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オレンジ色。  作者: 火薬
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その2




高校を卒業したら、そのまま大学へ進学し何か適当なところに就職するんだろう。

とか私は漠然とそんな事を考えていた。

いや、これは嘘だな。てか知らない。忘れた。忘れたことにした。

というか高校卒業すら危ぶまれた気がするな。「高校卒業したら」なんてみんな当たり前のように語っていたけど

いやはやうちの学校ときたら頭の悪い奴ばっかりで、当然その有象無象の中には私も含まれていた。

あにはからんや「私だけは大丈夫」だなんて己惚れたことは考えてはいなかった。

しかし、焦ってなど居なかった。いや、焦ろよ。焦って然るべきだろう。叱られる前にな。

そんな自分ツッコミすら出てくる。

こんな事を言えば両親から袋叩きにされても文句は言えないんだけど、

「別に死ぬわけじゃないじゃん?」なんてそんな御目出度い脳みそでいた。

そして、そんな悪魔の囁きをアンチしてくれるべき天使の囁きは私の中からはいつまでたっても生まれてこなかったのが

始末の悪い話しである事この上ない。

エンジンが掛からなかったから、ビックになるから、努力したら負けだから・・・言い訳にすらならないような言い訳だ。


言い訳だ・・・・。

誰にだって胸を張れるようなスキルってもんがあるんだって思っていたけれど、

それどころか、凹むようなレッテル貼られれば自信だってなくすだろう。

女子高生という夢いっぱいの種族として日常がまだ楽しかった時代だ。

「お前は頭悪いんだから、鏡見て身の丈にあった生き方をしろ。」当時高校2年生だった頃の担任教師に言われた一言だ。

進路相談室で響いた重たい声を私は引き摺ってるという程、引き摺ってるという事ではないんだけど

だから、甚だ腹立たしいことではあったから、そうだから忘れたい事だ。

だから、今こうしてズリズリ怠惰な日常を送ってるのはあの担任教師の所為でもあるんだ。だから言い訳なんだけど。


「お?アプデきてたのか。さっそくダウンロードだ!」

そして、そうこうしているうちにオートウォークの上に居るように人生を謳歌している同級生達を横目に

私は、私一人は桜の花びらが一枚二枚三枚と散っていく中、のうのうと四畳半の結界の中で過ごしている。

「・・・・・・・・・」

いや、横目にとはいうものの私のオートウォークは壊れているからずっと停滞してしまっている。

しかし、こんな私でも最近は少しばかり成長したものなんだ。それは私が保証しよう。

最近では「今のままでは!」と「もっと頑張らねば!」と語るようにもなったものだ。

言い訳のように表現してしまっている時点で砂上の楼閣であるのかもしれないけどな。

「にゃぁ・・・」

「飯ならさっきやっただろ?私は今忙しいんだ。」

足元で黒猫の平八さんが喉を鳴らしながら甘えてくる。

それを無視して再びパソコン画面に向き直ると下から納得いかなさげな鳴き声があがる。

「電気くらいつけなさいよ。」

「ノックくらいしなさいよ。女の子の部屋だぞ?」

訝しげな声には訝しげな声で反撃する。

猫の次は母親か・・・。と私は気だるく溜息を吐いた。わざとらしくだ。

それを見て更にムッとした母さんの顔は狛犬のようだ。

「今日、面接は?」

「行ったよ。」

「本当に?」

「うん。」嘘は言ってはいない。

作った履歴書を持ち、ちゃんとスーツを着て、電話しておいた会社まで自転車を漕いで私は本日、面接を受けてきた。

ちゃんと会社員になるために面接を受けさせていただきに赴いた。

「どうだった?」

「いつから来れる?って訊かれた」

人手が足りなくて履歴書さえあれば殆ど採用であるはずだった。

「そっか、じゃあ明日からでもいけるのね。」

そして、それをを聞いて母さんは胸を撫で下ろしたように、その狛犬のようなしかめっ面を解いていった。

だが、物語は最後まで聞くべきものだ。

イベントシーンはスキップしてはいけないのだ。

物語の醍醐味とは常にいつ大どんでん返しが待ち受けるのか分からないものなのだ。

「行けたら行きます」そう言った。

言わずもがな物凄い勢いで怒鳴られた。

どんな風に怒られたのかも覚えていない程、長時間にもわたって説教を聞くはめになり

晩御飯の時間もずれてしまい、そのまま不機嫌になってしまったので

「お前、ご機嫌取りする俺の身にもなってくんない?」と父さんにまで被害が及んだ。

しかし、災害はここでは留まらなかった。

それは私のナワバリの中、今の私を保つための心のコアとも言うべきパソコンだ。

母さんの怒鳴り声にビックリして思わず後ろに飛び退いたら、机の上の本棚に手を引っ掛け

そのまま倒れてきた棚がパソコンを直撃!

モニターも本体もセットで溶岩が流れるように、その光景はスローモーションで私の目の前で破滅していった。

人間は本当にビックリすると声が出ないものらしい。

声どころか何の感情も浮上してこなかったわけなんだが・・・。

棚を起こし、パソコンを元通り机に配置していつものように電源ボタンを入れる。

しかし、彼はその独特な無機質な起動音を唸らせる事もなく、ただ、ただ、ただただ。そこに鎮座するだけだった。

当然だけど、母さんは「自業自得」とだけ言い放った。

冷たくだ。



「・・・・・・買ってやってもいいぞ?」

真っ暗な部屋のなか、ぬいぐるみのように壊れたパソコンを抱きしめて口からゾンビのような溜息を漏らしているところへ

やっぱりノックもなしで入って来た身内がそう言った。

いや、別にパソコンが壊れてしまったからと言って実の母親を狩りとって欲しいとまで、そんなサイコパスな発想は持っていなかったんだが・・・

私の父親も発想が斜め上をいっているな。

しかし、こんなぶっ飛んだ発想を持っていても人は一家の大黒柱を担えるものなのだな。

少しだけ勉強になった。

「落ち着け。俺をそんな猟奇的な父親にしないでくれ。」

お前の頭が心配だ。とほとほと呆れた声で父さんは言う。

「パソコンの話しだ。買ってやってもいいぞ」繰り返す。

今度は私に言い聞かせるように距離を積めてだ。

「条件付でな」

当然タダではないらしい。まぁ、当たり前か。

タダより高いものはない。

「私の魂と交換か。それもいいかもしれない。」

「俺は死神か何かか?お前の魂なんて貰っても使い道はねぇよ。大事にとっとけ!そうじゃなくて・・・」

父さんが言う条件とは簡単なものだった。

いや、ある意味これは魂を売るより大変で、ある意味同じようなものだった。


「近所に俺の知り合いの勤めてる介護センターがあるんだけどな、まぁ人手不足でな。お前そこ就職しろ。真面目にな。

そんでそこの給料で少しずつ俺に返済していく的な?」

「なんか身売りされたみたいな気分だ。悪徳企業にさ」

「怒られるぞ?」

今日はもう既にしこたま怒られ怒鳴られたのでお腹一杯だ。

介護センターってのは、確か募集していたのを見た気がする。すっかり頭から抜けていたけれど・・・。

「まぁ、仕方ない。その契約のった」

全く、上手く乗せられたものだ。

溺れるものは藁をも掴むとはこのことかもしれない。


「因みに一年経たずに辞めたら、その買ったパソコンは従兄弟のケンちゃんにあげちゃうから」


「・・・・・・」

ケンちゃんとは鼻水垂らして脳みそをどこかに落としてしまったみたいな能天気野朗の事か。

あんなのにパソコン渡したら宝の持ち腐れになってしまう!

こうして私は自分のパソコンの為、介護の仕事をする事になったのだった。





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