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IN THE GAME ~勇者と魔王が戦争している異世界で俺は農耕する~  作者: yosshy3304
第一章 俺は異世界で『迷子』する。
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2-1

「マジで、ここは何処だよ……」


 周りを見渡せば大木と呼ぶに相応しい、樹齢何百年と判る木々がある。時々何の生物か判らない不気味な鳴き声が響き、俺は項垂れた。


 視線を前へと移せば、思わずと言った程度の力で殴ったにもかかわらず、グチョグチョに潰れた巨大な虎の様な生物の死体。もし憶測であろうと、当たっているのであればこの生物は、俺がハマりにハマったあのゲームに出て来る中級レベルのモンスターである『ウッドタイガス』であろう。


 ウッドタイガス、転生神の神殿のある町の近郊。深き新緑の森に出て来るモンスターであった筈だった。俺もこいつが落とすドロップ品を求めて狩りまくったから間違いない筈なのだが……


 いくらヴァーチャルだからと言って、こんな生々しい感触はなかった筈なのだ。特に戦闘と言う面においてヴァーチャルは、リアルでの他者を傷付ける事に忌避感が薄まる事を懸念して、厳しい制約が課されており、こんなグロイ映像や血のむせ返るような臭いは実装されなかった筈なのだ。


「ははは、なんで俺は『キッシュ』になってんだぁっ!!」


 俺の叫びにギャアギャア鳴く鳥の様な生物が驚いて枝から飛び立った。そう俺はあのゲームで作ったアバタ―、オーガと人のハーフである『ナイトメア』のキッシュになっていた。どうでもいいが名前の由来はフランス料理であったりする。


 このゲームのⅡが発売され、Ⅰは忘れ去れていった。グラフィックも動きも自由度も、そして解析度も何もかもが向上したⅡ。しかもこのタイプのゲームは自由度に重きを置く故にストーリーが大して組まれていない。だからこそ、ストーリーを見る為にⅠをプレイするといったプレイヤーも存在しない。だから中古でソフトは売られているが、それも投げ売り状態である。


 そんなⅡもまた、俺が大学3年の時にⅢが発売され寂れたと聞いた。一人暮らしを始めたものの、バイトにサークルに、新しく出来た友人と遊びにとそれなりに忙しく、だけど不意に出来る何にも予定の無い日の為にそこそこ別のゲームはしていた。


 大学を出て、就職活動し、そして会社の寮へと移る為、家を本格に出る為に一度実家の自室を大掃除していた時だ。懐かしいこのゲーム。売らずに思い出にと取っておいたそれを、押入れの奥から見つけてしまった。うわぁ、この旧型のヘッドセットも懐かしいものだと、オンラインプレイはもう運営側のサーバーが機能停止している為にプレイは出来ないだろうが、それでもオフラインなら出来るんじゃないかと、少し休憩の意味も込めて機動させてみたのだ。


「そしたらここっと。えっまじで!?」


 現実逃避を兼て、近くに地面の上へとはみ出した大木の根に座り込み、今までの事を思い返していた俺は閃くものがあった。もしこの肉体が、あの『村人』65レベルのキッシュならば、いや正しくそうなのであろう事は目の前のウッドタイガスが一撃であった以上、ステータスに能力向上の恩恵はあるのは判る。イベントリにアイテムが残っているのではないか。確かにⅡをする気が無かった俺だか、それでも収穫物や、育てきれなかった種の様なアイテムは大量に保持していた筈で、試しにとイベントリを開く様に空中で手を仰ぐ様な仕草をする。


「うわぁ……」


 何とも言えない感触。こう本来ならばそこにあると思って踏み出したは良いが、実はそこになくて少しだけふわっとする階段を踏み外したかのような、それを手でやったかのような感触と共に手が突如現れた漆黒の穴へと吸い込まれていった。


「アイテムは……感触はあるものの、アイテムボックスは使えるか。」


 ゲーム時代にはなかったイベントリ内のアイテムの、ゴツゴツしたりトゲトゲしたりする感触に戸惑いつつも、欲しいアイテムを思い浮かべるとすぐさま手に何かが当たった感触が帰ってきた。それを握ったまま手を引き抜くとそのアイテムが取り出すことができた。


「味は、あるのか。」


 シャリという音を発てて、取り出したアイテムである『情熱のリンゴ』を齧ってみたら瑞々しいにも関わらず、普段食べているスーパーのスイカ並みの甘さが口の中に広がる。この今居る世界が、食べ物系アイテムがあったとしても飲食という行為の出来ないゲーム内ではない事が判った。


「やっぱ、これ、あれだよなぁ…」


 よく二次創作なんかで読む異世界転移物。ゲームのキャラになって異世界を旅するあれである。というか何で俺はこんなに落ち着いているんだろう。普通こういった事態に陥ったのなら、もっと錯乱し叫んだりするのではないだろうか。なのに何故俺はこんなにも落ち着いており、しかもイベントリに入っていたリンゴを何の疑いも無く齧ったりしたのだろうか。


「まさか村人のステータス上昇補正?」


 ゲーム時代、確かにステータスには魔法の威力を左右する『知能(かしこさ)』という項目もあり、それも同じく21倍正確には2145%の補正が掛かってはいたが……


「判っかんないなぁ。そんなに上がったら脳味噌パンクすんじゃないかなぁ……まさか頑丈さも上がってるから平気ってか?」


 ブツブツ呟きながら腰かけていた木の根っこから立ち上がる。イベントリに入っているアイテムも問題なく使えると判った以上、今すぐどうこうなるという訳では無いが、何処とも知れない場所に遭難している事は間違いなく、こうしていても助けが来るのか判るはずも無く、気をつけながらでも探索する方が良いだろうという判断であった。


 ゲームをやっていた時の様な、未知を楽しむようなワクワク感を抑えるのに苦労はしても、悲観はしていない。帰れるかどうか判らないと言う事は、帰れるかもしれないと言う事でもある。


 モンスターが出る事はウッドタイガスの事で判っていたが、この身がキッシュであるのならば怪我等はしないし、逆に殲滅する事も可能だろう。まだまだキッシュの肉体に馴染んでいない。平和な日本で暮らしていた為、誰かを何かを傷付ける事に忌避感を抱いたとしても、先の様に咄嗟の行動だけでも十分だから。


「……ドロップアイテム、どうやって取るんだ……まさかあのグロテスクな物、触らなきゃいけない?」


 そう考えていた時、そう言えば倒したウッドタイガスから、ドロップアイテムを取っていない事に気付いた。ゲームならば、そういった何かを傷付ける事の忌避感が薄れる事を気にして、こういったグロテスクな映像は流れず、倒したモンスターは光となって消えていき、コインが地面に落ちるグラフィックとチャリンという効果音。そして『○○GDを手に入れた』という文章。更にドロップアイテムを手に入れた時は地面にアイテムが表示されていた。それに触れる事で取得する事ができるのである。


 だがいつまでたってもウッドタイガスだったものは光に等ならない。当たり前だがここは現実だと仮定できる世界で、ゲーム内では無いのだから。流石にぐちゃぐちゃになってしまったそれに手を突っ込んだり、触ったりすることは遠慮したいが、これから先何があるか判らず、ちょっとしたアイテムでも手に入るのならば入手しておきたい。


 頭に手をやり悩み、これは覚悟を決めて触るしかないかと思った時、不意に思いついた事があった。それを実行すべく、ウッドタイガスだったものに掌を向けた。

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