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2115年、アンドロイドの救世主  作者: レブナント
ACT6 クラブ音音襲撃事件
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第三話「襲撃の予兆」

 ビル街の間、電気自動車が行きかう道路の脇の歩道にて。

 デジタルアイドルのコスプレをした3人の少女が買い物袋を両手にもって歩いていた。

 クラブ音音のホステスである。

 クラブ音音は朝の掃除から食材の買い出し、客の応対とほぼ全ての業務をホステスが割り振って当番制で行う変わった店である。


「重~い。手も疲れてきた」

「こういうのは男の仕事だよね。なんで店長は黒服を雇わないんだか……」

「私は気晴らしになっていいと思うけどなぁ」

「えぇーー!?」

「えぇーー!?」


 下らない会話をしながら3人は歩く。

 そして交差点を曲がって進もうとした3人の前にダチョウ型の検問ロボが立ちはだかった。

 車は全てUターンして引き返している。


「えぇ、ちょっと聞いてないんだけど。何で通行止めなの?」

「ご迷惑をおかけします。

 この先でインフラパイプの工事を行っております。

 迂回して別のルートをお進みください。

 ご協力ありがとうございます」


 少しふっくらしたホステスがインフォメーショングラスを目に装着してなんども空中にAR表示されるパネルを怪訝な顔をして操作している。


「どうしたの? ナギサちゃん」

「おかしいのよ。さっきから公共ナビゲーションシステムにアクセスして、クラブ音音への最短経路を検索してるんだけど表示されないのよ」

「じゃぁクラブ音音のもうちょっと奥にあるオクトパスカフェで検索してみたら?」

「……なにこれ!」

「どうしたの?」

「オクトパスカフェへの最短経路表示したら、思いっきりクラブ音音が迂回されてるんだけど。……周辺のどの店を検索してもきっちりクラブ音音周辺だけ迂回される」

「えぇぇ、帰れないじゃない。店長に電話してみる」

「…………どうしたの?」

「繋がらない……」


 通行止めされた道路を進んだ先、ビルを挟んで彼女達の裏側では数体の軍用中型パワードスーツと、十数人の都市迷彩を着た兵士が佇んでいた。

 一人の兵士が持っている銃の弾倉をカチャリと外してチェックし、カシッと小さな音を立てて装着しなおす。

 ほんの僅かな音と共に、風がかすかな粒子をビルの裏側へと運ぶ。

 かすかな音を聞き逃さず、鼻でその粒子を探知した一人のホステスが他の二人に話す。


「ナギサちゃん、レイコちゃん。今日はもう帰ったほうがいいわよ。

 二人のことは私が店長に伝えておいてあげるわ」

「アイちゃんどうしたのよ急に真面目な顔になって」

「不安になるじゃない」


「あとノドカちゃんに連絡して『コード・レッド』と伝えておいて」


 アイと呼ばれたホステスはバッグから体に見合わないサイズの拳銃を取り出すと両手で構え、近くのビルの中へと駆け込んでいった。


「どうする?」

「とりあえずノドカちゃんに連絡するよ。今日は確かお休みだったから家に居るよね? ……ノドカちゃんっと……、あ、もしもし? 買い物中?

 なんかね、意味が分かんないんだけども、アイちゃんが『コード・レッド』と伝えてって……え? うん。分かった。気を付けてね」


「どうだった?」

「今から急遽出勤するって。後私達は帰っていいって」

「一体何が起こってるんだか……バイトの私達が知らない闇が多すぎるわね……」



 クラブ音音のVIPルームにて、カムイはさらに質問を続けていた。


「アンダーワールドの『訳あり逃亡者の居住区画』の居住は普通は許されず、そのトップへの口利きが必要だと聞く。

 それをせずに住もうとすると引きずり出されるそうだ。

 何度か……元俺の依頼人に会いに行ったことがあるが、周囲の人間は分かる人にしか分からないが、本当のVIP級の人間ばかりだった。

 あの区画を管理するトップは俺程度では会ってもくれないらしい」

「ノア・ウッド。『訳あり逃亡者の居住区画』のトップの名前よ。

 通称赤目のノア。

 元アメリカのCIAエージェント。

 アメリカ大陸での暴走したAIとの闘いで先頭に立って人々を鼓舞していたが、キリング・シャッターと呼ばれる暴徒鎮圧ロボの閃光を直視して視力喪失。

 両目に赤く輝くルビーのような人工眼球をはめているわ」


「アメリカ……軍用AIの反乱で機械に制圧された大陸か」

「そうよ。彼は大陸に残された人々を救出する手段をずっと模索しているわ」

「初めて聞いたぞ……、生きた人間が残っているのか!」

「えぇ。人類がアメリカ大陸で敗北してすでに数十年が経過しているけども、まだ生き残って抵抗を続ける人々が居るのよ。

 赤目のノアはレジスタンスのリーダー、カイが片割れを入手したプログラムP-Xを求めている。

 祖国の機械達を一網打尽に出来る切り札としてね」


「P-X、たしか軍用ソフトウェア研究者のボルガ博士が開発を断念したプログラムですね?」

「完成しているわよ? でもそれは世界の軍事情勢をすべて塗り替えるほどの発明だった。

 ボルガ博士はありとあらゆる国や勢力に裏で付け狙われるようになったのよ。

 自分の命、それ以上にP-Xがよからぬ国へ渡る事を恐れたボルガ博士はソフトウェアミキサーを用いて、プログラムを二つの断片に分離したの。

 そして何を考えたのか……片方をレジスタンスのカイに盗ませたのよ」


「盗ませた……意図的にか?」

「彼はアンダーワールドの住人のアクセスしやすい場所にある研究所に片方を移し、彼らが電波ジャックを近くで行ったタイミングを見計らって、意味ありげな会見を行った。

 そしてその日、研究所には守衛がほとんど居なかった。

 状況証拠からして、意図的だったと私は考えているわ」


「話を戻そう。赤目のノアには……」

「私が頼んでおくわ。彼は絶対に断らないはずよ。

 彼の求めるP-X、そのヒントがそこのマキちゃんの中にあるんですもの」


 突如部屋の電灯が落ちて真っ暗闇となり、数秒後に再び明るくなる。


「何だ?」

「ちぃ、何が起こったの?」


 しばらくインフォメーショングラスを見てARパネルの操作をしていたちぃが答える。


「このビルへの電力供給が断たれ、自家発電モードになったようです。

 停電かもしれませんね」

「モニタールームへつないで頂戴」


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