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6-4

 暗闇の中、物音一つたてずに移動する影があった。こそりこそりと忍び足。衣服の衣擦れの音すらない。影の視線の先、そこには一つの膨らみがあった。


 くつくつと内心で影は笑う。後数歩の距離。音をたてれば見つかるかもしれない。だが口元はにんまりと歪められ、だが慎重に慎重に足を進める。後一歩の距離で一度足を止めた。そして……


「さぁ、子作りしようではないかっ!!」


 その影、セキノモリノヒメは膨らみ、キッシュに向かって飛び掛かった。


「……させるわけないでしょっ!!」

「ふぎゃっ!?」


 そんなセキノモリノヒメを布団が襲う。いや正確には布団の中にいたイクスが、布団を捲り上げるようにしてセキノモリノヒメを捕獲した。


「ちょっ!?裸、裸っ!!」

「あら、ありがとう。」


 そんなイクスは素っ裸。布団でセキノモリノヒメを捕獲して居る為に隠す物が無い。慌てて俺はイクスに傍においてあったタオルケットを掛けると、イクスはセキノモリノヒメを布団に閉じ込めたまま俺の方を向いて感謝の言葉を笑顔でいう。差し込んだ月明かりで見える白い素肌に赤く充血した縄の後を隠すように、もう一枚掛けてやる。


「ちょ、出さんか、こりゃっ!?」

「キッシュはそういう事嫌いなんだって言わなかったかしら、私。」

「そりゃお主の主張じゃろう!?」

「あら、キッシュも嫌よね?ねぇ?」

「あ、はい。」

「ほらみなさい。」

「今っ、今、言わせたじゃろうっ!!絶対っ!!」


 もごもごと蠢く布団の塊。ぐるぐるとセキノモリノヒメを巻き込んだ布団の塊の左右を、何故か傍にあった縄で結び、キャンディーのようにしてしまう。


 体勢的に力が入り辛いのだろう、セキノモリノヒメが出せぇ!!と叫ぶも、イクスは満足気に頷き拒否。それどころか威圧感すら伴う笑顔で、何故か俺の好き嫌いを決定されていた。


 セキノモリノヒメがその事を指摘するも、威圧感を伴う笑顔のまま振り向き訊ねられたら、恐怖で頷くしか出来なくなる。


 ぎゃいのぎゃいのと、一見すると布団で作られたキャンディーと口喧嘩する裸の美少女というシュールな光景を背後に、脱ぎ捨てられていたドロドロになったブルマを回収し、洗濯する為に風呂場に持っていく。


 決して逃げたわけではないと言っても、説得力はないけどなぁ。と誰に向かって言い訳しているのか判らない現実逃避しながら。


「でもなぁ。寝なくてもいいってのはどうなのかねぇ。」


 鬼族は元々高い体力と回復力で夜通し動き回っても平気である。疲れたのなら一時間程度体を休めればなんの問題も無い。


 サキュバスは精気さえあれば生きて行けるし、眠る必要さえないのだ。……だからこそ俺が来るまでイクスは夜は寝ていたらしいし、ハーゲテーナイも夜は普通に眠る。


 真夜中と言えど外はまだまだ騒がしい。野生のトロールが徘徊しているらしいという事で、一応程度の警戒はアニーキ達がしてくれているが、それ以外も月見酒という名目で宴会をしているようだ。


「セキノモリノヒメも普通に寝たらいいのに。」


 俺を襲わずに。毎回の事だが朝は眠そうにしている。九尾の狐と言えど、鬼やサキュバスとは違い、猫に近い習性をして居る為か睡眠時間は人と比べても長いとパッセが言っていた。


 そのパッセは隣の家でぐっすりと夢の中であろう。


「なんだ?」


 ボー……としながら洗濯をしていると、外が先程までの騒がしさと違っていた。なんというか、酔っぱらいが騒いでいるというのとは違い、こう喧嘩しているかのような、そんな騒がしさだ。


「まさか、喧嘩でも始まったのか?」


 そう思い俺は服を着て外へと出た。






 その影はぐふぐふと嗤う。獲物を探してさまよい、腹を空かしていた。ズブンとその巨体に見合う体重が足を進めるたびに音をたてた。


 その音に獲物は影から遠ざかる。影は腹を満たせない事に怒り、それゆえに全身から不機嫌な怒気を発し、そしてさらに獲物が逃げるという悪循環をもたらしていた。


 目の前にある木々に持っていたこん棒を叩き付ける。


 ミシミシとこん棒を叩きつけられた木が折れ、その影は少しばかり機嫌が直った。だが腹の空きが満たされることは無く、すぐさま不機嫌になり森の中をさまよい歩く。


 突如目の前に壁が現れた。自分の行動を邪魔されたかのように影は感じて、その壁に向かってこん棒を再度叩き付ける。


 嫌な臭いを発するその壁は崩れ、影はその奥に食料となるものがある事に気付く。


 腹を空かしていたその影は、その食料に手を伸ばした。量は決して満足するような量ではなく、味も不味く感じるが、それでも腹を満たさねければ動けなくなることを影は感じていたからだ。


 こん棒を持っていない方の手でその食物を掴み取り引っこ抜くと、大きな口で嚙み千切る。グブグブと腹が膨れる事に嗤い、影はその場に座り込んだ。






「ああっ!?」


 俺は目の前の光景を信じられずに居た。せっかく収穫まで後一日といった所まで育った水米が、何かに荒らされ、なぎ倒され、水につかった状態で腐り始めている。


「お、俺の米がぁ……」

「こりゃ、トロールがこの辺まで来てたって事だなぁ。」

「……すっね。」


 騒ぎを見に行った俺を、アニーキが呼んで、水米を栽培していた場所まで連れてこられたらこの現状である。


 その傍には大きな足跡と何かが座ったかのような跡が残っていた。水米の栽培地だけあって、この辺りは沼地。ぬかるんでいた為だ。


 その後を見て、この村の、一応村の中にあたる場所まで野生のトロールが来ていた事になる。


「なんで、魔物除けはあった筈なのに。」

「腹空かしてたんだろ?野生化してるから本能が勝ったっておかしくはないだろ。」

「ここっすね。」

「うわぁ……」


 傭兵団員の示した先には崩れ落ちて大きな穴をあけている壁があった。魔物除けのロープがむき出しになっていた。

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