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クロード王子が乗った馬車が門を出ていくのを見送って、私は迎賓館の中へと戻った。
「――ブレスレット、返してしまわれたのですか?」
中に入ってすぐにレイにそう声を掛けられ、足を止める。
どこか非難するような目を向けてくるレイに、忘れかけてた怒りが蘇ってくる。クロード王子に勝手に正体をバラしておいて黙ってるなんて、怒りたいのはこっちだ。
「私が持つべき物ではないと判断しましたので」
突き放すように言えば、レイは隠しもせずに溜め息を吐いた。
「貴女なら十分相応しいでしょうに……」
「相応しい人なんて、他にたくさんいますわ。私である必要はありませんでしょう? それよりも、クロード殿下が“私”のことを知っているということについて、ご説明頂きたいのですが?」
「ああ、クロードが言ったのですね。別に、ただ偶然にも貴女と話しているところを聞かれてしまったので、話しただけです。誤魔化せる内容ではありませんでしたから」
「まぁ、そうでしたの。ですが、偶然起こったことはともかく、その後私に何の説明もなかった点についてはいかがなのでしょう?」
「単にそうした方がいいと思ったからそうしたまでですよ」
レイはあっさりとそう言い切って、応接間へと足を向ける。
(謝罪もなしかよ……!)
どうせ自分に都合の良いように事を進めるためとか、そんな理由なんだろうけど、“すみません”の一言くらいあってもいいんじゃないんだろうか。
更に腹が立ってきて、応接間に入るレイを尻目に階段へと進む。
「ローザ? すぐに夕食ですよ?」
「今日は色々と疲れてしまったので部屋で休みますわ」
「食事はどうするんです?」
「いりません」
振り向きもせずにそう答えて二階へと上がる。後ろからレイの溜め息が聞こえてきたけど、それも無視した。
食事はいらないと言ったけど、心配したエマが後からパンとスープを持ってきてくれた。本当に疲れて食欲も湧かないのではなく、レイに対する当てつけだとエマも気づいていたようだ。
そのことに感謝しつつ、軽い夕食を済ませ、独り部屋の中で物思いに耽る。
クロード王子とのことに決着はつかなかったけど、自分がすべきだと思うことはできた。後は彼が納得してくれるまで付き合うだけだ。
(私と向き合う、か……)
そんな風に真面目に向き合ってくれる人は、私の周囲にはほとんどいない。私の方が逃げていることもあるけど、そういう風に真摯に対応してくれる人が少ないというのが現状だ。
(レイも、小さい頃は良かったのに……)
“ニナ”の記憶にある限り、幼い頃のレイは純粋に“私”のことを心配してくれていた。多分、私が前世の記憶を思い出した頃も、私自身のことを心配する気持ちが大きかったと思う。
でも、跡継ぎとしての側面が成長するにつれて、どんどん打算的な面が見え隠れするようになった。
いずれは王となるのだから、そうならざるを得なかったのだし、そうなるべきなのだろう。
魔力の継承の問題があるから王家の権威は揺るぎないし、他の貴族が取って代わることもできないけど、セレーネの貴族は陰湿で計算高い連中が多い。そういう連中にいいように利用されないように立ち回るには、レイくらい腹黒い方がいいというのは分かる。
そうやって頭の中では理解できるけど、私の将来を損得で計算されるというのはやっぱり嬉しくないし、“姉上のことを思って”という言葉が薄っぺらく感じられる。
(何が私にとって幸せなのかなんて、知りもしないくせに……)
そういうの含めて考えると、私の気持ちを考えようとしてくれているクロード王子は、誠実な人なのだろう。
本当、勿体ないと思う。それだけ誠実なら、エミリア嬢との方が上手くいきそうだ。彼女もとても真面目な人だから。
そこがすんなりと収まらないのだから、人の感情というのは本当に厄介だ。
私自身も、“ニナ”の感情や過去の出来事に引きずられて、父とまともに話さなくなってしまったくらいだし。
私が自分の気持ちを告げても、諦めきれないと言ったクロード王子が蘇る。
私も、自分の理想や“ニナ”の思いを諦めきれない。
(でも、そうか……私の気持ちがどうあっても変わらなければ、彼は諦めるのか……)
彼の立場的に、どうしても私を娶りたいというならそれも可能だ。レイや父が喜んで協力するだろう。私の否応は関係ない。無視すればいいだけの話だ。
それをしないと言っているということは、私の気持ちを慮ってくれているということだろう。
(相手のために譲歩する、か……)
自分ならそういうことができるだろうかとふと思った。
もしも逆に、彼が私への思いをどうしても捨てきれないと言った時、私は譲歩できるのだろうか、と――。
(私は……)
翌日、いつも通りに学園に行くと、教室の一角で他の貴族令嬢と話すモニカ・フレンツェルの姿が見えた。
昨日あんなことがあり、彼女が関わっているのだと思うと何とも微妙な気持ちになる。
アンヌ・バシュレ子爵令嬢については、クロード王子の方で身柄を抑える手筈になっているとレイから聞かされたけど、モニカ・フレンツェルの方はまだ確固たる証拠もないので、まだ何もしないらしい。
そのため、今日は絶対に一人きりにならないように言われた。放課後も図書館には寄れない。
迎賓館に帰ったら何をしようかと考えていると、エミリア嬢に声を掛けられた。
「ローザ様、おはようございます」
「エミリア様、おはようございます」
「少しお元気がないようですが、どうかされました?」
「特に何ともありませんわ。ご心配頂き、ありがとうございます」
ぼんやりとしていたんだろう。怪訝そうに尋ねてくるエミリア嬢に微笑ってそう答える。
「そういえば、クロード殿下のお姿がまだ見えませんわね……」
一時限目の授業まであと五分。最初は魔法基礎学だから男女一緒だ。
何かあったんだろうかと考えていると、話が聞こえたんだろう、近くでアルベルト君と話していたレイがこっちにやって来た。
「クロードは所用で少し遅れるそうです」
「まぁ、そうなのですか……」
所用と聞いて、アンヌ・バシュレ子爵令嬢のことが頭に思い浮かぶ。クロード王子の方で対処するという話だけど、それが朝一になったんだろうか。
(クロード王子が直接身柄を確保しにいくことはないだろうけど、私が魔法で階段から落ちるのを見たのはクロード王子だけだからな……)
証人となれるのは彼だけだ。
「心配せずとも、すぐに来ますよ」
レイの言葉通り、クロード王子は一時限目が始まってしばらく経った頃に教室に入ってきた。
事情があって遅れる旨が伝えてあるなら教師は何も言わないし、本人も普段と至って変わりない様子だったので、昼を過ぎる頃には遅れてきたことなど誰も気にかけてはいない雰囲気だった。
私もいつも通りだったし、モニカ・フレンツェルと話すこともなかったから、何事もなく授業は全部終わった。
「では、戻った後は勝手に出かけたりしないように」
迎えの馬車に乗り込んだ私にレイはそう釘を刺す。
「分かっております」
半分溜め息を吐きながらそう言うと、レイは御者に軽く視線を送って扉を閉めさせた。
迎賓館に戻るのは私だけで、レイはこの後、今回の件についてエミリア嬢と話をするそうだ。
私も当事者なんだから一緒に話を聞いてもいいような気がするけど、エミリア嬢はモニカ・フレンツェルと仲が良いので私がいたら話しにくいだろうとレイに言われた。
まぁ、確かにそうだ。長年仲良くしてきた友人が、最近親しくなった転校生に嫌がらせをしているとか、私でも当事者を目の前にして友人のことを話すなんて遠慮したいと思う。
(気になりはするけど、それよりも考えないといけないことがあるから、これでいいのか……)
考えないといけないこと――朧げな記憶ではあるけど、ゲームではローザの追放イベントのすぐ後に二回目の太陽の塔のイベントが起こっていた。間に別のイベントが挟まっていた記憶はない。
もちろん、ゲームでは色々と端折られるから、追放イベントの直後なのか、少し日数が空いていたのかまでは分からない。
(色々とゲーム通りではなかったけど、今回の件がローザの追放イベントに当たるなら、結界が再び揺らぐのももうすぐということになる……)
そう考えて、私は頭を横に振った。
また、ゲームを基準に考えてしまっている。散々それはしてはいけないと自分に言い聞かせている筈なのに。
(いや、まあ、“ゲームではこうだったから大丈夫”って考えるのと、“ゲームではこうだったからここにも注意しておかないといけない”って考えるのは別物なんだろうけど……)
とは言え、何が現実に起こるのかは分からないから、常にゲームの感覚に引きずられているというのはまずい。でも気付けばゲームの流れをベースに考えている自分がいる。思考誘導でもされてるんじゃないかと不安になる。
(そもそも、夢だってタイミングが良すぎるし……)
初めて前世の記憶を思い出した時はともかく、その後ゲームの内容を夢に見たのはソレイユに来ると決まってからだ。
しかもまともにプレイしたのは一回くらいで、普段は思い出そうとしてもぼんやりしているのに、夢ではキャラクターの台詞までゲーム画面に現れるとか、いくら何でも夢の精度が高すぎないだろうか。
(夢の回数自体はそんなに多くなかったし、これから起こることを考えるので頭が一杯になって、そこまで気が回らなかったけど……)
改めて考えると違和感しか感じない。
(何か、気持ち悪いな……)
“ニナ”や前世の私自身の記憶はともかく、ゲームに関する記憶は、誰かによって都合よく与えられたものなんじゃないか。そんな不気味な考えが脳裏をよぎった。
(そんなわけ、ないか……)
ゲームのシナリオと食い違っている部分はいくつもある。現実と噛み合っていないのに、ゲームの知識を与える意味がどこにあるだろうか。
バカなことを考えてないで今後のことを考えようと、頭を切り替えている内に馬車は迎賓館に着いていた。
どことなくざわついているような気がして窓の外を覗くと、見慣れない馬が門の近くに繋がれている。
赤い馬具にリュミエール王家の紋章が入った飾り布――、王家からの早馬だ。
嫌な予感が駆け抜けた。
いくら緊急時でも、王都内の連絡に早馬は使わない。使者が遠方から来たことは明白だ。遠方にあるリュミエール王家の管轄地は始まりの泉があるイニティウムだけ。それ以外に考えられるのは、スキアー家の使者がソレイユに入った時に馬を乗り換えた可能性くらいだ。
始まりの泉かセレーネで何か起こった――。
居ても立っても居られず、馬車が止まるなり、外からドアを開けらるのを待たずに自分で外に出る。驚く御者に構わず迎賓館の中に入ると、表情を強張らせた使者とヴォルフ達がいた。使者の服装はセレーネの物だ。
叔母やナディアの姿が脳裏をよぎる。
「ローザ様!」
名前を呼ばれ、我も忘れて使者に詰め寄ろうとしていたのを寸でで堪えた。迎賓館にはソレイユの使用人もいる。
「何が、あったのですか」
「お一人ですか? レイ殿下は今どちらに?」
「所用でまだ学園にいらっしゃいます」
そう答えると、ヴォルフは部下の一人にレイを迎えに行くよう命じる。
「ローザ様、どこか人払いのできる場所を」
「分かりました。私の部屋に行きましょう」
ヴォルフ達と使者を連れて二階に上がる。
ドアの横に見張りを一人立てて中に入ると、使者が私に向かって膝を付いた。王女として聞かないといけないということだろう。
「それで、一体何が……」
「三日前、王都周辺に複数のダークウルフの群が確認されました」
「っ、それは、普通の群よりも強い個体がいる群ということですか?」
「はい、その通りです」
セレーネの王都近くでの魔物の出没――。二回目の太陽の塔のイベントも、初めはセレーネからだった。
「ワイバーンやその他の魔物の目撃情報は?」
「ワイバーンの目撃情報は私が王都を発つまではありませんでした。ホーンラビット等の小物は、数が増えているようです。現在、討伐隊を派遣すると同時に調査を行っているところです」
実際の規模はまだ分からないけど、ソレイユで起こった時と同じようなことになっているのだろう。月の塔にも異変が起こっている可能性を考えておいた方がいい。
「月の塔は? 叔母上やナディアの様子は?」
「月の塔には王妹殿下が向かわれました。ナディア様についても恙なくお過ごしです」
「そう……」
とりあえず二人には何も起こっていないようだと胸を撫で下ろす。叔母が無事なら月の塔への魔力補充も問題ないだろう。
「ニナ様の方はいかがでしょうか? ご不調等ありませんでしょうか?」
使者に尋ねられて、そうか、自分も心配される側だったか、と思い出す。
「ええ、特に何も。いつもと変わりありません」
私の状態を確認するのも役目だったのだろう。使者は「陛下にもそのように伝えます」と言う。
ゲームだと、この後再びソレイユの王都付近でも魔物が出没して、太陽の塔へと向かう流れになる。
ソレイユで二回目が起こるかはまだ分からないけど、ソレイユに続きセレーネでも魔物が現れたとなると、結界の状態を確認しないといけない。イベントのようにヒロインが同行するかは分からないけど、ソレイユ王は確実に誰かを派遣するだろう。
(でも、アデール様は目覚めていない……)
この前はまだ不調という程度だったけど、今回は昏睡状態だ。アデール様の力を頼みにすることはできない。
(公爵家の女性が遠方にいるという話だったけど、どうなったんだろう……あの後、結局王都に呼ばれたんだろうか……)
色々と考えないといけないことはあるけど、ソレイユの動きを確認してからでないと難しい部分もある。ローザ・フェガロで通している私がいきなり王宮に行くわけにもいかないから、レイが帰ってくるのを待つしかない。
◇
人気のない庭園の一角で、エミリアは自身を呼び出した人物を待っていた。
昼間、エミリアに声を掛けてきたレイ王子は、珍しくも二人きりで話したいことがあると言ってきた。彼の付き人であるローザと親しくしていることもあり、同じ授業の時や昼食の時などに話すことはあるが、それはローザやクロードといった人物を交えてのことだ。二人きりで話をしたことはない。
ローザに何かあったのだろうかと思案していると、レイ王子が姿を現す。
「お待たせしてすみません、フォンテーヌ嬢」
「いいえ、とんでもございません。それほど待っておりませんので、謝罪には及びませんわ、レイ殿下。それで、お話とは?」
エミリアが尋ねると、いつも柔和な笑みを浮かべているレイ王子の表情がやや緊張を孕んだ。
「昨日、ローザが誰かに階段から落ちるよう仕向けられました。学園内でのことです」
「え……」
エミリアは軽く目を見開く。今日も大半をローザと過ごしていたが、そんな素振りは少しも見せていなかった。
「幸い、クロードや私が助けに入り、大きな怪我は負わなかったのですが、犯人はどうも魔法を使ってローザの足を取ったようなのです」
「そんな、まさか……」
魔法を使って意図的に他者を傷つけることは重罪だ。しかも隣国の王子の付き人を害そうとするなど、国同士の問題に発展しかねない。
「私は犯人の姿を見ていませんが、カミーユ・セルヴェ殿が逃げる犯人の横顔を見ました。彼が言うには、アンヌ・バシュレ子爵令嬢だったそうです」
エミリアは瞬時にアンヌ・バシュレとローザの関係性を考える。
(お二人に直接的な関わりはないはず……では、アンヌ・バシュレ様の身近な方は……)
エミリアの脳裏に、モニカ・フレンツェルと話すアンヌ・バシュレの姿がよぎった。ここ最近で見かけた光景だ。
(モニカ様……まさか、そこまで……)
エミリアは目を閉じた。
先日、クロードから唐突にモニカのことを訊かれ、少し不審に思ったエミリアは、密かに彼女のことを周囲に訊いて回ったのだ。すると、最近他学年の令嬢と話している姿をよく見かけると言う。名前を確認すれば、皆モニカと縁戚関係にある者か、フレンツェル伯爵家に恩や借りのある家の者だった。
フレンツェル伯爵家で何かあったのか――。
そんな考えもよぎったが、フレンツェル伯爵家に関する悪い噂などは聞かない。だが、モニカの気が立っているのは確かだった。
今、ローザとアンヌ・バシュレの名前がレイ王子の口から出てきて、ようやく何が起こっているか分かった気がした。
少し前のお茶会の帰り、モニカは泣きながらエミリアに訴えていた。ローザよりもエミリアの方がクロードに相応しい、と――。
「レイ殿下は、モニカ様が怪しいとお考えでしょうか?」
「何故、フレンツェル嬢だと思うのです?」
「先日、クロード殿下にモニカ様の様子を尋ねられました。クロード殿下は今までモニカ様を気にかけることがありませんでしたので、モニカ様について他の皆様に尋ねてみたのです。モニカ様は最近、親戚の方やフレンツェル伯爵家と関係のある方と過ごされているようです。私自身、アンヌ・バシュレ様と話しているところを見かけました」
「なるほど、そうでしたか。――ところで、下級生にマナミ・カンザキという生徒がいるのを知っていますか?」
「はい、名前は知っております。話したことはありませんが……。その方も何か関係が……?」
「初め、嫌がらせを受けたり危害を加えられそうになったのは、その者だったのです。そしてそれらをやったのはローザであると吹き込まれていました。上から花瓶を落とした時には黒髪の人物も目撃させた。私もフレンツェル嬢がその者と話しているのを目にしています。ローザが直接危害を加えられたのはその後です」
犯人が初めはローザの評判を落とそうとしていたのだというのはエミリアにも分かった。
「クロードとの仲を妬まれてのことだと思いますが、早々に婚約者候補から外れたフレンツェル嬢がそんなことをしても利は薄い。フレンツェル嬢本人の意思か、誰かに手伝わされているのか、まだ判断が付かないのです」
それで自分に直接訊きに来たのだとエミリアは悟った。
「殿下は、私が関与しているとお思いですか?」
「フレンツェル嬢の交友関係を考えると貴女である可能性が高くなりますが、貴女は常にクロードとローザの仲を取り持とうと動いている。それを考えると貴女である可能性は低い。ローザも貴女ではないと言っている」
自身が尊敬している相手に疑われいないと分かって、エミリアは胸が温かくなるのを感じた。
だが、これは自分が引き起こしたようなものである。
「申し訳ありません、レイ殿下……モニカ様のことは、私の所為でもあります……」
「それはどういう意味です?」
「私は、クロード殿下に相応しいのはローザ様だと思っております。何よりクロード殿下ご自身がそう望まれています。その時点で、私はクロード殿下のお心に沿うべきだと申しましたが、モニカ様にはあまり伝わらなかったようです……」
お茶会を開くに至った経緯やお茶会後のモニカの様子を簡潔に伝えれば、レイ王子は軽く頷いた。
「なるほど、これで納得がいきました。貴女のためにフレンツェル嬢の独断で行ったということですね」
「申し訳ありません。モニカ様が納得されるまで、私は話をするべきでした」
最終的にモニカが納得してくれたかは分からないが、こんなことが起きるなら、エミリアは彼女の理解を得るためにもっと尽力すべきだったのだ。
「切っ掛けは確かに貴女かもしれませんが、今回のことはフレンツェル嬢が自身の考えで行ったことでしょう。彼女は貴女の配下や部下でもなければ、貴女はローザに危害を加えることなど望んでもいない。関わった者全ての考えや行動の責任を取っていては、世界は立ち行かなくなりますよ」
「レイ殿下……」
それでも、エミリアの中から罪悪感が消えることはない。時間がないのは確かだが、性急に事を進め過ぎた弊害が今回のことに繋がっているのだ。
(せめて、ローザ様には謝罪をしなければ……)
そんな思いに囚われていると、こちらに駆け寄ってくる兵士の姿が見えた。兵士は兵士でも、ソレイユの兵士ではない。
「殿下」
「どうしたのです、学園の中まで」
レイ王子の護衛だというのはすぐに分かったが、学園内は基本的に護衛も入れないようになっている。火急の事態を除いては――。
護衛がレイ王子に何か耳打ちをする。刹那、レイ王子の表情が強張ったのが見えた。
「すみません、フォンテーヌ嬢、少し急用ができました。先程の話は私からクロードに話しても構いませんか?」
「はい、もちろんです」
エミリアが頷くと、レイ王子は、それでは、と短く言って足早に去っていく。
何かあったのは火を見るよりも明らかだ。彼が表情を変えるような出来事とは何だろうか。
エミリアの中で微かに生まれた不安は、少しずつ胸騒ぎへと変わっていった。




