わたしは1番最初に習う(?)立つ、歩くというのが苦手で嫌がってしまった。
だって、本当に頭に本を載せるなんて思わなかったんだもの! 前世の過去の貴族女性がそういう教育を受けていたのかは不明だけど、漫画でその描写があったのよね。
……で、本当にそれをやるとは思わなかったのよ。たしかに姿勢が良くないと本は落ちちゃうし、そういう意味ではいい練習なのかもしれないけど。
「……すみません、これから頑張ります」
「そうね。大変かもしれないけれど、必要なことだから頑張るのよ?」
「……はい」
「とりあえず、わたくしのマナーの先生の授業を一緒に受けましょう」
「はい」
マナーは貴族である限り必要なこと。でも、何故か受け入れられなかったのは、前世庶民の感覚があったのかもしれない。前世のわたしは田舎で育ったため、アウトドア派で自由気ままに育ったせいかも。
小さい頃よく会っていたニールのせいもあるかしらね。ニールも悪戯小僧で、ニールに張り合って外で走り回っていたもの。
幼少の頃がそんな感じだから、ある程度の歳になって、さあ淑女教育を――と言われても、何故今まで許されていたことが駄目になったのか理解できず、嫌だと主張していたわ。
……マジで貴族令嬢向いてねぇ。
あ、いけない。言葉遣いが悪くなってしまったわ。
とにかく、必要なことだから、しっかり身に付けないと!
お父様が家庭教師を見つけてこないので、お姉様に教わったり、お姉様の家庭教師に教わったりして、知識を吸収していく。
お姉様の家庭教師には「意外ですが、思ったより出来ますね」と、本音はちょっと隠しなさいよ――と言いたくなる評価を頂いた。みんなオブラート持ってないの??
とはいえ、まだまだ入門編と言えなくもないので、慢心しないで頑張らなくてはね。
***
でも、今は社交シーズン。夜会や茶会に出ることも忘れない。
特に茶会は女性のみが多いので、ここで今まで迷惑をかけてしまった令嬢に謝罪もしている。
クラリス様と仲の良いご令嬢は、すでにわたしが変わった(?)ことを聞いており、謝罪の時に「今からでは大変だけど、頑張ってね」というお言葉と共に、謝罪を受け入れてくれる方々ばかりだった。
考えてもみれば、人のいいお姉様の友人だから、同じような方が多いのよね。時には癖のある方もいらっしゃったけど、それでも謝罪は受け入れてくれた。
夜会にはニールと共に行くことが多く、ニールの友人たちを紹介して頂き、顔見知り程度だけど知り合いを増やしていっている。
「お前、変わったよな」
「そうかな?」
やった、ニールから見てもそう思えるのね。
「エレンには悪いけどさ、俺の友達も半分は興味本位だったんだよ。噂を真に受けて。でも、淑女然としたエレンを見て、そのあと話をしてみて見方が変わったみたいだ」
「……そう思ってもらえると嬉しいわ」
ニールの歯に衣着せぬ物言いは、図星を刺されたときにはイラッとするけど、褒められた時はこそばゆく感じるわね。だって、お世辞は言わないから、本音ってことでしょう?
でも、まだお姉様に変わって、ペイリー家の跡を継ぐこと意思があるってことは伝えていない。お父様にも言っていないことを、幼馴染でも他家の人には言えないものね。
お父様に言うのは、お姉様に待って欲しいと言われている。長年、継嗣として育てられてきたお姉様にとって、好きな人に嫁ぎたいという気持ちもあるけど、家のことを捨てる覚悟を持つのはなかなか決心できないらしい。
それに、お姉様がそう言った途端、わたしに重荷が行くことも心配してくれているのよね。
「ねえ、ニールは将来のことはもう決まっているの?」
「将来かぁ、多分、兄上の補佐になると思う」
「お兄様の?」
「ああ、うちは余り裕福じゃないからな。人を雇うより、俺が補佐に就いたほうが金かからねぇから」
「そんなもの?」
文官のお給料がいくらくらいか分からないけど、貴族の弟を養うより安い気がするんだけど。
「エレンの考えは当たってるよ。でも、俺が補佐した場合、カントリーハウスとタウンハウスの両方を管理出来るし、夜会とかもどっちかが出ればいいからな。文官を雇っても、夜会の代理は無理だからな。そうすると、兄上は領地と王都を行き来しないとならなくなるんだ。で、代理を兼ねるとなると、貴族籍はそのままだな」
「そっか」
兄上とも話し合って決めたんだよ――とニールは悪戯っ子のような笑みを浮かべた。
「てっきり、文官か騎士にでもなるのかと思ってたわ」
「ま、下のはどっちかにならないといけないんだろうな。俺は兄上と歳が近いから、代理も出来るってことで補佐役の予定」
「なんか、ニールがわたしより先に行っているようでムカつくわ」
「おいおい。ま、エレンもローズさんとよく話し合えよ」
「うん。最近はお姉様と一緒に勉強したりしてるの」
「へえ、いいじゃん。頑張ってるんだな」
夜会に出た軽食を食べながら、ニールとはそんな話をした。
やっぱり、みんな将来のこととか考えているのね。本当に、今までお父様が全部決めてくれるって思い込んでいたわ。
誤字脱字報告ありがとうございます。




