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ドロップアウト・ワンダーワールド  作者: 玉樹詩之
第七章 ~西の大陸~
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第七十六話 ~足跡探し~

 港町の入り口で解散した初汰は、溢れる人波の中でリーアを見失わないようにしっかりと後をつけ、少し人が居なくなった場所でリーアと合流した。


「あら、初汰じゃない」

「よう」

「もしかしてまだ私の監視を続けるつもり?」

「ま、まぁ一応な。何が起きるか分からないし」

「……はぁ、分かったわ」


 リーアが渋々了承してくれたので、二人はスフィーの情報を求めて再び町の中を歩き始める。


「しっかし賑やかだな」

「そうね。この中から町の人を見つけ出して、かつスフィーの情報を引き出すのは厳しそうね」

「だな。でもここで諦めるわけにはいかないからな。早速聞き込みするか」

「あ、ちょっと――」


 リーアの返事も待たずして、初汰は駆けだした。


「あの、少し聞きたいことがあるんですけど」

「ん、なんだ? 今忙しいんだけど?」

「少しだけなんで」

「手短にね」

「あざます。でですね、このくらいの背丈の女の子がこの町に来たかを聞きたいんですけど――」

「人探しか? こんな時に何考えてんだか。町を見てみろ。こんな状況ですれ違った奴の顔なんて覚えてると思うか?」

「あ、ははは。ですよね~」

「っと悪かったな。少し言い過ぎたよ。他を当たってくんな」


 商人はそう言うと、再び店の準備を始めてしまった。初汰はすることが無くなったのでその場を離れ、リーアのもとへ戻って来た。


「やっぱりこの状態じゃ無理よね……」


 戻って来た初汰の表情から読み取り、リーアは町を見回しながらそう言った。


「この状態じゃ、すれ違った人を覚えてろって言う方が無理な話だよな」

「そうね、少し見方を変えましょ。祭りの準備をしている人じゃなくて、町のはずれで休んでいる人とか」

「確かに! 早速行ってみようぜ」


 初汰はそう言うと、リーアの手を引いて人混みをかき分けていく。


「ちょっと、急に走り出さないでよ!」


 人混みを抜けると、リーアはそう言って初汰の手を払いのけた。


「わりぃわりぃ、なんかあそこにいると息が詰まりそうでさ」

「……まぁ、それは私もそうだったけど」

「じゃあ今回は大目に見てくれよ」


 初汰は満面の笑みでそう言った。


「分かったわよ」


 その笑顔を見たリーアは、怒ることが馬鹿らしくなって微笑みを返した。


「にしても、急に静かになったな」

「祭りの中心地を外れたらこんなものなのかしら?」

「うーん、この町の人たちが全員祭りが好きって言うなら話は別だけど……」

「全員が。ね……」


 たった今走り抜けて来た人混みを眺めながらリーアはそう呟いた。


「おい、アレ!」


 そんなリーアを差し置いて、初汰は別の方向を見ているようであった。


「どうかしたの?」

「あそこにいるの、人だよな?」

「……そう、みたいね」


 初汰の視線の先には、確かに男たちが立っていた。彼らは祭りの中心地から外れて路地裏で固まっていた。その様子を二人が見ていると、群の一人がこちらに気付いた。


「どうした、お二人さん」


 気付いた当人が、初汰とリーアに向かってそう声をかけて来た。


「あぁ、いや、ちょっと気分転換をと思って」

「俺らと一緒だな」

「まったく、少し寄港した町でまさか祭りが開かれてるなんて思いもしなかったぜ」

「まだ仕事が残ってるってのに、これじゃ碌に休めねぇよ」


 三人の男たちは皆タンクトップにバンダナ姿であった。隆々とした上腕二頭筋を見る限り、彼らはどうやら船乗りのようであった。


「えーっと、アンタたちは船乗りか何かか?」


 彼らがボソボソと愚痴を漏らしているのを聞いた初汰は、少し離れた所から声を返した。


「あ? あぁ、そうだぜ」

「なるほどな。まぁその、見た目的にもそうだよな……」

「はははは! 悪かったな。俺たちはこの格好が楽でな」

「いやいや、こっちこそすんませんした」


 初汰が謝りを入れると、静かだった路地裏は更に静まり返った。


「それで、なんか用でもあるのか?」


 何か言いたげに黙っている初汰を見て、向こうから話を切り出してくれた。


「あ、そうだった。その……。このくらいの背丈で、白髪のぼさぼさ頭の女を探してるんだけど、見なかったか?」

「う~ん、覚えあるか?」

「いいや」

「俺も見てないな」

「だそうだ、悪かったな。見たら教えてやるよ。しばらくはここにいるから」

「すんません、あざっした」


 初汰はそう言って頭を下げると、後方で控えていたリーアの元へ戻った。


「見てないってさ」

「この町には入らなかった可能性もあるものね。もう少ししたら戻りましょうか」

「そうだな。ちょっと暗くなってきたし」


 二人は会話を終えると、路地裏を出て祭りの準備をしている会場に戻って来た。暗くなってきているにも関わらず、町の人々は手を休める様子もなく、慌ただしく動き回っていた。


「こんなに暗くて作業になるのかしらね……」

「今日やらないと間に合わないとかなのか?」

「どうなんでしょう。でもこの様子を見る限り、夜に聞き込みをするのも無理そうね」

「だな」


 こうして二人は何の収穫も無いまま、小一時間ほど前に解散した町の入り口付近に戻った。

 戻って来たその場所には、既に獅子民とユーニが居た。二人はなにやら話し合っているようであるが、その表情は芳しくない。初汰とリーアは期待を持たず、二人の元へ歩み寄った。


「よっ、オッサン」

「おぉ、初汰とリーアか。そっちはどうだったのだ?」

「なーんも分かんなかったよ」

「すみません、スフィーの情報は何も得られませんでした。気付いた点で良ければ、町の人たちは祭りの準備に執心していて、今この町には寄港で来ている人はこの町の様子に困惑しているようでした」

「ふむ、なるほど。明日は町のはずれを回るのも有りだな……」


 獅子民は腕を組み、思案しながらそう呟いた。


「確かに、町のこの状況をスフィーも見ているのだとしたら、邪魔にならないように裏道を使う可能性も考えられるなっ……!」


 ユーニはハッと気が付いたようにそう言った。


「ま、今日会った人たちは見なかったらしいけどな」

「ぐぬぬ、それを早く言わんかっ……」


 ユーニは初汰のことを睨みながら、右手を剣の柄に持っていこうとする。


「ちょちょちょ、ユーニさん! 悪かったって!」

「はっはっはっ、ユーニ殿も子供らしい一面があるのだな」

「ごほんっ。これは申し訳ないっ」

「ふぅ、怖い怖い。もうからかわないようにしねーとな」


 四人がそんなやりとりをしていると、そこへクローキンスが戻って来た。


「む、クローキンス殿も戻ったか。何か情報は得られたか?」

「ちっ、ここじゃ騒々しい。宿に行くぞ」


 クローキンスは歩みを止めず、宿屋に向かいながら獅子民に答えた。


「何か分かったのでしょうか……?」

「さあな。まぁ宿屋に行けば分かるだろ」


 四人は顔を見合わせて頷くと、クローキンスの後に続いて宿屋へ向かった。

 そしてその後宿屋に到着した五人は、予めギルが確保してくれていた部屋に入室し、各々一息入れてから集合した。


「全員集まっているようだな」


 一番最後にやって来たのは獅子民であった。先に集まっていたみんなの顔を見回しながらそう言うと、獅子民はベッドに腰を下ろした。


「してクローキンス殿、何か有力な情報を得ることが出来たのか?」


 集まって早々、獅子民はそう言って切り出した。そこに集まっていたクローキンス以外の仲間は全員その話が気になっていたようで、誰も口出しをすることはなかった。


「ちっ、直接的な関係があるかは分からないが、どうやらこの大陸のどこかに秘宝が眠っているらしい。そしてその秘宝とやらは、持ち主を選ぶみたいでな。もしかしたらそれ自体に意志があるんじゃないか。何て言われているらしい」

「ふむ、なるほど。秘宝か……」

「山と炭鉱が多いこの大陸は隠し場所として打って付けの場所だったという事かっ」

「でもそれがスフィーと関係してるか?」

「うむ、問題はそこだな」

「ちっ、だから言っただろ。直接的な関係はないかもしれない。と……。まぁ根拠があるとしたら、秘宝には強力な魔力が封じ込められてるってことだけだ」

「強力な魔力……」


 今まで黙っていたリーアだが、魔力。と言う単語に引っかかりを覚え、呟きを漏らした。


「どうしたリーア?」


 その呟きに気付いた初汰はすぐにそう聞いた。


「いえ……。これはもしもの話なのですが、スフィーが本当に幻獣十指だとするならば、その秘宝はスフィーが隠したもの。またはスフィーの力を抑えるために国家が葬ろうとしたものかも知れない。ということです」


 リーアは一瞬話しをしようか迷いを見せたものの、皆が真剣な眼差しでリーアを見つめたので、彼女は包み隠さず憶測を説明した。


「なるほど……。確かにそれも考えられる。それにスフィーは私と一緒に記憶の祠へ行き、記憶も取り戻している。もしかしたらその時既に秘宝の在り処も思い出していたかも知れぬ……」


 獅子民は腕を組み、床なのか虚空なのか、どちらにせよ誰とも目を合わせず自分に言い聞かせるような調子でそう言った。


「ちっ、まさかそこまでお前たちの妄想が広がるとは思っていなかったが、俺は探す価値があると思う」

「えぇ、私もあると思いますわ。例えスフィーのものじゃなかったとしても、強力な魔力を秘めているのなら絶対に何かの役に立ちますもの」

「では明日からはスフィーと秘宝探し。という事ですかなっ?」

「うむ、そうしたいのは山々だが、どちらにせよまだ情報が少なすぎる。まずはスフィーと秘宝の情報探しから始めよう。そして恐らくだが、町の人は我々の声に聴く耳を持っておらん。そこで一つ、今日初汰とリーアがやったように町の外れに行き、外海から来た人に話を聞いてみよう。もしかしたら秘宝を目当てにこの大陸に訪れている人たちがいるかも知れん」

「ちっ、そもそも秘宝の情報も町の外から来た奴の情報だ。はなから町の奴らには期待しちゃいない」

「何、そうだったのか! ならばクローキンス殿、明日はその情報を聞いた場所に案内してくれないか?」

「……あまり安全とは思えないぞ」

「どうしてだよ?」

「ちっ、話を聞いたのは町の外れにある船着き場だ。見た感じあれは密航者。奴らの声がバカでかくて聞こえただけに過ぎないからな」

「うーむ、そうだったのか……。しかし今のところ手掛かりはそれしかない」

「ちっ、待てよ。おいアンタ」


 クローキンスはそう言うと立ち上がり、ユーニの腕を取った。


「な、なんだっ?」

「ラッキーだ。アンタの腕が毛で覆われてたお陰でリストバンドが完全に締められてない。外すぞ」


 何が何やら分からないまま、ユーニの左手首にぶら下がっていたリストバンドをクローキンスが回収した。


「ちっ、これで俺とアンタは自由だ。リストバンドが無いと分かれば、もしかしたら潜入できるかもしれない」

「ま、待ってくれ。潜入とは、その賊の所にか?」


 トントン拍子に話を続けるクローキンスを一度抑止するように獅子民は遮った。


「あぁ、そうだ。リストバンドがついてるお前さんたちは、犯罪を犯せばすぐに見つかっちまう。勝手に廃坑に入れば当然バレる。不審な動きをしていてもバレる。こうなったら付いてない俺と角男で行くしかない」

「つ、角男っ……」

「うーむ、確かにそうだが……。どうにかしてこれを外すことは出来ないのか?」

「それは止めておいた方が良いですわ。これにも僅かながら魔力が通っています。恐らく無理矢理外そうとすればバレる仕組みになっています。無論、もともとちゃんと締めることが出来ていなかったユーニさんは別ですが」

「そうかっ。私は運が良かったのだなっ!」

「戦力的には問題ないんじゃね? クローキンスとユーニさんなら」

「……分かった。二人には潜入捜査をしてもらおう。我々三人は町で情報を集める」

「ちっ、安心しろ。危なくなったらこのリストバンドを賊の誰かに巻いてやる」

「なるほど! 頭良いなクローキンス!」

「ちっ、んなことすぐ分かるだろ」


 ……その後他に作戦を立てるわけでもなく、話し合いは終了した。とりあえず明日はクローキンスとユーニ。二人の潜入捜査が情報収集の主となり、初汰とリーア、それに獅子民は町で二人の帰りを待ちながら細かな情報収集をすることとなり、その日は解散となった。

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