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17.お姉様のお友達

 日当たりのよい席で、お姉様のお友達であるクラリス・アッシャー伯爵令嬢と向かい合っていた。

 クラリス様は意外にもコーヒーがお好きなようで、今日もお姉様を誘ってここに来ようとしていたのだけど、コーヒーを好まないお姉様は辞退されてしまったとか。それでも、せっかく外出したので、1人でここに来たらしい。

 ……わたしとしては、お姉様がコーヒーが苦手で良かったわ。でなければ、鉢合わせしてしまうところだったわ。


「そういえば、改めてお詫びしたいことがあります」

「何かしら?」

「クラリス様とお姉様の会話に割って入ったり、邪魔をしていたことです」

「……まあ、あなたからそのような言葉を聞けるなんて思わなかったわ」


 目を眇め、少々険のある言い方でクラリス様に返された。

 そう言いたくなるわね。クラリス様はお姉様の親友なので、他家でわたしの被害を受けた1番の方ではないかしら。

 ……そう考えると、わたしの言葉を鵜呑みには出来ないわね。


「いろいろ思うところがあったのですわ」

「ローズの婚約者のことかしら?」

「知っていらしたのですか?」

「それは、ね。まあ、わたくしが無理に聞き出したのもあるけれど。そのことで、ローズはあなたに対して心配していたわ」

「お姉様が……」


 クラリス様の話に、お姉様はなんて優しいのだろうと改めて思う。あれは半分、自業自得のようなものなのに。

 ……まあ、アドルフ様が女好きでなければ、起きなかったことではあるのだけど。


「わたしは大丈夫ですわ。お姉様にもそう伝えているのですが……、こんなわがままな妹に対しても優しいので」

「そうね。以前から話に割って入っ時も、わたくしに謝罪してもあなたのことを嫌わないであげてとお願いされたわ。あなたの世界はとても狭いから、知らないことが多いのだと」


 クラリス様の言葉にドキリとする。

 わたしの世界は狭い――たしかにその通りだわ。デビュタントする前、お茶会もお姉様が付き添っていて、わたし1人で出席する事はなかった。社交界デビューした後のお茶会や夜会も同じく。いつも、お姉様の後を付いていくだけだった。

 今日、リアム様に会うためにここに来たのが、初めて1人での外出だった。


「そういえば、今日は1人なのね」

「ええ。初めて1人で外出しましたの」

「そう。それでどうだったのかしら?」

「世界が広がりましたわ。ここでコーヒーが飲めるなんて初めて知りましたし」

「あら、良かったわね。コーヒーの味はどう?」


 クラリス様は、コーヒーカップを持ち上げて、目の前で軽く揺らして見せた。


「なつ……いえ、紅茶よりコーヒーのほうが気に入りましたわ」

「初めてなのに、砂糖もミルクも入れないで飲めるなんてね」


 各テーブルには、日本の喫茶店みたいに砂糖壺が置いてあるし、ミルクはコーヒーと一緒に持ってきてくれていた。

 コーヒーが好きなクラリス様も、砂糖とミルクを入れていたのだけど。


「紅茶も何も入れないほうが好みなので、コーヒーも同じようにしてみたら、苦味はあるけれど美味しいと思いましたわ」

「意外ね。可愛らしいもの、甘いものが好きそうなのに」

「そうでしょうか?」

「ええ、今日声をかけられて驚いたけれど、お話してみて良かったわ」

「ありがとうございます」


 クラリス様はいい人だ。頭もいい。お姉様の気持ちを汲んでくれ、でも、自分の目で確かめもする。

 そして、少なくとも今のわたしの話を信じてくれているようだった。

 そういえば、クラリス様は知っているのかしら?


「お訊ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「何かしら? 話の内容によるわ」

「そうですね。では、お姉様の想い人について、なにか知っていることはありませんか?」

「……」

「ああ、勘違いしないでくださいませ。『おねだり』したいわけではないのです」

「では、どういう意味で訊いているのかしら?」

「とあるお節介な方が、お姉様のお相手は嫡男だとおっしゃっていましたの。でも、お姉様も我が家の跡取りとして育てられましたわ。ですから、そのお節介な方はわたしに跡を継ぐなりして、お姉様をその方に嫁がせろというようなことをおっしゃっておりましたの。ああ、勘違いなさらないでください。今のわたしでは、お姉様の代わりになれるなんて思っていませんわ」


 お姉様に代わって跡を継ぎたいと思われても困るので、少し言い訳みたいに聞こえるけど、本心を語った。

 厄介なことに、この世界では女性にも爵位を継ぐ権利がある。

 特に、昔王女が降嫁して女公爵になったのだけれど、入り婿になった男性が愛人を作り、女公爵が早くに亡くなったことを利用して、自身が公爵になったかのように振る舞った。女公爵と入り婿の間には1人娘がいたため、1人娘が成人するまでの中継ぎであり、公爵になったわけではなかったのに。

 そんな馬鹿な父親のせいで、女公爵の1人娘は公爵と愛人の手によって辛い生活を強いられたらしい。それが女公爵の父――国王にばれて、入り婿と愛人は罪人扱いになった。

 そして、虐げられていた1人娘は、やっと公爵令嬢として相応しい生活を送れるようになったとか。

 調査した結果、他にも同じような家があり、女性でも跡を継げること、その配偶者は女性が亡くなっても、子供が跡を継ぐための中継ぎでしかないということが周知徹底されるようになったの。


 ……なんか、どこかの小説にありそうな話よね。というか、これだけで1つ小説が出来るわ。

 まったく、姉のものを欲しがるわがまま妹とか、浮気好きな婚約者とか、虐げられた公爵令嬢とか、なんか設定モリモリなんだけど……これだけあるとお腹いっぱいよ。


 まあそんなわけで、女性も跡を継げるし、何より血筋を重んじることになった。

 おかげで、お姉様が跡を継げない場合、遠縁を養子に取るのではなく、次女のわたしが優先されるというわけで。

 ……うん、いい迷惑です。

 でも、そうしないと問題になった子のような事例が、また発生する可能性があるのよね。

 正直、貴族の結婚って面倒くさいなぁ、って思ったわ。


誤字脱字報告ありがとうございました。


すみません、体調不良により打ち込みが出来なかったので、

2日に1回くらいの更新にしていたけど、なかなかストックが増えないです…

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