2.未来の嫁と出会う地、ザナドゥ
「へぇ、ザナドゥという町かぁ。 約束の地ってのはどんな意味だい?」
「昔から言われてるだけで、由来は知らないなー」
ザナドゥ、確か地球のモンゴルあたりの都市名で上都とか素晴らしい町的な意味で使われてた言葉だ。
それを題材にした音楽がいくつもあったはず。
まぁ楽園的な意味だろうな……ゲームもあったか。
わくわくしてくるねぇ。
どんな素晴らしい町だろうか。
「おっ、畑が見えてきた。 あれは麦かな?」
「うん! この地方の名産でザナドゥ麦って呼ばれてるよ。 病害に強いんだって」
「さすが、ガイド役が板についてるな」
「へへ……ありがとう。 旦那様みたいに褒めてくれる人なんて初めてだー」
トレック少年は嬉しそうに歩きながらピョンピョン跳ねる。
そのうちスキップを教えてあげよう。
気の良い素直なこの少年とは長く付き合っていける。
「しかし人がいないな……昼飯時か?」
「ヒルメシドキ? なぁにそれ」
あれ、ここらの人は昼にご飯を食べないのか。
「ここは町から一番遠い開拓村だから、まだ人手が足りないんだろうね。 別の所を手伝っているとかじゃないかなー」
なるほど。 あ、道から凄く遠くの小屋に人影が見える。
視力もサンクラのゲーム並に強化されているな。
トレック少年から町や地域について色々情報を聞きながら町へ向かって歩く。
王国の南西の端の町らしい。 南には巨大な山脈と裾野の大森林があって、南国の脅威から守ってくれているとか。
町の人口は1万人から1万5千と言われているけど正確に計測されていないし発表もされていない。
かなり昔に町を壁で囲ったのを修理しながら使ってるとか。
モンスターは出るが、町まで来たのは聞いた事が無いと言ってるからかなり平穏な土地なのだろう。
町から一番遠い村はモンスターに麦をよく食い荒らされるので、衛兵が巡回して追い払う程度の脅威。
平和だ。
「ねぇ旦那様、馬車が走ってくる!」
「おお、じゃあ道の端っこに避けような」
「そうじゃなくて! 転倒スレスレの大急ぎだ! 何か起きてるんだ!」
「何だって!?」
目を凝らすと確かに馬車が全力で走ってくるのが見える。
しかしそれ以上の情報が分からない。 情報が欲しい。
(ステファニー、レーダーマップを出してくれ。 識別も)
『了解です。 マスターの魔力を消費し付近の地形と生命体、敵対可能性を算出します』
来た来た。 視界右上にマップが浮かびあがる。
今はワイヤーフレーム型の方が分かりやすい。
「見えた。 馬車は味方、ただの旅人か商人だろう。 7人乗ってるな。 後ろから追ってくるのが賊か」
「旦那様、分かるの!?」
「言ったろう? こう見えて魔法使いなんだ。 しかも凄く強いんだよ。 どれ、馬車を賊から助けてあげようか」
「旦那様、カッコいい!」
ははは、カッコいいのはこれからこれから。
目をキラキラさせるトレック少年に気を良くしてしまった。
使うのはもちろんクラフターの能力だ。
チュートリアルにもあったように、正面からでは倒しきれない敵を壁で囲って分断、足止めする基本戦術から試させてもらおうかな。
馬車が猛スピードで俺達の脇を通り抜け……るかと思ったら急停止した。
ヤバい。 予定外の流れだぞ。
「貴方達、早く馬車に乗ってください! 町の賊に追われています! 目撃者も殺されますよ!」
目が覚めるような金髪美少女が馬車の幌を開いて手を差し伸べてきた。
危うく見とれる所だった。
「大丈夫だ! 俺は強力な魔法使いなんだ! 戦闘の邪魔になるから早く離れて欲しい!」
「そんな訳にはいきません! 賊は50人近くいました! 乗馬しています! どんなに強力でもお一人で勝てる手勢ではありません! さぁ早く!」
トレック少年はひょいっと馬車の荷台に飛び乗る。
「旦那様! あいつらは町一番凶悪なマフィア、バンデシネ一味だよ! さすがに相手が悪い!」
足元に矢が突き刺さる。
もう弓の距離か。 俺は急所に百本刺さっても死なないだろうが、彼女達はそうもいくまい。
仕方ない。 説明してる時間も無い。
彼女の手を取り荷台に引き上げてもらう。
馬車が走り出したがトップスピードにいきなり上がる訳もない。
弓矢が何本も撃ち込まれる。
早急に対処しないと死者が出るな。
ええと、アイテムボックスから……あった。
【飛び道具耐性の指輪X(イミューン フロム ミサイル ウエポン10)】
厳密には個人装備だけど実質直径3メートル近い球体シールドを形成するから大丈夫なはず。
装備するとシュッという小気味良い効果音と共に馬車の荷台が薄い青白いシールドに包まれた。
よしよし。
「こっ、これは……!?」
「飛び道具避けの魔法さ。 これであいつらの矢は絶対に当たらない。 安心して良いよ」
実際に矢が馬車の前で減速し、一瞬だけ空中で停止するとその場にポトリと落ちる。
「本当に強力な魔法使い様だったのですね。 助けるつもりが助けて頂いたようです。 お礼を申し上げます」
「気にするほどじゃないさ。 それよりあいつら、倒してしまっても構わんのだろう?」
「え、ええ……ザナドゥの町に蔓延る賊ですので恨みを買ってしまいますが、よろしいのですか?」
「あんなヤツらがのさばっているのか……少し掃除しないとダメだな」
俺達を拾い上げたせいで馬車と賊の先頭の距離はもう30メートルも無い。
煽りながら弓矢を射掛けていた賊達だが、何らかの方法で矢が外されている事に気付いた。
「てめェら! いい加減止まらねェと全員ぶっ殺すぞ!」
よし、ここだ。
視界下のショートカットから石のブロックを選択、視界に薄い緑のネオングリーンのグリッドガイドが浮かぶ。
一応カッコつけて、トレック少年に「さぁ魔法使いの戦いを見せてあげよう」と笑いかけてから賊に向かって両手を広げてアピール。
必要無い演出も時には有効だ。
「石壁よ、いでよ!」
すかさず賊の先頭の目前に高さ2メートル幅20メートルの石の壁を設置!
ガガガッ!
馬が速いのはしょせん直線だけだから、障害物を設置してやれば好きなだけ距離を開けられる。
……と、思ったが。
「ぎゃっ!」 「ぐべっ!」 「うわあああ!」
馬の悲鳴と賊の悲鳴が重なる。
馬と車は急には停まれない。
賊の先頭が回避も停止も出来ずに次々とぶつかってる様子。
そういえばサンクラでは衝突ダメージは無かったからなあ。
ブロック設置能力、俺がゲームで遊んでいた以上に恐ろしく、強力な技だった。
ただの設置してるだけなのに……
「旦那様凄い!
」
「ははは、凄いだろう。 さて、じゃあ今度は……」
道の両脇、畑までギリギリいっぱいの幅に道と平行に石壁を設置。
もちろん、賊の逃げ場を奪うための囲いだ。
レーダーマップを見ると壁を迂回できた後続集団が迫ってくる。
おあつらえ向きだ。
皆が口々に言うには、この騎馬隊は商隊襲撃用の精鋭だそうだ。
一人でも多く倒してしまおう。
ブロック設置の醍醐味、異世界でも味わい尽くさせてもらうぜ。
賊達には最後まで付き合ってもらおう!