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〜狂壊の鎮魂歌〜 悪魔との契約書  作者: マガミノ
第一章
9/13

九話 彼の事を少しだけ理解した

レルツィとビリヤードを始めてものの数秒・・・

私は惨敗(ざんぱい)だった。正直初心者だしちゃんとした説明やコツを教えてくれていないから戸惑う。戸惑うに決まっている!!

分からないに決まっているではないかと不満を持ってしまうのだ。


けれどドヤ顔で私を見てくるレルツィが気に食わないせいなのかどうしても勝たねば・・・何ていう義務感が湧いてくるこの不思議。

惨敗(ざんぱい)五敗目・・・流石に私の根性が腐り始めた頃にガブリエルが見兼ねてレルツィに文句を言ってくれた。


「ちょっと・・・レルツィ大人気ないんじゃないの?澪璃(みおり)ちゃんはビリヤードなんかした事ないんだから勝てるわけないじゃない。

貴方ビリヤード上手何だから教えて上げなさいな。」


ちょっと咎めるのが遅かったかなぁ・・・あはは

なんて遠い目になってしまいました。

そして何を思ったのかレルツィは鼻で笑ってキューを構え直す。


「何言っている。たかだか小娘に教える訳がなかろう。ニンゲンの脳味噌は腐り切っているんだ。教えたとてどうせ直ぐに忘れる。」


確かに今、私の根性は腐り始めている。けれども脳味噌は腐っていないよ?

・・・つまりレルツィは「お前如きに労力を費やす価値など欠片たりと無い」・・と言いたいのだろう。

別に苛立っていない、苛立っていないよ?

少し(ひね)くれた思考な気がしなくも・・・ないけれど根本的な部分は間違っていないだろうと思う。

だから少し口を尖らして私は言った。


「本当に大人気ないですね。対戦して下さるのはとても有難いのですがルールすら教えて下さらないのはちょっと・・・ないのではないでしょうか?

それでも貴方は誇り高き悪魔なのですか?

・・・誇りある悪魔にしては、余裕無さすぎではないのでしょうか・・」


大分嫌味っぽくなったけれどもレルツィにはこれ位言って退けないと伝わらないだろうし話にならないだろう。

実際にそれを言ったら、今まで私の言葉を相手にせずせっせと対戦していたレルツィが目を吊り上げて乗ってきた。


「・・・ほう?つまる所貴様は吾輩(わがはい)が負けるのを恐れているとでも・・?畜生(ちくしょう)めが・・・ならば忘れられない程にビリヤードのルールを刻み込んでやろう。キューとボールを見たら怯える程にな!!」


・・・結構最初から感じていた事だけれどもレルツィは煽りに乗りやすい単純な性格なのではないだろうか。

あと、脅し文句が下手だし何か全く怖くないです、とは言わないけれど思った。

そして少々ふんぞり返ってレルツィが言った。


「フン、そう言う風に受け取られているとは心外だ。実に気分が悪い・・・もう良い、基本的なルールを教えるから後は実践でコツを掴め。畜生めが。」


少し顔を引き攣らせつつ頷きます。多分コレがレルツィの通常運転だ。気にしてはいけない。気にしたら負けだろう。


「良いか?まずブリッジ・・・球を打つ時の持ち方だ。人それぞれに合う構え方が有るから見ていろ。

・・・良いか?コレはオープンブリッジ、貴様みたいな低脳でも出来る初心者向けの構えだ。

先ずコレで打ってみろ。」



「後ろのフォームは良い、だが正面がなっていないな。それでは()く球も撞けんぞ?ソコ、右腕とキューは九十度の角度に曲げろ、身体が強ばっている、固いぞ!左腕と球の距離が遠いわ馬鹿者!!」


そうしてレルツィの鬼指南が始まった。

一分毎に目の生気が抜けていくのが自分自身でも分かる。ガブリエルは此処(ここ)までレルツィが燃え出すとは思わなかったのだろう。

あちゃぁ、とでも言いたげに頭を抱えていた。

まぁレルツィが物事を教える事が上手いのだということは伝わった。その鬼指南のお陰で大分上達をしてきているのだから。


「だ、大丈夫?澪璃(みおり)ちゃん・・・」


精神的(レルツィの罵倒攻撃)に追い詰められてゼェハァしているとガブリエルが心配そうに声を掛けてきた。

受け答えをしている様な余裕等は欠片たりとありませんのでジェスチャーで大丈夫だと伝えます。

眉を下げてガブリエルは笑う。申し訳無さそうに謝ってくるから何とも言えない。

そうこうしていると、レルツィが顎に指を当てて何やら考えているように見えた。


「・・・・・・ふむ、大分上達をしたようだな。そろそろビリヤードの対戦と行くか?」


レルツィの思わぬ提案に目を丸くする。今日一日はレルツィの鬼指南だけで対戦をする事が出来るとは露ほども思わなかったからだ。


「何を意外そうにしている。この吾輩が教えたのだぞ?貴様みたいな低脳でも直ぐに上達するに決まっているではないか。」


私の思考が筒抜けだった様で、不満気にジロリと睨んでくる。レルツィの気が変わったら勿体ない気がする為、慌てて対戦したいという旨を伝える。


「フン、最初からそう言っておけば良かったんだ。では、行くぞ?」


初手でレルツィが手球を打ち出した。



----------------------------------------



結果 : 惨敗



物凄く容赦がなかった。最早熟練者の域を超えているというのに鬼気迫る勢いで私を叩き潰しに来るから思わず恐怖で固まってしまう。


初心者に対して大人気ありませんよ・・・死んだ魚の目でレルツィを見つめます。

ガブリエルも流石に試合の様子を眺めててドン引きしたようだ。呆れたような目をレルツィに向けている。

その傍らで何も無かった様に落ち着いてキューの手入れをしているレルツィ・・・

少々文句を言いたいけれども我慢をします。


「・・・物凄く強かったですね?レルツィさんは。普段もあの様な感じなのですか?」


遠回しに嫌味を言う。しかし、言ったのだがレルツィはそれに気が付くことも無くふんぞり返って言った。


「フン、当然だろう。吾輩が貴様如きに負ける訳が無いしな。アレで三%程の実力しか発揮しておらんわ。」


ガブリエルは隅で呆れた目を更に細くし呆れ返っている。

私はその割には鬼気迫る勢いと言った様な様子でしたね・・・という言葉を飲み込んだ。

多分殺される。比喩(ひゆ)じゃあなくて本当に・・・

でもしっかりと指南をしてくれたのは事実なので御礼を言う。


「レルツィさん、御指導感謝します。」


「フッ、畜生にしては上出来だったぞ?気が向いたらまた指南してやらんこともなくもなくもなくもない。」


・・・つまりまたビリヤードに付き合ってくれるらしい。何とも分かりにくい返事の仕方だ。

つい私もレルツィと同じようにフッと笑う。


此方(こちら)こそ。あと本当に有難う。」


今は少しだけレルツィへの印象が変化していた。

変に厳しい癖して案外親身になって色々教えてくれた。鬼指南を受けている時、お節介な部分も垣間見えた。

エラッタが自己紹介の時に言った事を思い出す。

どうやら彼は口が悪いだけでそこまで嫌な奴では無いようだ。


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