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6-2

「古代デマール語で通じるかっ!!」

「ごおふっ!?」


 目の前のトロールに敵意が無い事は判るんだが、話が判らない事に困っていると、そのトロールの後ろから知っている声で突っ込みの声が上がる。突っ込みの声と同時にトロールが苦悶の声を上げ、俺の方へと飛んできたが。


「あぶねっ!?」

「けばぶっ!?」


 俺の傍には水米が植えてある。もう少しで収穫出来そうなのだ。トロールの巨体で押しつぶされてはかなわないと、飛んできたトロールを真横に蹴り飛ばした。トロールは二回転ぐらいし、壁にぶつかり止まる。目を回したようで動かない。


「何すんだよアニーキっ!!」

「……いや、蹴とばした俺が言うのもなんだけど、……流石にひどくね?」


 蹴り飛ばした時の体勢のまま、目を回したトロールの方を指差しながらアニーキが呟いた。






 トロールという種族は、魔族にとって少しばかり特殊な種族である。それは知能のレベルだ。魔族と魔獣の差と言われるのが、この知能が一定水準に達しているかどうかという点である。要は言語を持っているか、決められた法律を守れるかという事だ。


 そしてトロールはこの水準を満たす線ギリギリの所で行ったり来たりしている種族なのである。知能があるトロールは魔族扱いされ、無いトロールは魔獣扱いされる。それは仲間のトロールからもであり、またこの知能は生まれつきの才能が物を言う。


 生まれつき知能が低く、行動がまんま獣なトロールはそれぞれの村で処分されるのだが、やはり自身の子がかわいいのか、本来ならば処分されなければいけない知能の低いトロールを、その親トロールが庇い逃がしてしまう。


 そんなトロールが野生化し、時には町の傍で大暴れする事もあり、時たまに傭兵ギルドへと依頼が入るそうなのだ。


 そしてそんなトロールがこの近辺で見かけられたとのこと。近辺とは言っても、大陸の魔族側の中層域から前線よりの部分。その討伐にこの村を拠点にさせて貰えないかという話であった。


 元よりアニーキ達鬼の傭兵団にとっては、この村はこの辺りで活動する時の拠点替わりだったので問題はないが、それよりも問題は、アニーキが連れて来たこのトロールだ。


 このトロールは魔族扱いされる方のトロールで、アニーキ達と同じ傭兵ギルドに席を置くもの。ただし傭兵団の様な複数人で活動するのではなく、人手が足りない時に他の傭兵団に助っ人として手伝う個人活動型の傭兵だ。


 何回かアニーキ達も手伝ってもらっており、顔見知りなうえ仲がいい。今回の魔獣のトロール狩りもこのトロールが依頼され、アニーキ達に手伝ってほしいと話を持ち掛けて来たのだそうだ。


「だからって連れてくんのは……」

「すまんって。でもこいつもトロールだけあって事情話せば黙ってくれてるさ。」


 トロールは魔獣扱いを受ける個体も居るだけあって、他の魔族からの受けはすこぶる悪い。下手に被害が出る前にトロールの村を襲撃してしまえという話もよく持ち上がるそうで、だからこそトロールの村も、うちの村のように隠れている。知っているのはトロールぐらいだと言われている程に。


「なあ。」

「お゛お゛。おで、黙っでる。」


 濁音ばかりのなんとも聞き取りずらいが、目を覚ましたトロールは普通に共通語を喋っていた。共通語でその見た目に似合わないビシッとした無駄に姿勢の良い座り方をして、アニーキの同意に答えていた。


 目を回したトロールを介抱する為に、とりあえず鬼の傭兵団の使っている宿屋擬きまで連れて来たのだ。そこで話を聞いていた。


「でも、いきなり古代デマール語は無いだろ。」

「ずま゛ん。でも゛、おで、ぎょうづうごば、にがででざ。」


 き、聞き取り辛い。取りあえず、魔獣ではなく魔族のトロールであるという証明の為に喋りかけるというのは、身を守る為の常套手段なのだそうだ。一応程度だが喋りかけてきたトロールを魔獣扱いし故意に怪我させたりすると罪に問われたりする。


 その為、俺と顔を合わせた時に喋りかけて来たのは魔獣ではないという意味もあったのだが、慌てていたのか昔の鬼の一族の内でも極少数のみが使った古代デマール語で喋りかけてしまったのだと。


 今は使われておらず、ましてや使う一族もどこに行ったのやら。一部知識としては残っている程度らしい。


「あどば、とろ゛ーぐごのぼうがらぐだで。」

「いや、あれは俺達には聞き取れないから。」

「トロール語?」

「ああ、一応だが魔族扱い受ける為には言語を持っていなけりゃいけないからな。共通語なんだが、トロールの独特な発音の仕方をするもんだから俺達には聞き取り辛いぞ。」


 古代デマール語もそうだが、ゲーム時代に設定だけ出て来た言語が目白押しで、なんだかんだとゲームに嵌っていた俺は興味を持ち訊ねた。


「ずごじ、じゃべっでみようが?」

「うん、お願いする。」

「なんで、こいつはこんなに興味深々なんだ?」


 アニーキが俺の様子に顔を手で覆い隠してしまった。


「………ひ、……………はぇ、…………ぉ。」

「………なんて?」

「だろうと思ったよ。」


 話しかけて貰ったんだが、ほとんど聞き取れない。ただ音自体に強弱や音階の様なものが辛うじて聞き取れる事から、何か喋ってんだなというのは判る。一言で感想を言うとしたら、あれだ。薄い。


 トロールは厚い脂肪に体中が覆われた種族だ。当然喉もまた厚い脂肪に覆われ、発音する時に喉を震わせても、その振動を脂肪が吸収してしまい、ほとんど音にならない。また高い音の様な、喉を閉じてしまう発音は出来ず、だからこそ喉を全開にして喉をほとんど震わせない言語が発達したのだらしい。


 普段からこのトロール言語を使っているトロール同士では問題は無いが、他の種族では聞き取れないのが普通だったり。


「おでば、どろ゛-るのデガッザだ。」

「……そういや、紹介してなかったな。」

「あ、ああ、うん。俺はキッシュ。」


 俺の態度に慣れていると言わんばかりに苦笑していたトロールだったが、ある程度俺とアニーキの喋りが終わると、手を差し出し名前を告げて来た。そこでアニーキがまだ紹介していなかったと思い出し、俺もその手を取り名を告げる。


 ただ、発音から考えるのならそのまんまのデガッザではなく、もしかするとテカッサ? いやデカッサ?ややこしいのでそのまんまデガッザと呼ぶ事にする。


「でだ。なんかあった時の責任は俺が取るから、何とかこいつもこの村を使わせてくれねえか。」

「うぅ……、一応、ハーゲテーナイとイクスにも聞かなきゃならんけど、一応俺は良いけどさ。」

「すまんな。おい、ハーゲテーナイとイクスの嬢ちゃん達を呼んできてくれ。こいつの紹介も一緒にするぞ。」


 アニーキが頭を下げ、デガッザもこの宿屋擬きを使わせてくれと頼みこまれ、俺はハーゲテーナイとイクスに丸投げ。すぐさまアニーキが傍で俺達の様子を見ていた配下の鬼に命令を出し、二人を呼んでくるように言う。


 呼ばれてやってきた二人が許可を出し、そしてデガッザが一時的にこの宿の住人となった。

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