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いつも読んで頂き、ありがとうございます。ブクマもありがとうございます。

 レイは迎賓館に戻ってくると、すぐにソレイユの宮殿へと先触れを出した。馬車の中で、セレーネの王都近辺にも魔物が出たことを聞いたらしい。

「私はソレイユ王に謁見してきます。ローザはここから出ないように」

「分かりました」

 使者によると、父からの信書を携えた使者がリュミエール王家にも向かったとのことだから、今頃あちらでも諸大臣が招集されているだろう。

「恐らく、再度太陽の塔へ調査隊が派遣されることになると思います。その心積もりでいて下さい」

 私も同行する可能性が高いと思っての言葉なのだろう。

 レイがアデール様の状態をどこまで把握しているか分からないけど、セシル王女の魔力が戻っていないことは知っている。多分どちらも出られないと、レイは予想しているようだ。

「はい、準備はしておきます」

 レイは支度を済ませると、ヴォルフと数名の護衛を連れて宮殿に向かった。

 私は部屋に戻ってクローゼットの奥から男物の質素な服を取り出す。二度目があるだろうと思っていたから、今回は自分のを持ってきた。

 そしてもう一つ、小さな革の袋を取り出す。中に入ってるのは付加魔法をかけた宝石だ。

 リーンにアミュレットの核を融通してもらって付加魔法の練習をした後、大半はリーンに返したけど、小さいものを一つだけ手元に残したのだ。

 戦闘に参加しなくても怪我をする可能性があるのは前回で身に染みている。周りに心配をかけないためにもある程度の自衛は必要だ。

(そういえば、カンザキさんは何か持ってるのかな……)

 彼女もまた同行するかは分からないけど、一緒に来るなら何か持たせておいた方がいいだろう。

 ゲームではミニゲームの報酬に宝石類があって、それに付加魔法をかけて攻略対象達にプレゼントすることでキャラを強化することができた。けれど、当然、現実世界ではそんなミニゲームなど存在しない。

(それとなくレイに言っておこうかな……)

 この前みたいなことがあったから、ソレイユ側も何か考えてるかもしれないけど。

(もし、またワイバーンや、同じレベルの魔物が出たら……)

 自分の掌を見つめながら思う。

 もちろん防御魔法は使うし、ソレイユも護衛を増やすとか、何か対策はしてくると思う。でも、私もあの一撃を凌ぐのが精一杯だった。相性が悪かったとはいえ、魔力量もそれなりにあって防御魔法に一番適性のある私でさえ、そんな有り様なのだ。あれが二撃、三撃と続けばどこまで耐えられるか分からない。

(水属性か土属性だったらまだ何とかなるんだろうけど……)

 水属性でかつ魔力量がある筆頭はレイだ。攻撃魔法と防御魔法ではやや防御魔法に適性がある感じだけど、群を抜いて良いわけではないし、攻撃の面を考えるとレイは攻撃側に回したい。

 クロード王子は火属性で、攻撃魔法の方が適性が高い。

(セシル王女が土属性だけど、魔法が使えないし……)

 アデール様は私と同じ風属性だった。

(そういえば、カンザキさんって多分土属性だよな……)

 警戒されてるせいであまり近付いたことはないけど、あの魔力の感じは土属性だと思う。しかも、ヒロインで王女の代役に選ばれるくらいだから、魔力量は多いはずだ。

(ワイバーンが出たら、防御に加わってもらえないかな……)

 なんて考えたけど、きっと私から話しても聞いてはくれないだろう。それに、前回は完全に怯えてしまって魔法が使えるような精神状態じゃなかった。遠方から防御魔法を使うならまだしも、前線に立って防御をするというのは彼女には酷かもしれない。

(一応、危なくなったらレイかカミーユ君を通してお願いしてみるか……)

 無理だと言われたら、こちらでどうにかするしかない。

 一度は撃退できている。レイや皆の力は確かだから、私さえ攻撃を防げれば、きっと何とかなるはずだ。




 宮殿に到着したレイは、慌ただしい空気の中、すぐさま謁見の間へと通された。

 セレーネの王都アクティナでも魔物が現れた件は、もう諸官にも伝わっているのだろう。先見の明があるソレイユ王ならば、再びサンティエでも魔物が増える可能性を考慮して動いていてもおかしくない。

 謁見の間に入り、レイはソレイユ王の前へと進み出て礼をする。

「急なお目通りをお許し頂き、誠に有り難く存じます」

「こちらから呼ぼうと思っていたところだ。早速だが、話に移ろう」

 ソレイユ王はそう言って、レイに右側の位置を示した。そこにはクロードがいる。

 レイは緊張した面持ちのクロードと一度目を合わせ、隣に並んだ。

 向かい側には諸大臣と思われる貴族と研究者ら、そしてソレイユ王の傍には宰相のハースが控えている。レイは表情を引き締めた。

「先に伝えたが、セレーネの王都近郊でも複数の魔物が目撃されたとの報が届いた。研究者らよ、この事態をどう見る?」

 ソレイユ王の問いかけに、年長の研究者が答える。

「恐れながら、一つには月の塔における異変、そしてもう一つには、先頃我が国にて起こった異変の影響が考えられます」

「具体的には? 確かに夏の初め、王都の周辺で魔物の数が増えたが、太陽の塔自体には問題がなかったと聞く」

「そのお言葉には些か語弊がございます、フォンテーヌ侯爵。太陽の塔および結界を構成する核に破綻は見られませんでした。しかしながら、春前に王姉殿下が魔力を補充され、半年も経たない内に半分近くまで減るというのはあまりにも早い。そしてまた、半分以上魔力が残っている状態ならば、結界に揺らぎは起きない筈でございます」

 要するに、核の魔力の減りが早いのもおかしいし、結界が揺らぐほど核の魔力が減ったわけでもないのに王都付近に魔物が増えたというのもおかしいということだ。しかも、太陽の塔や核自体にこれといった異常は発見できなかったという。

「結界が揺らいだにしても、突然王都にあれだけの魔物が現れるというのもおかしな話です。結界が揺らいでいるならば、まず辺境の領から魔物が増えたという報告が上がってくるはずです。しかし、そのような報告は一つも挙がってきておりません。これではまるで王都の周りに魔物が突如として湧いたかのようです」

 そう、研究者の一人が述べる。

 ニナも似たようなことを言っていたな、とレイは思い返す。突飛なことを思いつく姉は、そこから召喚の儀に結び付け、魔物を召喚する魔法があるか否かを調べたが、結局そのような方法は見つからなかった。

「では、研究者諸君は、太陽の塔にも何らかの問題がある、という見解でよろしいか?」

「可能性の一つでございます。此度セレーネで起きました異変が、月の塔の単独の異変によるものか、太陽の塔との不均衡によって起こったものかにつきましては、未だ判断の下しようがございません」

「そこまで分かれば十分だ。セレーネからの続報が届くにはまだ時間がかかる。その間に太陽の塔を調べればよい」

 ソレイユ王はそう言うとレイの方を見た。

「レイ王子、叔母君や王女らの様子について何か聞いているか?」

「叔母を初め、姉や妹も、体調を崩したという報せは受けておりません」

「そうか。――ベルトラン、隊を編成し、王都周辺の警戒に当たれ。ハースは近隣の領地に密使を、ラングロワは被害に備えて物資の確認をせよ」

 侯爵らが王命に答えると、ソレイユ王はクロードに目を向けた。

「クロード、調査隊に同行せよ」

「はい」

「レイ王子、先の例から見ても危険を伴うだろうが、其方の助力を求めたい」

「もちろん、ご協力致します」

 本当に力を求めたい相手はローザなのだろうと考えながら、レイは了承の意を示す。

 一人でワイバーンの攻撃を防いだローザは、守り手としても核への魔力補充者としても欠かせない存在だ。だが名目上、ローザ・フェガロはレイの付き人であるため、ローザを駆り出すにはレイの許可が必要だ。

「調査隊の護衛には更に二部隊の兵を割きましょう。王姉殿下と王女殿下は調査隊に同行できませんので、前回同行して頂いたローザ・フェガロ侯爵令嬢とマナミ・カンザキに同行の打診を。加えて今回は公爵家のロゼール・ブルクミュラー様にも同行して頂きます」

 補足する宰相のハースに、レイは本人に打診するまでもないと口を開く。

「ローザ・フェガロについては、私が連れていきますので、頭数に入れて頂いて結構です」

「ありがとうございます。では、そのように。調査隊の出発は明朝となります。それまでに各自準備を整えて頂きたく思います」

 一通りの説明が終わり、その場は解散となった。


「――レイ」

 謁見の間を出たレイは、後ろから追ってきたクロードに呼ばれて足を止めた。

「今回も力を貸してもらえるのは助かる。だが、この前のことを考えると、やはりお前やローザを危険に曝してはならないのではないかと思う……」

 どこか思い詰めたような表情のクロードに、きっとあの時のことを思い出しているのだろうとレイは過去の記憶を反芻する。

 王都になど現れるはずがないワイバーンが現れたのはこれ以上ない不運だった。だが、幸いにもニナという防御魔法の使い手がおり、誰の命も失わずに帰還することができた。あの時は本当に運が良かったのだ。クラウス・ルーデンドルフは生死の淵を彷徨ったし、ニナも魔力の消耗が激しく意識を失った。一歩間違えればどちらか、または両方を失っていた可能性もある。

 同じ幸運は二度も訪れないかもしれない。ワイバーンという脅威が再び現れる可能性を考えれば、確かに危険だ。

 だが、それでも――。

「クロード、その気持ちは嬉しく思います。ですが、何を優先すべきか、私も理解した上での判断です。それはローザも同じです」

 二国には結界が不可欠だ。そして王族であるレイは結界の維持という責任を負っていると同時に、この場で一二を争う戦力の保持者だ。一番必要とされているのはニナだろうが、だからといって、一人安全な場所で皆の帰りを待つつもりはない。

 幸いにも、レイには弟がいる。ニナも現状、役目を継ぐことはないため、最悪二人とも欠けてもスキアー王家は存続できる。

「それに、貴方が出るのであれば、私も出ますよ。二人で協力していこうと言ったじゃありませんか」

「レイ……」

「もちろん、出来得る限りのことはしますよ。ワイバーンは確かに脅威ですが、過去に狩った例がないわけではありません。そう悲愴な顔をしないで下さい」

 レイが苦笑してみせると、クロードは、そんな顔をしているのかと、真面目に受け取る。そんな様子がまたレイの笑いを誘った。

「ローザに関しても、そう心配は要らないでしょう。前回はかなり無理をしてあのようなことになりましたが、役目を継げるだけの魔力を持っているというのは、私達が考えている以上に伊達ではありませんよ」

「そう、だといいが……」

 まだ心配が勝っているクロードに、それなら、とレイは方向性を変える。

「もし、ローザが危険に曝されそうになったら、クロードが守って下さい。あの人が欲しいと望んでいるのですから、それくらいできるでしょう?」

 半分冗談のつもりで言ったのだが、クロードは途端に顔を真っ赤に染めた。

「お、お前っ、ここでそういうことを……!」

 覚悟を決めた時には自身の思いを躊躇わずに言葉にできる彼だが、不意打ちにはまだ弱いようだ。

 くつくつと忍び笑いを漏らすレイに、クロードは目を逸らしながらもぽつりぽつりと言う。

「……任せろ、と言えるほど、防御魔法は得意ではないが、俺の力が及ぶ限り、俺が守る……」

「ありがとうございます」

 不器用ながらも彼の思いがどこまでも伝わってくる言葉に、レイは柔らかく目を細めた。


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