7-外伝 魔王カイラクスside3
「すごい威力じゃの……」
私は目の前で倒れ伏す二人の看守を見てそう呟いた。
昼間キッシュから渡された木の実を砕き料理に少々振りかけただけで、少しの物音では起きないと思わされるほどの威力を発揮したのだから。
「それにしても、曲がりなりにも魔王じゃぞ?」
ぶつくさと寝てしまう前に言われた言葉に愚痴りつつ、看守の一人が落とした鍵の束を拾い上げる。
「おっと、いかん。流石にこやつらも拷問はまだしとらんだろうが…」
牢に閉じ込めているキッシュ達が心配になり、足は早足に。物音は発てずにそれでも気が急ぐ。
「無事かっ!?」
「何もされなかったって、それよりも上手く行ったな。」
私は返されたキッシュの言葉にほっと息を吐く。見た所何処にも怪我はなさそうだし、隠している様子もない。
「うむ、キッシュに貰ったこの実は効果抜群じゃの。」
手の中の余った木の実をキッシュに返しつつ、効果の結果を告げればキッシュは判っていたとばかりに頷きを返してきた。
「急ぐぞ、治療もしなけりゃいけないし。」
「うむ、死んでしまっては元も子もないしの。こっちじゃ!」
それよりもと口には出さなかったが、目が言っていた。キッシュにとってはこの恐ろしい木の実も簡単に手にはいる物だという事だろうか、返すように差し出した木の実は受け取っては貰えなかった。
キッシュの言葉に先導してキッシュの入っていた牢の前の牢の扉を開く。
「これは……ひどい。」
「息は……ある!!」
至る所に裂傷、内出血を起こし紫色に変色した打撲痕、噴き出しては乾いたのだろう赤黒くこびり付いた血痕。腫れ上がり元々は人族では綺麗な顔立ちだったのが醜悪なそれに変わっていた。
キッシュの仲間の一人が気絶している少女の口元に手をやり息をしている事を確かめた。
「処女は散らされていないようです。」
「傷は、これ使ってっ!!」
再びその女性、確かシヤとか名乗ったか。が少女の股間の辺りを弄り、懸念の一つを確かめていた。人族には処女を大切にする風習があった筈。もし魔族との子を疑われれば、下手をすれば殺してしまうより問題になるかもしれない。
キッシュが再びアイテムボックスから瓶に入った薬品。キッシュの言葉を信じるのならば傷薬なのだろう、それを少女に振り掛ければたちまち傷が治ってしまった。
「効果が高すぎんか?」
「そう?これでも抑えたんだけど……」
キッシュの言葉に唖然としてしまった。いや普通の傷薬はここまで効果はないからの?振り掛けた直ぐに傷が塞がるとかありえんから。だがその時は急いでおり、そんなものかと納得してしまった。
「キヤラっ!!」
「うす!!」
キッシュの掛けた声にモーブが短く返答し、少女を背負う。
「カイラクス、抜け穴ってどっち?」
「こっちじゃ、付いてまいれ。」
キッシュの言葉に私は見た目落ち着いた様子で先導して走り出した。
「ふぅ、ここまで来れば安心じゃろう。後は宰相に任しておく。」
「ええ、お任せ下さい。さぁさ、こちらです。」
牢屋の奥の牢の壁の一つが抜け、地下通路が城門の外まで続いており、そこを通って東側城壁の外に顔を出した。目の前には宰相。先に来て待って貰っていたのだ。
「私はもう一度帰らなければ怪しまれてしまうからな。」
「ですね。キッシュ様たちは私が責任を持ってお連れ致します。」
「頼んだぞ。キッシュ達も宰相は信頼できるので安心してくれ。」
なんとなくキッシュとは近いうちに再開できそうな予感がして、別れの挨拶もそこそこに私は来た道を戻り始めた。これからもう一芝居打たなければならないからだ。
「またな、カイラクス。」
キッシュの言葉に後ろ手に手を振りながら、暗い雰囲気の通路を進み始めたのだった。




