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「今日はごめん、私から誘ったのに
今電話してもいい?」
由希姉からそうLINEが来たのは、その夜実家のリビングで息子と甥っ子たちが遊んでいる様子を眺めていた時だった。
「いいよ」
と返すと、すぐ由希姉から着信があった。
母親はソファから立ち上がり、帰省している間彼女と息子が寝室として使っている、二階の和室へ向かった。和室の電気を点け、立ったまま電話に出た。
「萌、今日はごめん。怒ってるでしょ?」
由希姉は珍しくしおらしかった。
「もういいけど、なんで帰っちゃったの? 直己さんに失礼だったと思うよ」
少し間があった。
「なんか、見てられなくて」
「うん」
「なんていうか――昔付き合ってた人が、ああやって四十近くになってアルバイトしてて、それでクレームの処理して焼き鳥拾わされてさ。床に膝つけて掃除して。私も」
また間があった。母親は言葉が継がれるのを待った。
「私も、コロナで店失敗して借金しょって、親に泣きついて男にもお金援助してもらって、今弁当屋なんかでアルバイトしてるじゃん? で、ナンパしてくる客毎日のように適当にあしらって……高校のころ付き合ってた時、私たちこんな将来予想してたかなと思って。いつの間に私たちこんなになっちゃったんだろうって。とてもあの後楽しく直己と話せる自信がなかった」
「そう」
母親は少し考えた。
「でも由希姉は頭が良くって今も綺麗だし、彼氏さんもいて、私に無いものいっぱい持ってていいなあと思うけど。ほら胸も、綺麗なDカップだし」
「そんなことないよ。何も無い。Dカップではあるけど。こんな自分、想像もしてなかった」
「そう。でもきっと、由希姉も直己さんもそんなに情けなくなんかないよ」
「……なんでそんなこと言えるの?」
「だって二人とも一生懸命やってるじゃん。きっとそれだけで、人間恥かしくなんかないんだよ。直己さんのことさっき見て、少し話してそう思った」
由希姉はしばらく黙り込み、電話の向こうで大きな「?」マークを浮かべている様子だった。




