7-外伝 ユウキside
パチっと火花が散った。カランとユウキによって投げ込まれた薪が音をたてる。顔を俯かせ、一言も言葉を発さない。リーンリンと虫の声の方が遥かに大きい音をたてる暗闇に、ユウキと同じく火を囲むヘイサンとパロットは居心地が悪かった。
「仕方ないですって、ありゃ旦那が悪い訳でも無し……」
「それでもだ。俺が不用意に隊列を離れなければ……、俺、何やってんだろ……」
最初に火の番をかってでたのはヘイサンであったが、ユウキが中々その場から動こうとしなかった。そうなればパロットも自分一人寝に行くのも具合が悪く感じ、こうして夜も更けた時間に三人火を囲んでいた。
パロットの何とかしろという視線を受け、落ち込むユウキに声を掛けるヘイサン。昼間の失敗を慰める言葉を出そうにも、学の無いヘイサンには上手い言葉が見つからない。結局ありきたりな言葉でしかなかった。
「リリィ……」
ヘイサンの言葉で更に落ち込み、ただただ魔族軍の幹部に連れ去られた少女の名を呼ぶだけである。
ユウキのパーティーは順調にレベルアップを果たしていた。元から高レベルのユウキはともかく、戦士のヘイサンは高威力の攻撃と重厚な防御力が特徴の上位職業である重戦士へとなっていたし、ハンターのパロットはトラップ等の発見解除の他、自身の気配を殺し、対象に気付かれないまま、先手を取る事の出来る忍者へと着実に強くなってはいた。
リリィもまた神官や呪術師の職業を取り、魔法攻撃や回復に補助魔法と後衛を極めつつあった事もあり、最前線へとまだ出る事は出来ずとも、前線の空気に触れる事は出来るだろうという判断で、前線よりの山脈の裾辺りにまでやってきたのだ。
モンスターのレベルがグンと上がって苦戦する事も多々あったが、それでも慎重に行動すれば何の問題も無い程度。だからこそ油断していた。
前線部分にある関は一つと言う訳ではないし、前線も時には魔族軍が押し込んで来たり、逆に押し返したりと打ち付ける波の様に行ったり来たりする。
たまたまだ。そこはまだ前線とは呼べない場所で狩りをしていたユウキ達勇者パーティーは、少しばかり山脈に近すぎていた。そこに魔族軍が押し込んできており、山脈を抜けた場所で反撃に転じようとして、背を見せ逃げて来た人族領の兵士。そのうちの一人が切られた痛みで叫び声を上げた。
場所柄山彦の様に響き、それを聞いたユウキ達はすぐさま引き返す事で合意したのだが、離れた場所に居た為に事情が分からない。その為ユウキが単身調べに行くことに決まったのだ。パーティー単位よりも一人の方が良いだろうし、ユウキならその能力で逃げ切る事は出来るだろうし、何より回復もこなす。
決まればすぐさま動き出し、山脈の入口付近でユウキが見たのは、頭部のない兵士に殺到するデスコンドルという怪鳥の群れ。何があったと調べようとした瞬間、傍にあった茂みに隠れる。魔族軍が引き返してきたのだ。その後ろからは人族の兵士達。ただ何やら慌てている。
「旦那、旦那!!大変ですぜっ!!」
「……どうしたってんだよ?」
「す、すいやせん!!姫様、捕まっちまいやしたっ!!」
「な、なにっ!?」
その兵士を追いかけるようにしてユウキの元までやってきたヘイサンの告げた言葉に呆然とするユウキ。
「な、なにをやってんだよ!?」
「すいやせん、本当に、本当にスイヤセンってか?」
「うおっ!?」
ユウキの慌てた言葉にペコペコと頭を下げていたヘイサンだったが、ユウキが呆然と魔族軍の方へと振り向いたのを待って、背負っていた大剣をユウキへと振り下ろした。たまたまだ。そう、たまたま。ユウキの足元に落ちていた小石に躓き、振り下ろされた大剣を避ける。
「な、何をするんだよっ、ヘイサン!?」
「あはは、本当にスイヤセンねぇ、勇者様?」
「お、お前、ヘイサンじゃないなっ!!」
「ええ、俺は魔王軍マーケ将軍配下、四星天が一人ヘイホーロと言います。お見知りおきを?」
ヘイサンだった人物の背中から昆虫の足が四本出現。顔も毛で覆われ、奥に赤い光を放つ目の様なものが左右合わせて16個。
「く、蜘蛛?」
「ええ、正解ですよ。」
手足を含めれば八本、目の数もその長毛もタランチュラをどことなく連想させる。ユウキがぽつりと溢した呟きに、ヘイホーロがパチパチと拍手を送った。




