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「そこの馬車、止まれっ!!」
「今日はマーケ将軍閣下が勇者一味を捕らえた祭りだと知らんのかっ!!」
進む馬車を止める声が聞こえた。もう門の所まで来たらしい。
「知っている。そのマーケ将軍から許可を取ってきているっ!!」
「こ、これは宰相殿!?」
「な、何用でそれほど急いでおられるのですか?」
宰相が対応に出たことによって少々慌てている門番の二人。どうやらマーケ将軍派閥ではなく、また将軍閣下と閣下を付けている事から魔王派閥でもないという事らしい。どっちつかずの、所謂買った方につく中立の連中だという事だ。
「蝗害だ。ラウンド伯の領地が軒並みやられたという連絡が来たのだ。」
「ラウンド伯というと、宰相殿の領地にも接している……」
「いや、確か近隣最大の食料生産地であるバウンス候も接していなかったか!?」
「うむ、ゆえに私が出向き、直接指揮を執らなくてはならないのだ。ゆえにマーケ将軍も簡単に許可を出した。通してもらうぞ?」
「は、はっ!!」
何か重たい物が動く音がした。門が開いたようだ。
「一応、城下を出る際の確認を……」
「構わんが、急いでいるのでな。緊急で雇った交代人員しか居らんぞ?」
門が開き切る前に荷台の確認をしようとする門番。少しして帆の一部が開いた。
「う、うむ。問題は、ないな。……こいつは寝ているのか?」
「うす。夜通し走る気なので。それと、こいつ一度寝ると起きるまで絶対に目を覚まさないんで勘弁してください。」
「あ、ああ。」
再び帆が閉まる。開門、開門という声が聞こえ、徐々に徐々に速度を上げる馬車。門が再び閉じようとする音が聞こえ、その音から逃げるように馬車は走り出した。
「うまく行くもんすね。」
「古典的な方法ほど、誰もそんなバレバレな事せんだろうと油断してしまうものですよ。」
もう大丈夫だろうと言えるほどには距離が開いたのだろう、馬車の速度は緩やかになる。顔を出したキヤラが宰相と話している。
「それに蝗害が発生したのは事実ですし、マーケ将軍が許可を出したのも本当ですし。」
最前線で戦っているマーケ将軍にとって食料は文字通りの命綱。本当なら自分が出向きたいのだろうが。そこはそれ。流石に祭りの主役が居なくなることは出来なかったらしい。
例え敵対している派閥の人間だろうと、その人物が被害にあうかもしれないと考えると裏切られるとは考えなくてもいいだろうと判断したのだろう。
「皆さん、一応言い訳用に王様飛蝗退治は期待してもいいんですよね?」
「ああ、王様飛蝗は農家の天敵だからな。一匹残らず退治してやる。」
王様飛蝗。巨大な飛蝗であり巨大な群れを作る。食欲は旺盛で、植物という植物を食い荒らしてしまう。ただし王様飛蝗の糞は栄養価が高く、また植物の種を消化せずに排出し、食い荒らした田畑を森に替えてしまったという話も聞く。
この王様飛蝗、コッケイオウの主食とも言われ、ゲーム時代ではどんなにこっちの防御力を上げても、必ず1のダメージを与えてくる嫌な奴であった。しかも複数で出現し、雄でも卵を産む。それはゲームの仕様上の話かもしれないが、卵を持っている個体に物理攻撃を与えると、大量の子供を産み落とす。そんな嫌な奴である。
「何か注意する事ってあります?」
「……まず大丈夫かな?コッケイオウに啄んでもらう心算だし、あー……っと、一応攻撃する時は火属性のエンチャントは必ずってとこかなぁ?」
俺の言葉にシヤさんは小さく頷く。と足元から呻き声が聞こえた。
「馬車、馬車止めてっ!!」
俺の言葉に馬車が緊急停止。
「シヤさん!」
「大丈夫です、傷が開いたと言う訳ではなく、どうやら悪夢を見ている様です。」
勇者一行の少女の様子を見ているシヤさんに問えば、少女はただ寝言を言っているようだ。思わず安堵の息を漏らした。
まぁ今ので判っただろう、俺達は宰相に雇われた傭兵という設定なのだ。キヤラは鬼の傭兵団だし、シヤさんと俺、それに毛布を掛けられ顔を隠している少女の4人で傭兵をやっているのもそれほど珍しくもなく、だからこそ簡単に誤魔化せた。
「あまりに酷い様ならこれ、飲ませておいて。」
俺は例の眠りの実をシヤさんに渡す。
「大丈夫、ただの寝言だったみたい。」
俺の言葉にホッとした空気が流れ、再び馬車は走り出した。




